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ラボ内生活も可能?MIT Media Labでの研究生活

今回は、MITメディアラボの研究者たちが、普段どのように過ごしているのか、筆者が所属しているラボの人々を中心に紹介したい。

筆者が所属しているSynthetic Neurobiologyグループには、これと言って決まった勤務時間は存在しない。平日は朝の6〜7時頃から徐々に人が集まり始め、16〜17時頃には帰り始める。研究の進捗具合に応じて、勤務時間は自身の裁量で決められる。また、ラボでしか行えない実験やミーティングがない場合は、自宅など自分の好きな場所で作業できる。反対に、土日もラボで実験や作業を行いたい者は、いつでも好きなだけ自由に作業できる。人にもよるが、主な研究員、職員は平日の朝8時頃から16時頃まで勤務しているようだ。筆者は、このような勤務時間、勤務スタイルの柔軟さもMITメディアラボの極めて高い自由度を支えているひとつの要素だと考えている。

食生活に関していえば、ラボにはその名も「Foodcam」と呼ばれるカメラが設置されており、イベント等で出たケータリングのおこぼれや、ミーティングで残った食べ物、寄付された食べ物が決まったエリアに置かれると、それが「Foodcam」の画像を通してラボ全体に知れ渡る仕組みになっている。

早い者勝ちだが、ラボのメンバーであれば自由に食べることができる。置かれるものの多くはサラダや米、カレー、サンドイッチ、クラッカーなどのつまみ類だが、時々見たこともないような料理や食材が置かれる。余りものが置かれる場合もあるが、出来立ての料理やデザートが置かれることも多く、時間がたつと傷んでしまう生鮮品などは、確保したのち同じフロアにある冷蔵庫に入れておくこともできる。学生からPI(Principal investigator 研究室のリーダー)まで、幅広い層に愛されているシステムで、食べ物を求めて集まってきた者同士での交流が生まれることもあり、日常生活に刺激を与えてくれるちょっとした出会いの場になっている。筆者の所属するラボには、カメラに食べ物が映ると大きな声で知らせてくれる人がいる。それを聞くやいなや、筆者はいつも相棒たちと、食器を手に全速力で食べ物へと向う。

また、豪華な食事が提供されるVIP向けのイベントなどが行われる時には、私たちのような「vultures(ハゲワシ)」を、会場の魅力的な食べ物から遠ざけるための工夫が凝らされる。その日は「Foodcam」前などには、普段よりも魅力的かつ多量の食物が設置される。ただ、中にはそれらをトラップと見破った上で、イベントの会場へと何気なく忍び込み、美味しいものをつまみながらゲストと交流する強者もいる。筆者も相棒達と共に忍び込んだことがあるが、意外とバレないものだ。また、近隣のMITの学生寮からも、学部生たちが忍び込んでくることもある。

この他にも、IDでアクセスできるシャワールームや、ある程度の生活が可能な秘密の空間なども存在するらしい。筆者のルームメイトで、同ラボの研究員も、ラボの天井裏の空間に入り込み、そこで寝泊まりしていた時期があったという。

一方で、当たり前のことながら、ラボのオフィス管理者はこのような状況を好ましく思っていないようだ。しかし、こういった空間は黙認され、むしろラボの文化として非公式ながらも守られているようにさえ感じた。

このようにゆるやかな雰囲気はではあるが、ラボ1階の一部以外は MITと関係のない部外者には公開しておらず、研究所としてのセキュリティの維持は適切になされている。不審な行動をする部外者がいる場合は、ラボのメーリングリストで通知を受ける場合もある。

研究に関して、MITメディアラボではさまざまな分野において、独創的で最先端の研究が行われているが、何がそうさせるのか、何が特別なのかを研究員に聞くと、ほとんどはラボの極めて高い自由度を挙げる。

ここでは、研究所や研究室毎に自由に研究ができる工夫をしているというよりも、各研究者が自分のしたいことを自由にやっており、ラボの各組織がそうした自由な活動を、寛容さを持って受け入れているという印象がある。また、同僚や筆者の知るラボの人々は、その年齢や地位を問わず、大半は、研究競争や地位、名誉にはあまり関心がなく、全ての分野を平等に扱い、自身の興味関心、解決したい問題、謎に対して真摯な姿勢で取り組んでいる。このような研究者たちに囲まれながら送る筆者の研究生活は、毎日が刺激的で学ぶことも非常に多い。

研究テーマがユニークであればあるほど、トライ&エラーで挫折の多い研究生活となるが、それでも、生活の中にちょっとした楽しみがあるMITメディアラボでは、日々明るい気持ちで取り組むことができるのだ。

Written by

Wild Scientist
DG Lab 海外特派員
MIT Media Lab Research Affiliate

中学生時代、家族や友人の病気をきっかけに、免疫学分野で主にIgE抗体とクラススイッチング、エピジェネティクス分野でDNAメチル化中心に生物学を学び始める。
高校生時代には、研究費と試薬を集め、株式会社リバネスのラボや京都大学のラボを始め、様々な機関のラボで設備を借りながらDNAメチル化に関する研究を行った。高校卒業後は、フリーの研究者として研究を継続し、現在は主に生命を理解するための研究を行っている。