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バーコード不要のセルフレジも お店をサポートする技術はここまで来ている

「多種物体認識技術」を活用したレジのイメージ

「多種物体認識技術」を活用したレジのイメージ

 ここ数年、日本でもスーパーマーケットでセルフレジの導入が進んでいる。客が自分で商品についたバーコードを読み取らせて精算する仕組みだ。米国や中国ではさらに一歩進んで、スマホや顔認証システムを活用し、キャッシュレスで買い物ができるスーパー(Amazon GOなど)がお目見えしており、画像認識技術とAI(人工知能)により、流通現場は大きく様変わりしつつある。

 流通現場を変革する技術が一同に展示される「リテールテックジャパン」(2018年3月6日~9日東京ビッグサイト)。現在スーパーマーケットやコンビニなど流通現場の大きな悩みは人手不足であり業務の省力化が求められている。そんな中、売上を伸ばしていかなくてはならない。そこに、先端技術をどう活用していくのか。

 たとえば、ロボットによる接客。三菱UFJニコスでは人型ロボット「Pepper」が接客から商品のおすすめ、電子マネーの決済を行うソリューションを展示。人間が担ってきた店舗での業務をそのままロボットで代替してしまおうという試みだ。また富士通グループのブースでは、来店客が何に関心を抱いているのかを視線の動きによって推測し、店内のディスプレイなどにその関心事と関連する情報を表示する視線センサーなど、小売業を支援する技術を紹介していた。

 他に注目を集めていたのは日本電気株式会社(NEC)による「多種物体認識技術」。バーコードやICタグなしの商品を雑然と並べても、それぞれの商品を一括認識して、そのままレジ精算が可能になる仕組みだ。

 バーコード読み取り方式のセルフレジでは、店のスタッフが「商品にバーコードまたはICタグ(電波で情報を読み取る非接触型の荷札)を貼りつける作業」を行わなくてはならない。つまりレジ決済の人手は減らせても、そこに至るまでの作業負担はそのまま。この「多種物体認識技術」を活用した決済システムであれば、その作業はかなりカットできそうだ。

 パッケージが似通った商品などはどうやって判別するのだろうか。説明員によると、「ディープラーニング技術」と「特徴点マッチング技術」の異なる特性を持った画像認識技術を融合し、商品ごとに認識精度が最大化するように最適に組み合わせていることだという。「ディープラーニング技術」では、商品の形、色など画像の特長を深層学習し、個体ごとの外観の違いを判別する。「特徴点マッチング技術」では、画像の特徴点を多数検出し、デザインのわずかな違いを判別する。これによって、形が異なるりんご、キャベツなどの自然物から、形は同じでもラベルが異なれば、中身も価格も異なるペットボトル飲料などの工業製品など多種多様な商品を認識することができる。

 さらにもうひとつ利用されているのは「複雑環境の画像の機械学習」。いろいろな商品が雑然と混じり合っている「複雑環境」の画像を大量に自動合成して、機械学習を実施した。それによって、多数の商品がバラバラと置かれた状態でも、個々の商品をしっかり認識できるようになったとのことだ。ただし、商品が重なり合う状態だと正確に認識することが難しいという。そんな場合は「袋詰めするときに撮影するとか、運用面でカバーする必要がある」とのこと。2019年度には商品化をめざしている。

従業員教育を効果的に行うためのAR活用

コーヒーマシンのメンテナンスをARで習得

コーヒーマシンのメンテナンスをARで習得

 スーパーやコンビニなどの流通現場でスタッフを支援する仕組みとしては、「AIとARで店舗業務支援」も興味深かった。たとえばコンビニの機械のメンテナンスなどは、一度マニュアルを読んだだけでは身につかないものも多い。NECの展示ブースでは、コーヒーマシンのメンテナンスをAR(拡張現実技術)で習得するデモが行われていた。タブレットのカメラで実際のマシンを写すと、「ここをこうする」という指示がARで示されるので、スタッフは迷わずに業務の手順を覚えることができそうだ。

 商品陳列を支援する技術も

  「店舗業務支援ロボット」は売り場の監視画像により商品陳列棚の欠品を見つけると、自動的にバックヤードのロボットが補充する商品をアームでピックアップし、店内の商品陳列棚まで運んでくる。ここまでの作業はすべて無人。(最終的に棚に並べるかどうかの判断と作業は人間のスタッフ)。欠品管理や倉庫出しなど店のスタッフの省力化がはかれるとともに、商品陳列棚の空きをなくして、機会損失を防ぐねらいだ。

棚に補充する商品をバックヤードでロボットがピックアップ

棚に補充する商品をバックヤードでロボットがピックアップ

 その商品陳列棚をさらに効果的な「買い場」にして売上を伸長するための「店頭棚割画像解析システム」(棚割 : 陳列棚という限られたスペースにどう商品を並べお客が買いやすい状況を作るかの検討作業)も目を引いた。売り場の「商品陳列棚」をスマートフォンで撮影し、その写真をクラウド上の棚割画像解析システムにアップロードする。するとその画像を解析し、何がどこに並んでいるのか棚割の状況がデータ化される。NECとキリンとの実証実験では、従来、データ化に手作業で約1時間かかっていたものが、約7分に短縮できたという。このデータとPOSレジ情報と照合すると、「最適な棚割」が短時間で計画できる。キリンはこの仕組みを今年の5月からの導入することをすでに発表している。

 このように画像認識技術とAIなどの先端技術はお店を利用するお客のみならず、お店の運営やそこに商品を納入するメーカーのあり方を大きく変えるのだろう。

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ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。