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札幌「No Maps」はAI時代の開拓者を生み出せるか

「No Maps 2017」札幌にて

「No Maps 2017」札幌にて 

 一足早く紅葉の盛りを迎えた札幌市の中心部で、10月5日から15日までの間、総合コンベンション「No Maps」が開催された。昨年のプレイベントに続き今年正式な第1回目となったこの催しでは、起業家の支援などを目的としたカンファレンスや交流会と、映画祭や音楽コンサートなどのエンタテインメント系のイベントがこの期間集中的に行われた。クリエイティブやテクノロジーに興味ある人や企業を集めて、新しい出会いや、付加価値を北海道から生み出そうという試みだ。

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 カンファレンスは、近年ブームともいえるAI(人工知能)に関するものが目立った。その中で「農業、漁業、産業、観光、そしてAI」と北海道らしい話題を取り上げたセッションをのぞいてみた。

セッションのコーディネーターを務める公立はこだて未来大学副学長の松原仁氏

セッションのコーディネーターを務める公立はこだて未来大学副学長の松原仁氏

 冒頭にこのセッションのコーディネーターを務める公立はこだて未来大学副学長の松原仁氏から、日本での人工知能に関する取り組みの歴史と現状の説明があった。さらにAI活用の事例のひとつとして、SAV (Smart Access Vehicle)と名付けられた公共交通システムが紹介された。これはタクシー(呼べばやって来るデマンド型)と路線バス(乗合い型)の長所を融合したもので、AIを駆使することで、目的地までの間に点在する乗り合い客を拾って、乗車効率を上げることができる。人口減少により、公共交通網が疲弊しつつある、北海道には有効なシステムだ。

 その後のパネルディスカッションのでは、最初に各パネラーが取り組む事例が紹介された。今後TPPによる深刻な打撃を受ける可能性がある十勝地方の酪農や、近年急激なイカの漁獲高減少に見舞われている函館近海の漁業など、北海道にはそれぞれの地域が抱える課題がある。それをセンサーやAIなどの新しい技術の組み合わせで解決することから始まり、将来的には地球規模の食糧問題への取り組みまでを視野に入れた事業(株式会社ファームノート)や研究(公立はこだて未来大学 マリン・ITラボ)が紹介された。

 ところで、このセッションセッションを聞く限り、北海道の現状に対する強い危機感がこうした実証実験やAIを利用したサービスに取り組むきっかけとなっている。北海道で起業する多くの人を駆り立てるのは、スタートアップへの興味や、成功者として認められることへの期待などといったことではなく、純粋に課題解決をしたいという思いなのであろう。

 農業、漁業などの一次産業が衰退し、札幌以外では地域の人口が急速に減少しつつある。その結果、街は衰退し、地域交通網は廃止の危機に直面している。しかしその一方で、日本では例外的な広い耕作地、大規模な酪農、豊富な観光資源など潜在力の高さを持っているのが北海道だ。これまでとは異なるアプローチ、これまで存在しなかった技術をもってすれば、北海道の課題は解決に向かい、潜在的な要素が活用され地域経済が復活するのではないか、という期待が、技術開発を進め、起業に取り組むモチベーションとなっているのだろう。

北海道大学教授の川村秀憲氏

北海道大学教授の川村秀憲氏

 問題は、この危機感がどれだけの広がりを持つかだ、北海道大学教授の川村秀憲教授が、パネルディスカッションで指摘したように、北海道の中小IT企業の多くは人月単価の受託開発が主体で、現状は充足している。あえて、資金調達し、新規の技術導入や事業領域にチャレンジしなくても当面の問題はない。ただ、このままでは人口が減少する今後、IT産業は右肩下がりとなってしまう。

 北海道の札幌市は、南北の対比で九州の福岡市と比較されることが多い。福岡市はここ数年、官民挙げて積極的に起業をサポートし、その成果が現れている。カンファレンスの中でも、登壇者が福岡の例に触れることが多かったが、その多くは「福岡は成果が表れてきた。それに比べて札幌はまだまだだ」という見解だ。しかし、この「No Maps」の取り組みなどを見るに、遅ればせながら札幌も土俵に上がろうとしていることは感じられる。

「福岡市も最初からうまくいったわけではない。何年か続けた結果が今につながっている。札幌市もこの取り組みを続けてほしい」(「“Spark! Innovation” meet-up in Sapporo」に登壇したデジタルガレージの執行役員の佐々木智也氏)とのコメントの通り、継続していくことが、危機感とそれに対する解決策の共有につながりだろう。課題も魅力も多い札幌は、日本中の起業を志す人々にとって新たなフロンティアになる可能性を秘めている。

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。