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個人より、むしろビジネス向きかもしれない「ボットの将来像」

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 現在、私たちはSNSの時代からチャットベース・アプリの時代への転換点を迎えている。チャットボット自体は数十年前から存在しているが、近年では、インスタントメッセンジャーの「ボット」が、爆発的に増加している。こういったボットの構築が容易となったことで、実践的なAI(人工知能)の実験がますます増えている。

 2017年3月23日に、デジタルガレージがサンフランシスコで運営するコワーキングスペース「DG717」で、ロボットデザイナーのダン・サファー(Dan Saffer)氏とデザインプライナーで教師のヒュー・ダバリー(Hugh Dubberly)氏、ボットマネタイザーのダン・ゲイリー(Dan Gailey)氏を交えたパネルディスカッションが行われた。会場には20名を超えるボットの専門家たちがつめかけた。

 DG717はサンフランシスコのダウンタウン、マーケットストリートに存在する日本のイベントやコワーキング、インキュベーションのためのスペースだ。このイベント「ボットの将来像」は、DG Lab主催のAI講演シリーズのひとつで、次世代のグローバルビジネスの協業時代に、シリコンバレーの識者たちから学ぶことを目的としている。

ゲイリー氏(左)がこのパネルディスカッションを招集し、デザイナーのサファー氏は中央に、未来学者のダバリー氏は右手側に陣取った。

「デイリーミー」

 「ボットの将来像」のパネリスト、ダン・サファーは製品設計の第一人者で、著作もある (Amazon.jpへのリンク: https://www.amazon.co.jp/Dan-Saffer/e/B001KDAREA)。サファー氏が手掛けた最新プロジェクトは2017年にCESで発表された家庭用セキュリティカメラロボット「Kuri」だ。

サファー氏が「ボットの将来像」について論じ、緑色のシャツを着た男性が身を乗り出して耳を傾ける。

 サファー氏は「未来のボットは個人の代理人として振る舞い、Eメールや電話に対処するだろう」と推測した。つまり「あなたが私に連絡をとろうとする場合、あなたはまず私の代理人であるアシスタント・ボットと会話しなければならない」のである。このボットは見えないところ「私のために世の中について調べ、ローカルニュースをまるで運動部の高校生のごとく整列させていく」のだという。

 もうひとりのパネリストは「デイリーミー」について言及した。これはMITメディアラボの元所長であるニコラス・ネグロポンテ(Nicholas Negroponte)氏が予想した、コンピューター知能によって収集され、パーソナライズ化された新聞のことだ。

 サファー氏は、私たちが構築するこのようなボットは自分にとっておもちゃなのか、それともツールなのか? という問いに答えて、その適切な人格から外観に至るまでを模索することについて話した。


「組み合わせによるイノベーション」

 「ボットの将来像」のもうひとりのパネリストであるヒュー・ダバリーは未来予想に関する豊かな経歴をもち、デザインプランナーにして教師でもある。彼は初期の有名な消費者向けテック計画のひとつで、Apple社が1987年に立ち上げた「ナレッジナビゲーター」のビデオシリーズを共同プロデュースした。 (ここに挙げるのは「ナレッジナビゲーター」のビデオの一例である)。

 ダバリー氏は「組み合わせによるイノベーション」が、大規模なAI革命を引き起こすのを楽しみにしていた。もしも私たちがセンサーやカメラを安価に製作し、身の回りに広く組み込むことができれば、結果として膨大な量のデータを得ることとなる。私たちはそのようなデータをクラウドにアップロードし、機械学習のソフトウエアやハードウエアにそのデータを消費するよう命令することで、人々が重要な行動様式にフラグを立てられるようにできる。幅広いハードウエアやソフトウエアのイノベーションが根付くことで、それらがより大きなイノベーションのための新たな土台を築くことになる。つまり、ミュージシャンのブライアン・イーノ(Brian Eno)が言ったとおりのことだ。「多くの物事がまさにお互いとぶつかろうとする瞬間に注意を向け続けるべきだ」

「ボットの将来像」のパネリスト、ダバリー氏(右)の右側にあるのは生きたコケで作られ壁に埋め込まれた木製の「DG717」のロゴ

 ダバリー氏は、CRM (顧客関係管理) における人工知能、および機械学習のありようを、そのような機会の具体例としてあげた。そのチャンスとは、通信上のやりとりや潜在的機会につながる問い合わせの中を動き回ることだ。このようなチャンスを最大限活用するためには、真に自覚的な組織が必要とされるだろう。企業IT作業の最初の波は「当社の人事システムや従業員名簿をオンライン化しよう」といったようなプロジェクトを軸として展開した。 いまやAIとビッグデータの世界は企業に対して外界を感知し、反応する機会を提供している。

参加者も「未来のボット」を開発中

 地方の音楽ショーに行くと、観客席にいるほとんどの人々はミュージシャンだ。同様に、地方のボット関係の会合に行けば、そこにいる人々のほとんどはボット作成者である。今回のイベントでも、何人かの参加者はすでに「未来のボット」を作成していた。

 イベント主催者のダン・ゲイリー氏はチャットボット向け収益化プラットフォーム「RadBots」の開発に取り組んでいる。このパネルディスカッションの開始前、ゲイリー氏は客席の参加者をステージの上に招き、彼らが開発に取り組んでいるボットのプロジェクトについて説明してもらった。

Eメールからレシートを抽出して自動的に経費報告書に記載するボット「RapidCFO」のメーカー・FinCheck社のCEO兼共同設立者、ルース・ポラチェック(Ruth Polachek)氏。

インターフェースの「Slack」によって言語ベースのプロジェクト管理を提供する「Fireflies.ai」の共同設立者、サム・ウドトン(Sam Udotong)氏。

ベトナムを拠点に数十万人のティーンエイジャー利用者数を誇るチャットボット・メーカーのSumi社とタム・レ(Tam Le)氏。彼女はベトナム国外で出資を募っており、ベトナム国内では自身が所属する4名から成るチームを外注のボット製造会社として宣伝している。

 パネルディスカッションでの講演終了後、参加者が講演者に質問をする時間があった。ある人は、他人を操ろうとする反社会的な意図でボットをエンコードする潜在的な危険について尋ねた。詐欺的なボットを人々が回避できるようにするため、パネリストたちは広告の明確なラベル表示を頻繁に行うといったようなやり方で、ボットが身分を証明するよう義務付けるべきではないだろうか、と述べた。

 だがこのディスカッション「ボットの将来像」の大部分で述べられたのは、ボットが社会的な変化や変革を超えて効率性や利便性を加速させるということだ。参加者たちも実験を迅速に進めており、何人かに聞いた話によると、彼らが開発に取り組んでいるボットは、すでに企業間の問題を解決していた。もしかすると、ボットの近い将来像とはパーソナル・アシスタントというよりはむしろ企業アシスタントなのかもしれない。

共著

Hector Garcia

DG Lab Chief Architect

スペイン生まれ。コンピュータサイエンス修士号を取得して、欧州原子核研究機構CERNで研究後、来日。日本ではコンシューマー・ インターネットのシステム開発を行った。2016年7月に発足したDG LabのChief Architectとしてブロックチェーン、セキュリティ、AI、仮想現実、バイオテクノロジーといった先端技術を活用した研究開発、事業化を目指す。趣味はカメラと本の執筆。スペインでは書籍を5冊販売し、計50万部を超える国際的ベストセラーになっている。

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