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未来を支える技術は今どこまできているのか?【後編】 林 郁×伊藤穰一対談

対談を行う林郁(右)と伊藤穰一(左)

対談を行う林郁(右)と伊藤穰一(左)

 株式会社デジタルガレージを創業した林 郁(代表取締役 兼 社長執行役員グループCEO)と、伊藤 穰一(取締役 共同創業者、MITメディアラボ所長)が、AI(人工知能)やユーザーインタフェースから、ブロックチェーン、バイオテクノロジーまで、先端技術の進化について語った。【前編】こちら

 

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林:ARやVRの普及はどのように進んでいくだろう。

伊藤:VRはエンターテインメント分野で浸透していくと思う。ARにはさまざまな用途がある。メガネ型でなくても、スマートフォンだけでも十分楽しめる。メガネ型のARデバイスを普及させるにはデザインがカギを握ると思う。かっこ悪いものを顔につけたがる人はいないから。その壁を乗り越えないと、新しい分野のプロダクトを広めることは難しい。

林:個々のユーザーに合わせて対話するインタラクティブエージェントは、ここ数年で新しいユーザーインタフェースとしての市民権を確立するだろうか。

伊藤:単にユーザーからの指示に応えるようなエージェントではなく、ユーザーの状態を把握し先回りしてアクションをするエージェントが主流になっていくと思う。頭の中で意識していること以外に、人間の体の中ではいろいろなことが起きている。こうしたたくさんの情報を統合して、ユーザーに最適なサービスをするエージェントが望まれるだろう。例えば体温が上がって汗をかいていることを検知すると部屋の温度を下げてくれるとか、血糖値が下がったらジュースを出してくれるとか。街全体が一つのエージェントとして働くような生活環境が登場するかもしれない。

林:まさに「スマートシティ」だね。2020年の東京オリンピックに向けて、渋谷など、日本でも新しい都市空間を作る動きが活発になってきている。Joiの描く理想の街は?

伊藤穣一

伊藤穣一

伊藤:住んでいる人が気持ちいいことが大切だと思う。僕にとって気持ちのいい街は、歩いていける場所に何でもあること。例えば、カフェとかお菓子屋さん、薬局などが満遍なく点在しているパリ。美術館に行くには交通機関に頼る必要があるけれど、普段の生活に必要なものは徒歩圏内で調達できる。日本の街づくりもそれに近い。一方でアメリカの大都市は、住宅街、金融街といった具合に機能ごとに街が分かれていて、徒歩だけでは生活しづらい傾向にある。MITメディアラボは、中国などで街づくりのプロジェクトも手掛けている。

黎明期のFinTech、活気付くバイオ

林:Joiは金融庁のアドバイザーをやっているけれど、FinTechの現状についてどう思う?

伊藤:日本に限らずFinTechはまだ黎明期だと思う。インターネットの歴史に重ね合わせてみると、今のFinTechはインターネットが標準化される前の段階。キャプテンとか通信会社があって、光ファイバーからコンテンツまで全部自前でやらないといけない世界。イーサーネットの規格すらまだ決まっていない状況だと思う。IPプロトコルが決まると、シスコのようなルーティングをする機器の会社が登場して爆発的に伸びる。FinTechの世界でも、DGが出資しているBlockstreamなど、先進的なスタートアップが生まれてきている。こうしたスタートアップの取り組みによってブロックチェーン関連などの業界標準などがまとまっていくと、FinTechは社会のインフラを支える大きな存在として認識されるようになる。

林:歴史的にみると技術的に筋が良いからといって、必ずしも大成功するとも限らないのも事実だね。

林郁

林郁

伊藤:インターネットの黎明期にも、いろいろな技術が業界標準を巡って戦っていた。X.25とかIBMのトークンリングとか。インターネットが証明したのは、一番優秀な人たちが集まるコミュニティがあって、オープンにやりとりしていたところが一番伸びるということ。だから、MITメディアラボでもオープンなコミュニティを作ることを意識している。FinTechの抱える問題は、スタートアップ企業にお金が集まりすぎていて、優秀なエンジニアがそちらに流れていること。大学や非営利のオープンソースコミュニティの人材が不足している。今の状態がややバブルになっているのが心配。

林:バイオテクノロジーの進化も加速している。

伊藤:世界トップクラスの囲碁名人を破ったAI「AlphaGo」を開発したディープマインドのトップ2人がもともとは脳科学の研究者だったように、バイオテクノロジーとコンピューターサイエンスの融合がどんどん進んでいる。MITメディアラボでもコンピューターサイエンスのバックグラウンドを持つ優秀な人たちが、バイオの領域に進出し始めている。その結果、創薬といった典型的なバイオの分野にデジタルの考え方が入ってくるのと同時に、素材とか建築、デザインといった分野にバイオから学んだものが応用されるようになった。プログラミングを覚えないとコンピューターサイエンスが分からないのと同じように、バイオテクノロジーを理解しないとAIや建築が分からないという時代になってくると思う。だから今の子供達はバイオを勉強すべきだし、インターネットの波に乗り遅れた企業が淘汰されたように、企業の経営者もバイオテクノロジーの方向性をある程度理解しておかないと、時代に取り残される可能性がある。

林:近代建築が出てきた時のアーキテクトの思考に似ているね。

伊藤:メタボリズムの時代は、バイオのアイデアを建築が取り入れていったけれど、当時はまだバイオと建築の技術が相互に乗り入れるところまで進んでいなかった。今は、例えばバイオテクノロジーで自然原料から蜘蛛糸のような素材を大量生産して、それを元に自動車の部品を作るといった動きが現実になっている。こういう世界を普通に想像できるようにならなければいけない時代になっている。

林:地球が何十億年かけて培ってきたものを、人間の意思でハンドリングできるようになりかけているわけだ。デジタルガレージも、こうした大きな時代の変化を先取りしてグローバルな視点で社会に貢献する事業を作っていきたい。

【前編】はこちらから

編集部 Written by
現在、世界各地で起こっているイノベーションを発信し、現場の声をお届けします。