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WeWorkは”働き方改革”の黒船となるか

都内で開催された「WeWork JAPAN CEOと語る」に登壇したクリス・ヒル氏

都内で開催された「WeWork JAPAN CEOと語る」に登壇したクリス・ヒル氏

 日本のコワーキングスペース業界で今、“黒船の来襲“が大きな話題となっている。米国で誕生し、急成長を続けるWeWorkの日本進出だ。

 WeWorkは、2010年に米国のニューヨークで第1号のコワーキングスペースを開設。現在は世界20ヵ国・地域、56都市(10月25日現在)で拠点を展開するまでに成長したスタートアップだ。

 日本でも来年2月から、六本木、銀座、新橋にコワーキングスペースを開業の予定。さらに続けて8拠点を展開する計画だという。WeWorkの日本進出を率いるクリス・ヒル(Chris Hill)氏は、米国本社の初代COO(最高執行責任者)だった人物で、同社の日本進出にかける熱意の高さがうかがえる。

 注目を集める一方で、WeWorkが保守的な日本の労働環境の中で成功を収めることができるかについては、懐疑的な見方もある。

 これまでWeWorkが各国で提供してきたコワーキングスペースでは、マイクロソフトやIBMなどの大企業に所属する者と起業を志す者が同じ場所で仕事をすることで、偶然出会い、交流を深め、新しい事業を生み出す場になっている。欧米では大企業の新規事業部門があえて自社の社屋を離れ、コワーキングスペースに入居することもあるという。

 しかし日本の現状では、大企業の利用はそこまで進んでいない。筆者も都内のコワーキングスペースを頻繁に利用しているが、そこで見られるのはベンチャー企業やフリーランサーが黙々と作業する様子で、その場で日常的に大企業との共創がうまれるという光景はまず見られない。先日紹介した三井不動産のように、最近になってコワーキングスペースの運営を行う大企業が出てきたが、利用側として大企業が活用している例は少ない。

 こうした中でWeWorkは日本進出を着々と進めている。そこにはどのような勝算があるのだろうか。10月18日に東京・渋谷で開催されたイベント「WeWork JAPAN CEOと語る」でヒル氏が語った内容から、そのヒントを探ってみたい。

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 このイベントは、ビジネスニュースサイト「Business Insider Japan」が開催したもので、日本での開業を控えたヒル氏をゲストに迎え、日本に進出する理由などをテーマにインタビューやセッションが行われた。

 ヒル氏の発言でまず印象に残ったのが、サービスの仕組みを説明した際の「WeWorkは、ただのコワーキングスペースではなく、人をつなぐコミュニティプラットフォームである」というコメントだ。WeWorkの利用会員になると、世界中のメンバーとつながるグローバルネットワークを利用できるようになる。加えて、各拠点では、イベントなどを通して会員同士がつながる場を設定するコミュニティマネージャーのサービスを受けられる。この役割を同社では非常に重視しており、現在米国で作成中の日本でのコミュニティマネージャー育成プログラムは、日本向けにカスタマイズされたものとなる予定だ。こうした運営によって、イノベーションが起こりやすい環境を日本においても作り上げることが可能だと考えているわけだ。

 さらにヒル氏の発言の端々から感じられたのが、日本においても大企業を主な利用者として想定していることだ。すでに日本進出のパートナーであるソフトバンクをはじめ、大企業やグローバル企業の入居が決まりつつあるという。たとえば、銀座の拠点における戦略を述べた際には、「50%をベンチャー企業などの小規模企業に、残りの50%を大企業に入ってもらう」ことを目標に掲げていると話した。さらに、六本木の拠点はすでに約7割が埋まっているそうだが、やはり半分は大企業だと述べている。

 先に述べたように日本に従来あるコワーキングスペースでは、大企業による活用がなかなか進まないのが現状だが、WeWorkははじめから大企業をメインターゲットに据え、実際に成果を得つつある。

 ヒル氏は、日本の印象について聞かれた際に「日本は今ティッピングポイント(物事が急激に変化する時点)に達しつつあると思います」と述べている。「働き方改革」が叫ばれる日本においては、大企業もこれまでのスタイルを変えざるを得ない時期となっている。そのためには同社が提供するスペースとサービスが必要だと判断したことも、日本進出を決める要因のひとつになったのではないだろうか。

 WeWorkの日本進出が成功すれば、日本の従来型オフィスのあり方、大企業社員のワークスタイルも変化し、日本の労働慣行そのものにも大きな変化が起こるかもしれない。政府による「働き方改革」よりも、“黒船”による刺激の方が効果的であるなら、その来襲はおおいに歓迎したい。

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