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未来を支える技術は今どこまできているのか?【前編】林 郁×伊藤穰一対談

対談を行う林郁(右)と伊藤穰一(左)

対談を行う林郁(右)と伊藤穰一(左)

 株式会社デジタルガレージを創業した林 郁(代表取締役 兼 社長執行役員グループCEO)と、伊藤 穰一(取締役 共同創業者、MITメディアラボ所長)が、AI(人工知能)やユーザーインタフェースから、ブロックチェーン、バイオテクノロジーまで、先端技術の進化について語った。

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林:AIからブロックチェーン、バイオテクノロジーに至るまで、技術進化がものすごいスピードで進んでいるけれど、Joiの目にはどのように映っている?

伊藤:「どうすればみんなが幸福になるのか」に主眼をおいて、先端技術を活用することを意識すべき時代になったと思う。ITがこれだけ浸透しても実は人間の生産性は上がっていないという説もある。実は、森の中を自由に走っていた古代人の方が、現代人よりも幸せだったのかもしれない。これからは、単にスピードや効率を上げるだけではなく、真の意味でみんなが豊かな生活を送るために技術をどのように活かすかを考えることが、デジタルガレージが掲げる「世の中の役に立つ事業の創出」に直結する。社会とか都市のレベルで俯瞰することも必要だと思う。

林郁

林:AIが社会にもたらす影響やそれに伴う倫理問題も、人間の幸福感と密接な関係があるね。

伊藤:AIの進化によって人間がいらなくなってしまうかも知れないといった問題は、日本よりもアメリカの人たちの方が気にしている。自動運転が実用になると人間とAIの関係はどのようになるのか、AIがドライバーを補助するドライブアシストと完全自動運転の間のどこにちょうど良いバランスが取れるところがあるのか、といったことを議論している。重要なのは、人間と機械のインタフェースをうまくデザインすることで、人間と機械が助け合って活動するようなプロダクトを作ることだと思う。

林:ファクシミリが登場した時には「新聞配達は過去のものになる」と言われたし、銀行ATMができたら「銀行員がいらなくなる」と言われていた。でも結局変わらなかった。同じようなことがAIにも言えるような気もするけれど。

伊藤:会社を例にとると、大企業はすでに一人の人間が理解できる範囲を超えた複雑なシステムになっている。そのシステムを構成する要素としてすでにAIがいくつも組み込まれ始めている。裁判官にしても、パイロットにしても、お医者さんにしても、判断にAIの助けを借りることが当たり前になっている。株の売買だって実際はコンピューターがアルゴリズムに従って行っているのがほとんど。そう考えると、いつの間にかAIがさまざまな場面で人間の判断を補助するようになっているのが現状と言える。もはや、AIは世の中で起こっている進化を加速する原動力になっている。だから、人工知能の進化の方向が間違っていたら、社会を間違った方向に加速させてしまう。社会そのものが正しい方向を向くように、人工知能の進化を導いていく必要がある。

林:鍵を握るのは倫理観や価値観のデザインになるね。

伊藤:今は日本でも、モノがあればあるほど幸せになるという価値観が普通になっているけれど、昔は、必要以上のモノはなくていいとか、自然と人間は平等という価値観が当たり前だった。自然をコントロールして人間に役立てるという西洋的な価値観のまま、そこにAIが入ってくると自然環境がボロボロになってしまう恐れがある。それを今一番危惧している。

伊藤穰一

 個人の利益を優先させるか、社会全体の利益を優先させるかという問題に置き換えることもできる。自動運転にしても、個人と社会のどちらを重視するかによって設計思想が全く異なる。MITメディアラボのLyad Rahwan氏の研究によると、ドライバーを犠牲にしてでも大勢の人を救う判断をする自動運転車の是非について一般の人に意見を聞くと、「倫理的には正しいが、自分は絶対に買わない」という声がほとんどらしい。つまりマーケットに任せると、周りよりもドライバーの命を優先する車ばかり世の中に増えることになる。それは社会的には良いことではない。社会全体の利益に資する方向で技術開発を進める必要性がある。

林:2020年くらいから普及が始まる5Gネットワークは、自動運転にどう影響を与えるだろう。 日本メーカーの強みは生きるのだろうか。

伊藤:アメリカでは、例えばテスラがセンサー技術を駆使して自己完結型で自動運転を実現しようとしているけれど、社会の利益を優先するには、例えば5Gネットワークを使って全部の車が互いにコミュニケーションをとり、オーケストラのように協調するような仕組みを採ったほうがいいかもしれない。「和」を尊ぶ日本メーカーの強みが生きそうだ。そんな日本文化に根ざしたプロダクトが世の中に出てくるといいと思っている。

ユーザー本位のサービス開発を

林:デジタルガレージは、全日空グループと合弁で決済会社を作って、空港に実験的なショッピング手法を提供することを検討している。近未来のショッピングについてどのようなイメージを持っている?

伊藤:プライバシーと広告の関係への配慮が重要で、アマゾンもそこにすごく気をつけている。ユーザーの立場だと有益なレコメンドは便利なので欲しいけれど、自分の情報が外に漏れるのは避けたい。信用のあるブランドが個人情報をきちんと管理して、その人にあったショッピング体験を提供するというのが現実的かもしれない。オンラインショッピングと実店舗でのショッピングをシームレスにつなぐことも重要になりそう。どの店に入ったら自分の好きなものがあるかは知りたいけれど、自分のに関する情報をいろいろな所にばらまくことは避けたいというのが人情。セキュリティとレコメンデーションをうまくバランスさせないといけない。

 デジタルガレージも、広告代理店としての事業を行っているので、加盟店とプロダクトとユーザーの情報をうまく管理するための技術開発を進めるべきだと思う。例えば最新の暗号技術を活用して、ある瞬間だけユーザーの嗜好に関するデータへのアクセスを許可するとか、細かい情報は伏せて必要な情報に絞ってデータを開示するとか、いろいろな手法が考えられる。

林:アマゾンが、高級スーパーを展開するホールフーズを買収したのはどう分析する?

伊藤:アマゾンとグーグル、フェイスブックの中で、創業者がビジネスプランを書いて作ったのはアマゾンだけなんだ。グーグルもフェイスブックも、とりあえず何かを作りながら考える形で事業を拡大してきた。今のマネジメント手法にもそれは影響を与えていて、アマゾンはトップが明確な戦略を持っている。ホールフーズの買収も綿密な計画に沿ったものだと思う。だからアマゾンはこれからもジリジリ伸びていくだろう。

林:今はスマートフォンがオンラインの入り口になっているけれど、その先のユーザーインタフェースはどうなっていくだろう。アマゾンのアレクサとか、グーグルホームはどのように進化していくと思う?

伊藤:Mixed RealityとかAugmented Realityと呼ばれるいわゆる「拡張現実」がアメリカでは注目を集めている。現実世界の映像と仮想世界の映像を重ね合わせて表示する技術だ。アレクサやグーグルホームのような音声インタフェースの普及も進むだろう。現実世界と仮想世界をビジュアルと音声によってつなぐ分野は、これからスタートアップがどんどん出てきそうだ。

林:音声インタフェースを備えた機器には、家の中で聞き耳を立てているようなイメージを抱く人もいるようだが、プライバシーの心配は。

伊藤:サービスを提供する会社としては、信用を失ったらそれまで築いてきた価値がゼロになるくらいの覚悟をしている。この前も、FBIがある人物を対象とした犯罪捜査のために、その人が使っているアレクサの情報を提出するようにアマゾンに要求したが、アマゾンは断った。アップルもiPhoneに格納した個人情報を巡ってFBIと戦った。つまりアメリカの企業は政府と戦ってまで、顧客からの信用を守らなければならないと考えている。日本のメーカーもこうした姿勢を参考にすべきだと思う。

【後編】はこちらから

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