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日本にも増えるコワーキングスペース その活用方法は?

今回話を伺ったコイルの定塚氏(右)とフラーの櫻井氏(左)。フラーの専有オフィスにて

今回話を伺ったコイルの定塚氏(右)とフラーの櫻井氏(左)。フラーの専有オフィスにて

 ベンチャー企業の創業拠点といえば、かつての定番は「ガレージ(車庫)」。ヒューレット・パッカードが創業したガレージはシリコンバレーの発祥の地とされており、グーグル、アマゾン、アップルなども創業期の“ガレージ伝説”を持っている。その米国で現在、起業家たちが集い、スタートアップの拠点となっているのがコワーキングスペースだ。

 単なるレンタルオフィスとは異なり、オープンスペースが基本となるコワーキングスペースは起業家やフリーランスなど利用者同士の交流を促し、オープンイノベーションの拠点になる。最近ではこれに3Dプリンターなどの工作機械を備えたファブラボ(fabrication laborator)やスタートアップ向けの小規模オフィスを併設した施設もある。さらに施設の運営にかかわる自治体や企業が、経営相談や資金の支援まで手掛けるケースもあり、開業準備から起業後に必要となる要素までがその場で賄えてしまう。

 ここ数年、日本国内にもコワーキングスペースの開業が相次いている。米国から始まり、現在世界20カ国・地域でコワーキングスペースを提供するWeWorkも近日中に六本木、銀座などに開設する予定だ。日本では不動産を手掛ける企業の他にもリクルート、東急電鉄、コクヨなど多様な企業がコワーキングスペースを運営している。こうしたスペースを運営する側の狙いは何なのか。その運営ビジョンを聞くとともに、利用する側の声も聞いてみた。

郊外型コワーキングスペースは”日本版シリコンバレー”を目指す

 コワーキングスペースの多くは人や情報が集まりやすい都心部にあるが、広いスペースの確保や職住接近が可能なことから郊外で開設する施設もある。今回訪問したのは、つくばエクスプレス・柏の葉キャンパス駅近くにある「KOIL(以下「コイル」)」だ。この施設は、三井不動産が手がけるベンチャー共創事業「31VENTURES」が、首都圏に展開するコワーキングスペースやベンチャー向けオフィスのひとつ。東京大学や千葉大学のサテライトキャンパスがある柏の葉エリアに”日本版シリコンバレーの拠点“を創出しようというのが狙いだ。

3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーション機器が置かれたKOILファクトリー

3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーション機器が置かれたKOILファクトリー

 施設内には、広大なコワーキングスペース(約170席)のほか、アイデアを形にするための工作室(レーザーカッター、3Dプリンターなど完備)がある。また、区分けされた共用オフィスや人数が増えた企業のための専有オフィスも設けられている。

 今回はこのコイルの運営にたずさわる定塚(じょうづか)敏嗣氏(三井不動産ベンチャー共創事業部)に話を聞いた。

* * *

――コイル誕生のきっかけは。

 柏の葉キャンパス駅周辺には東京大学や千葉大学の施設があり、さらに、つくばエクスプレス沿線上には筑波大学や産業技術総合研究所(AIST)があるなど、この辺りは技術的なシーズが眠っているエリアといえます。そうしたことから、われわれは街づくりのテーマのひとつに「新産業の創造」を掲げたのですが、これを実現するための拠点として作ったのがコイルです。

――ベンチャー企業の支援を打ち出しているようですが、御社にとってどのようなメリットがあるのでしょう。

 現在、柏の葉キャンパス駅前は開発が進んではいますが、われわれはもっと壮大な計画を考えておりまして、駅周辺にも開発を広げていこうとしています。そのためにやはり大企業に集まってもらいたい。ところが現状では、都心から離れているこの場所に、大企業が移るメリットがありません。

 そこで、われわれは優秀なスタートアップをコイルから輩出することで、大企業が集まる理由を作ろうと考えています。というのも、世界各国を見ても、優秀なスタートアップが集まる場所には、それを取り込みたい大企業が集まる傾向にあります。われわれはコイルでベンチャー企業に成長していただくことで、大企業が集まるメリットを生み出し、誘致につなげたいと考えているのです。

コイルの運営について語る定塚(じょうづか)敏嗣氏(三井不動産ベンチャー共創事業部

コイルの運営について語る定塚(じょうづか)敏嗣氏(三井不動産ベンチャー共創事業部)

 三井不動産としてもここに集まったベンチャー企業の商品やサービスに良いものがあれば、積極的に導入し、実証実験やマーケティングの場なども提供しているという。さらに、スタートアップの弱点でもある、経理や総務、人事などバックオフィス関連の支援も行っている。

 ただし、現在コイルに登録している会員は約400名で、決して想定通りのペースで増えているわけはないという、また、周辺の大学や研究施設を巻き込んだ具体的な取り組みも進んでいない。「日本版シリコンバレーの創出」にはまだ道半ばというのが実情のようだ。

郊外型ならでは?温泉も活用して仕事を進める

 続いて、定塚氏が、一押しのスタートアップとして紹介してくれた「FULLER(以下「フラー」)」の代表取締役 COO・櫻井裕基氏に話を聞いた。

 フラーは、スマホ関連事業で急成長する新進気鋭の企業だ。2011年、つくば市内のアパートで創業し、2014年のコイル竣工からほどなくして入居。40平米の専有オフィスからスタートし、2年半で150平米ものスペースを占めるまでに拡大した。

* * *

――どのようなきっかけから入居することになったのですか。

 創業して以来、つくばエクスプレス沿線上を転々としていました。うちの社員が、あるオープンイノベーションのコンテストでコイル関係者に出会い、話を聞くうちに興味を惹かれました。共同代表(CEO)の渋谷が見学に行ったところ、「なんて素晴らしいところだろう」と即座に入居を決めました。

――何が魅力的だと感じたのでしょう。

 ベンチャー企業にとって良い環境が整っているところです。たとえば、施設内にKOILファクトリーという工房があるのですが、ここではレーダー裁断機や3Dプリンターが完備しており、ものを創りやすい環境があります。特に、コイル入居の決め手となったのが、拡張性が高いことです。

フラーの代表取締役COO 櫻井氏

フラーの代表取締役COO 櫻井氏

――”拡張性が高い“とはどういうことですか。

 社員の人数が増えたときに、その都度違う場所に引っ越すのは大きなコストになります。その点コイルには、会社の拡張に絶えうる箱があります。おかげさまでわたしたちは、入居以来2度オフィスを拡張しているのですが、そのサイズアップにもしっかり対応してもらえました。これはコストや手間を考えたときに非常に大きなメリットになりました。

 また、オフィス内のレイアウトどうしようかと考えていた際に、「そういえば(コイルの)共用スペースで出会った建築家がいるじゃないか」と。同じ施設にいる建築家なので打ち合わせもすぐにできます。私たちの会社のことも、共用スペースでのコミュニケーションを通してよくご存じだったので安心して依頼することができたのです。

――そのほか実際に入居して良かったことはありますか。

 都心からは時間がかかるので、不便だと思われるかもしれません。でも一度どんなオフィス(施設)なのか見てみたいという人は増えたんですよ。

 もうひとつ、会員特典で三井ガーデンホテルさんの天然温泉に入れるんです。これが良かった。朝お風呂に入ってから出社する社員もいますし、夜、じっくり話をしたいときには温泉に一緒に入って過ごすといったこともできます。

* * *

 櫻井氏との話を終えた後、都心のコワーキングスペースと郊外にあるコイルの両方を使っているという会員にも話を聞いてみた。都心のコワーキングスペースは、アクセスは確かに便利だが、1人あたりのスペースが狭いところが多い。それに比べると郊外にあるコイルは、ゆったりとしたスペースが確保でき、疲れたらベランダに出て緑を眺めることもできる。すぐそばにはショッピングモールがあり、食事や事務用品(東急ハンズ、ダイソーなど)が手に入りやすい。郵便局、銀行、コンビニもすべて近くにあるので、「生活と仕事が密着した便利さ」を感じるという。

 出たり入ったりが多い営業的な仕事は都心で、じっくりと研究したり、開発する仕事には郊外型の方が向いているかもしれないとのことだ。コワーキングスペースにもその立地や運営形態によって、適した利用方法があるようだ。

庄司健一 Written by
有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。