11月4日、5日の2日間にわたり、THE NEW CONTEXT CONFERENCE SAN FRANCISCO(以下、NCC SF)が開催された。今年7月に東京で開催されたTHE NEW CONTEXT CONFERENCE TOKYOは、BlockchainとAIをテーマに、国内外からスピーカーを招き、最新の技術やその周辺で生まれるビジネスについて活発な議論が展開された。NCC SFでは、BlockchainとBiotechの分野で、「Social Impact of Blockchain」「Collaboration with Microbes」をメインテーマとし、国際色豊かなスピーカーが2日間、最新の研究事例やビジネスの取組みについて発表した。2日目の終わりには、参加者とスピーカーが参加してBiotechのテーマにちなんだ発酵食パーティーが行われ、各分野の最先端の人・情報が集まる場となった。サンフランシスコでの開催は、今年で4回目となったが、これまでにも増して盛り上がりを見せ、各テーマに対する関心の高さがうかがえた。
DAY2は「Collaboration with Microbes」と題し、微生物を切り口に、飲食への応用、環境(素材やエネルギー)への応用、メディカルへの応用を国内外の第一線で活躍しているスピーカーを招き講演を行った。カンファレンスの最後のプログラムでは発酵食品を用いたパーティーを開催し、カンファレンスで取り上げられた飲食物を実際に体験する場があった。
本記事では、NCC SF DAY2のダイジェスト映像と、各セッションで議論された内容の概要をスピーカーごとに紹介する。
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<Keynote1>
スピーチ:伊藤 穰一(株式会社デジタルガレージ 取締役 共同創業者 / MITメディアラボ所長)
微生物を理解し始めてわかったことは現在の知識・技術はまだ入り口に過ぎず、まだまだわからないことがたくさんある、可能性がたくさんあるということと語った。人間の体においても「微生物は第二の脳」という仮説がある程、体内のシステムで重要な役割を司っている可能性に言及した。また、環境の中の微生物では街中の微生物それぞれが影響し合っていること、世界各地のハチの巣の微生物を調べ生息地域毎に特性が出ること、微生物の生態系は複雑なので一見害を及ぼすと思われている微生物でも絶滅させず残しておくことが必要かもしれないことなど持論を展開した。
<Session1> Eating Microbes?!
スピーチ:桜井 一宏氏(旭酒造 株式会社)
発酵と腐敗は科学的には同じで捉え方の違いであることを話した後、プレミアム日本酒としてどうのように理想的な発酵を促し、おいしいお酒を作るかを説明。こだわり抜いた結果たどり着いた日本酒製造に最適なお米である山田錦についても語った。機械化が難しいため人の手で水の量、温度を徹底管理した結果、オバマ大統領がホワイトハウスで振舞うまでのプレミアム日本酒になったエピソードについて説明した。また、酒造りにとって納豆菌は大敵とされていることを披露し会場を沸かせた。
スピーチ:小河原 一哲氏(株式会社 朝一番)
糸をひかない納豆開発に至った背景、何千種類の納豆菌の中から健康にいい成分は同じではあるが糸を引かないLST-1を発見したこと、さらに納豆を世界へ広めるため、フランス、ドイツ、シンガポールの展示会で出展し成功を収めているエピソードを語った。また、納豆が健康に良い理由を、大豆の成分、発酵の特徴、ポリアミン成分の効用により解説した。
スピーチ:Robert Reed氏(Ajinomoto)
5つ目の味”うまみ”を開発しその過程では発酵を用いてアミノ酸を製造していること、21世紀の問題解決として同社が取り組んでいる3領域「食品開発、アミノサイエンス、製薬」の事業展開を解説した。アミノサイエンスではさとうきびの例を出し、アミノ酸抽出から絞りかすを肥料や飼料などに活用できるパーフェクトな植物であること、製薬ではがん細胞のマーカーにアミノインデックスとして活用していることなどを語った。
<Talk> Fermented Food is a Commons
トーク:伊藤 穰一 / Dominick Chen
二人の共通の背景であるクリエイティブ・コモンズと、Fermented Food(発酵食)の共通点を見出したり、日本の代表的な発酵食品の漬物を作る”ぬか”は、実は美味しいぬか床を作る生物学的ロジックがわかっておらず、微生物同士のコミュニケーションではないかとの持論を展開したりした。さらに、人間においても、また都市においてもインプットとアウトプットのエコシステムが連鎖しており、その連鎖の連続で世界が回っていると視点を広げた。
<Keynote2>
スピーチ:Patrick Boyle (Ginkgo Bioworks)
バイオロジーは再生でき、プログラムできるナノテクと言えると語った。人間が生まれるはるか前から生物はおり、それらはとても複雑である。同社はそんな微生物を”エンジアリング”する会社で、化粧品や食品などへ応用される事例を紹介した。また、エンジニアリング過程で正確さを追求するために、自動化する装置を自社開発し、それらにより正確にそして急激にエンジニアリングのスピードを速めることができることを示した。
<Session2> Fermenting the Planet
スピーチ:Sunanda Sharma氏 (Living Mushtari, MIT Media Lab)
デザインは製造、材料、計算、バイオの4つのフィールドに分解されることを示し、その中でどうバイオがデザインに関わることができるかをウェアラブルな例を踏まえて話した。バイオにはセンサーとしての能力や自己治癒力など様々な応用があり、それらの可能性を今までの研究所のペトリ皿の中ではなく、アートにすることで発信する研究成果を発表した。
スピーチ:Wen Wang氏 (bioLogic, MIT Media Lab)
松笠のかさが湿度に応じて閉じたり開いたりする特徴からアイディアを得て、納豆菌で同様の機能を実現しながら衣服を作るプロジェクトを紹介。納豆菌は湿度に応じて数秒で形を変えることを解明しこれを応用した。。つまり、納豆菌を使った衣服は体の汗に応じて呼吸しているかのように動き、ベストな環境を保つことができる。今後は温度に応じて色、形を変えられるような新しい素材の開発を目標にしているとも語った。
スピーチ:出雲 充氏(株式会社ユーグレナ)
日本以外で開かれるカンファレンスとしては初めて、同社の事業・ビジョンを語った。創業のきっかけは大学時代にバングラディッシュで栄養不足の子供が多いことを目の当たりにしたことで、大量生産が難しかったミドリムシを世界で初めて培養に成功し、今はスムージーやバーなどに応用している。また、培養過程で二酸化炭素を吸収するので、サステイナブルな社会が形成できること、さらにはミドリムシ由来のジェット燃料を作る計画にも触れた。
<Session3> Healing Microbes?
スピーチ:Larry Weiss氏 (AOBiome)
人間にとって”健康な皮膚”はどういう状態だろうかをテーマに講演した。馬が定期的に泥浴びをすることは泥にいるバクテリアがアンモニアを酸化させていること、また狩猟民族インディアンは皮膚のトラブルが全くないことを発見し、酸化アンモニアを生成しスキンケアプロダクトを製造。今まではスキンケア商材で肌の微生物を洗い落としていたが、これからは肌にいい微生物を残すことで健やかな肌環境ができることを語った。
スピーチ:Mohan Iyer (Second Genome)
Microbiomeに対する取り組み方の変遷を4つのフェーズに分け、今はフェーズ3であることを説明した。つまり、フェーズ1: 微生物は体に悪いためいかにして殺菌するかが大切、フェーズ2:微生物は病原菌だけではなく体にいいものもあるらしい、フェーズ3:微生物を用いて治療方法を考えるようになる、フェーズ4:微生物を医薬品として使うために、どんな細菌が、どんな役割をするかDNAレベルで解析が行われる。今後はより微生物の研究が進み、製薬・創薬分野で活用される可能性を示唆した。
スピーチ:Colleen Cutcliffe (Whole Biome)
健康増進のソリューションとして微生物を使う、具体的には2型の糖尿病患者に対して、特定機能を持つ微生物を投与することで治癒することを示した。ただ現在の技術では、各微生物ごとの機能・効用がわかっておらず、今後はゲノムレベルのでの研究を行う必要があることも示唆した。次世代の子供たちは今のままでは、糖尿病、喘息、アレルギーを持ちやすい体質になってしまうため、今お金をかけてでも微生物の研究をする必要性があることを説いた。
スピーチ:Jessica Richman (uBiome)
スタンフォード大学でコンピューターサイエンスを学び、uBiomeでは細菌を対象としたビッグデータ活用を行っている同社。また、パーソナルサイエンスが大きな可能性を秘めていることを様々な事例を用いて解説し、uBiomeのプロダクトでもサンプルをデータベース化して様々な企業、研究所に活用してもらっていることを語った。データをもとに、他人と自分との比較、また過去の自分と現在の自分の比較などをすることで、特性と捉えたり、新たな発見につながる可能性があることを示唆した。
<Wrap-up>
パネル:Dominick Chen氏 / Larry Weiss氏 / Patrick Boyle氏 / Bryan Bishop氏
今まで縦割りだったビジネス領域や研究領域に横ぐしを通す必要性があること、特に情報工学と生物学の融合必要性を説いた。Bryan氏によると、ブロックチェーンも生物学も同じ”チェーン”で情報をつないでいることが似ており、10年前に発明されたブロックチェーンよりも、歴史が長い生物学から学べることがたくさんあること、またバイオ研究の新しい手法としてDIYバイオがあり、それは分散型の研究開発と言えコンセプトがブロックチェーンと似ていることを語った。
<Fermented Food Party!?!>
プレミアム日本酒「獺祭」、糸をひかない納豆「豆の香」、飲むユーグレナドリンク、酵素茶、塩麹を使った料理、発酵食を具にしたおにぎりなど全17ブースを出展し、発酵食品を楽しみながらネットワーキングを行い大盛況に終わった。
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