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メガバンクが踏み出したフィンテックはじめの一歩 CEATEC JAPAN 2017

CEATEC2017のMUFGブース 2017年10月6日撮影

CEATEC2017のMUFGブース 2017年10月6日撮影

 10月3日から6日まで、千葉市の幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2017」。今回は特別テーマエリアとして「IoTタウン2017」が設けられており、新たなビジネスモデルにつながるアイデアや、パートナーとの共創の成果などが発信されていた。ここには、住宅メーカー、自治体、大学、ベンチャーなどジャンルを超えたさまざまな企業ブースが集結していたが、とくに目立っていたのが金融グループの出展である。

ダンベルを振るともらえる?MUFGコイン用自販機=幕張メッセCEATEC2017にて 2017年10月6日撮影

ダンベルを振るともらえる?MUFGコイン用自販機=幕張メッセCEATEC2017にて 2017年10月6日撮影

 三菱東京UFJフィナンシャル・グループ(以下「MUFG」)のブースは、デジタル通貨「MUFGコイン」、AIによる応対ロボット「NAO」などの展示などで多くの参加者を集めていたが、とくに注目されていたのがオープンAPI「MUFG APIs」。説明をしてくれたのが、MUFGの共創相手であるfreee株式会社PRチームの辻本祐佳氏だ。freee社といえばクラウド型の会計ソフト/給与計算ソフトで高いシェアを誇る会社だが、規模的にはベンチャーといえよう。MUFGというメガバンクのブースで、ベンチャー企業の担当者が説明にはり付いているというのは、フィンテック技術の展示ならではだと新鮮な印象を受けた。

MUFG主催ハッカソンでの大賞がきっかけで

 辻本氏によると、共創のきっかけはMUFGが主催した「Fintech Challenge 2015』というフィンテックをテーマにしたハッカソンイベントで「銀行振り込みを利用した新たなモバイル決済プラットフォーム」をプレゼンし、freee社が大賞を獲得したことだ。その後freee社は、三菱東京UFJ銀行の法人向けインターネットバンキング「Biz Station」と連携を進化させ、更新系APIを活用したサービスを開発するに至った。銀行のインターネットバンキングと同社のクラウド型会計ソフトfreeeがシームレスにつながり「請求書を撮影するだけで振込依頼までがシームレスに行えるサービス」が実現したのである。

Biz Station とfreeeの連携。(freee社プレスリリースより)

Biz Station とfreeeの連携。(freee社プレスリリースより)

 この便利さは、一般のビジネスパーソンにはピンと来ないかも知れない。しかし、freee社が顧客としている中小企業は、経理部門のマンパワーが足りず、振り込み手続きなどの煩雑さで常に悩んでいる。これが、ネットバンキングにいちいちログインせずとも会計ソフト上で請求、振り込みから仕訳まで完了すれば、大幅に便利になる。また、請求書から振込伝票への転記時にもミスも減るだろう。

 とはいえ、お金の振り込みは重大事だ。撮影したデータだけで、振り込み完了まで自動でなされるのは心配では?と聞くと「最後の認証は人がやるようにできています」と辻本氏。領収書などをスマホで撮影して仕訳管理するなど、クラウド会計ソフトの機能は近年進化しているが、この振り込みの連携を可能にする更新系APIを利用した「振り込み申請機能」の提供は国内初のことらしい。

金融機関に迫るオープンイノベーションの波

 この、MUFGとfreee社の共創に見られる、老舗金融グループとベンチャーの共創活動の背景には、銀行法の改正がある。2017年5月、改正銀行法が参議院で可決し、2018年春にも施行される見通しだ。その内容は、金融機関にオープンAPI公開の努力義務を課すもの。つまり、ベンチャーなどのテクノロジーや発想の力を借りて、どんどんフィンテックを推進しなさい、と銀行にオープンイノベーションを求めている。MUFGは銀行法の改正に先だって、2017年3月にオープンAPI「MUFG APIs」を発表。freee社以外にも連携する相手を続々発表していく構えだ。

AI応対ロボット「NAO」幕張メッセCEATEC2017にて 2017年10月6日撮影

AI応対ロボット「NAO」幕張メッセCEATEC2017にて 2017年10月6日撮影

 MUFGブースではオープンAPIの他にも、ダンベルを振ってMUFGコインをもらおうという余興が開かれ、多くの参加者を集めていた。MUFGコインは、同行内で試験導入した「1コイン=1円」デジタル通貨で、今回のCEATECではじめて公開された。さらに、AIによる窓口応対ロボット「NAO」も注目を集めていたが、MUFGブース担当者によると、銀行窓口の応対業務は複雑であり、まだまだロボットだけでは対応できないのではないかと慎重だった。

 CEATECで存在感を増す金融機関

 仮想通貨やAIなど話題の技術やサービスを盛り込んだMUFGの展示だが、フィンテックの本命はオープンAPIだ。同じく「IoTタウン2017」に出展していた三井住友銀行でもAPI接続サービスが発表され、マネーフォワード、OBCなどのクラウド会計事業者との連携が説明されていた。金融機関側には、これまで囲い込んでいたデータを開放することに対する不満や、APIを維持するコストの問題、さらに接続相手の信頼性などセキュリティ面での不安はあるようだが、この流れはもう止められないというのが現実だろう。

 今回、金融機関のブースでの取材のなかで担当員が、「私は家電やエレクトロニクスが好きで、学生時代にCEATECに来てました。しかし銀行に入って、まさか自分が出展側になるとは(笑)」と語ったっていたが、当事者でさえ戸惑うほどの進化が金融業界の足元にも来ているようだ。

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ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。