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バイオテック ブロックチェーン 進化する技術の真価 

伊藤穰一氏 NCC2017にて

伊藤穰一氏 NCC2017にて

 仮想通貨ビットコインの動向は連日、ニュースを賑わわせ、バイオテクノロジーを駆使したベンチャー企業は、次々と医療や創薬の常識を変えてゆく……。

 

 インターネットが世界にインパクトを与え、メディアや流通に革命を起こしたように、テクノロジーは新たな領域で次々と世界を変えている。イノベーションの最先端では、何が起きており、どのような課題が生まれているのか。

 7月25日・26日の2日間、虎ノ門ヒルズ(東京都港区)で開催された「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2017 TOKYO(主催:株式会社デジタルガレージ、株式会社カカクコム、株式会社クレディセゾン)」では初日にバイオテック、2日目にブロックチェーンが取り上げられた。それぞれ国内外から集まったキーマンたちが自社の取り組みを紹介したり、現在進行中の課題について活発な討論を行った。

 

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 初日に「Bio is the New Digital」と題した基調講演で登壇した、このイベントのホストで、デジタルガレージの共同創業者/取締役でもあるMITメディアラボ所長の伊藤穰一氏は、ゲノム解析の結果だけでは解けない疑問や課題を解決するのに、デジタルテクノロジーがどのように活用されているのか解説した。さらには、デジタル化によるコスト低減によって、大学の研究室ではなく、自宅のキッチンでデザインされたゲノムをバクテリアに入れて、リブートするといったようなことも可能となっており、こうした環境がストリート・バイ」と呼ばれる取り組みを生み出していることなども話題にした。ストリート・バイオの担い手は若く、組織からは自由な人材であり、クリエイティブな視点から新しい技術にアプローチしていることなど「かつてのITベンチャーに似ている」と語った。

 

 ところで、インターネットでもその普及とともに問題となったのは、悪意を持ったハッカーによる犯罪だが、ストリート・バイオも企業や公的機関の管理外にあるため同様の、あるいは生命に関わる分野だけにそれ以上の危険をはらんでいる。インターネットの世界では捜査機関はハッカーを犯罪者とみなし、敵対してきたのだが、バイオの世界では異なったアプローチが試みられているという。伊藤氏によるとドイツではバイオハッカーを規制する動きがある一方で、米国のFBIでは、バイオハッカーを敵とみなさず意識的に交流を深めている。結局のところ、こういった先端分野では捜査機関が独力で問題の解決に当たるより、ハッカーたちの知識、経験を動員してことに当たった方が、効果的であるということを、インターネットを教訓にして学んだ結果の対応だという。

 

 バイオのイノベーションには公的機関や企業の研究者だけでなく、ベンチャーやストリート・バイオの研究者を含めた、さまざまな分野の研究者の参加者が必要とされており、伝染病の拡大などには国家や国境は無関係となるので、インターネット以上に世界中の人の協力が欠かせないこと。そして今まさにバイオテックのエコシステムを構築するタイミングが来ており、企業も個人もそこにどのように参加すべきかを想定する必要があることを指摘して、基調講演を締めくくった。

 

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 2日目は、分裂騒ぎの渦中にあるビットコインで注目を集める技術「ブロックチェーン」がテーマだ。この日は冒頭でスピーチをした伊藤氏は、インターネットのエコシステムが確立するまでの歴史を振り返りつつ、その経験を踏まえた上で、ブロックチェーンに関しては「みんなが思っているほど、簡単には前に進まない」と自身の予感を披露した。

 

 確かに、この日の各セッションやパネル討論では、ブロックチェーンの仕組みに関する意思決定の難しさや、開発者に対する報酬が考慮されていないこと、さらには関連用語の定義の曖昧さなど、多くの問題が存在することが明らかにされた。しかし、現時点ではそういった問題があることを知りつつも、登壇者のほとんどはブロックチェーンの諸問題解決と、さらなる活用に前向きに取り組もうとしているる。

 

 この日最後のセッションの結びとして、クロサカタツヤ氏(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任准教授)が発言した「(人間が介在する)既存の社会システムにおいても、必ずしも正しい判断が下されるわけではない。現在は(人工知能やビットコインなどの導入に)不安が先立っているが、もっともっとテクノロジーを使っていくべきなんじゃないか」という思いが、多少の差はあれ、インターネットが社会に定着するのを見てきた世代には共有されているように感じられた。

 

 

Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。