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プライバシー保護を乗り越える中国のセキュリティ施策

注目を集める昿視科技(Face++)社

注目を集める昿視科技(Face++)社

 世界最大級のセキュリティ展示会「第14回チャイナ・パブリック・セキュリティEXPO」(CPSE)が2017年10月29日から11月1日にかけて、中国広東省深圳市深圳コンベンションセンターで開催された。近年では2年に1回のペースで開かれる同イベントは、世界40カ国以上から1500社が出展し、150超の国と地域から13万人が集まる。現地を取材すると、プライバシー保護などの倫理にとらわれず最新技術を駆使して、「安全安心な世界」を目指す中国の現状が見えてきた。

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 展示物はバラエティに富んでいる。中心となるのが警察用装備だ。警棒、パトカーといったありふれた装備から活動中の動画、音声の記録装置まで。他にも警察用ドローンやドローン撃退装置、ドローンの性能評価サービス、携帯電話監視システムなどなどありとあらゆるものがそろっている。

 興味深いのは警察装備という分野でも「市場経済」が徹底している点だ。入場ゲートすぐに「公安部第三研究所」という国家系研究機関が大きなブースを構えていたが、私企業さながらの必死の売り込みをかけていた。同研究所の売りはIoT(モノのインターネット、センサーなど各種デバイスをインターネットで相互接続する仕組み)を駆使した統合警備システムだが、他の国有企業や民間企業も同様のシステムをリリースしており、激しく導入を競い合っていると担当者は説明していた。

 社会主義の皮をかぶっているが西側諸国以上の資本主義国と称される中国だが、一般経済はおろか、警察装備という資本主義とは縁遠そうな分野でも激烈な競争が繰り広げられている点が興味深い。

 警察装備品以外でもオフィスビルの出入場管理システムや駐車場の管理システム、マンションのスマートロックなどおよそセキュリティに関連しそうな製品はなんでも出展されていた。民生用のセキュリティ機器で気になった製品を2点ご紹介しよう。

プライバシーをある程度犠牲にした監視システム

  ひとつはオフィスビルの出入場管理システムだ。顔認証を採用しているのだが、警察のデータベースと連携しており、指名手配犯は即座に通報するという機能を搭載している。中国政府はオープンデータを推進しており各種公共データベースを一般企業に開放している。先進国だとこの時にプライバシーが最大の課題になるわけだが、中国ではあまり注意が支払われていないのが実情だ。CPSEでは見かけなかったが、最近中国の交通警察で導入が進んでいるのが交差点や横断歩道で交通違反をチェックする監視カメラだ。画像認識によって一時停止違反などを認識する機能を持つ。興味深いのは単に違反車両を記録するだけではなく、違反映像と車のナンバーを交差点に設置された大型ディスプレイでさらし者にするという機能がついている。プライバシー的には大問題だが、交通違反数が激減する効果をあげたという。

 もうひとつ、気になった製品が幼稚園用監視カメラだ。中国では幼稚園や学校の光景をストリーミングで流すことが流行している。教師がちゃんと子どもたちを扱っているのか、保護者はいつでもチェックできるという寸法だ。動画配信サイトを利用するケースが一般的だが、監視カメラメーカーがこの分野に参入、1000人が同時接続できる監視カメラ映像配信システムを出展していた。これもまた中国ならではのニーズだろうか。

膨大な監視カメラのデータをさばく統合システムの注目株は?

 さて、さまざまなサービスが出展されたCSPEだが、ぐるりと会場を回っていると、今回のトレンドが見えてきた。「AI、ビッグデータ、画像認識、クラウド、データ連係」といった言葉がそれにあたるだろうか。

 たんにバズワードを並べたわけではなく、切実な事情がある。プライバシーの意識が弱く、かつ政府が監視国家を志向する傾向が強い中国では、あちらこちらに監視カメラが設置されており、携帯電話を使った位置追跡システムも普及している。ただしそれらのシステムは独立しており統一した運用はできなかった。それ以上に13億人が生み出す膨大なデータ量をさばききれないという問題もあった。

「AI、ビッグデータ、画像認識、クラウド、データ連係」はこうした課題をクリアするために必須の技術だ。無数に設置された監視カメラの映像を画像認識し、どのような服を着た人物がいるのか、どのような車があるのかなどを検索可能にする。果ては顔認識によって一人一人の人間の名前まで特定する。これを指揮センターで統合し確認することができるというわけだ。今や画像認識技術を搭載した統合型監視カメラ(中国では天網システムと呼ばれている。「天網恢恢(てんもうもうかいかい)疎にして漏らさず」、悪人は最後には逃れられないという言葉から取られた)は2000万台に達しているという。

 複数の統合管理システムが出展されていたが、最も注目を集めていたのが昿視科技(Face++)社だった。同社は2011年に設立したベンチャー企業。ディープラーニングとIoTセンサーをコア技術としている。創業者の印奇はまだ29歳、名門・清華大学のエリートクラス「清華学堂計算機科学実験班」出身の俊英だ。

展示会場の来場者の顔を一瞬にして認識している

展示会場の来場者の顔を一瞬にして認識している

 世界のIT巨頭フェイスブック社と同等水準の顔認識精度を誇るとの触れ込みだったが、実際に会場のデモを見ると、リアルタイムで会場内の人間を認識し、どのような服を着ているのか、男性か女性かを識別。さらには指名手配犯などのリストとの照合などが瞬時に行われていた。

 Face++の応用範囲はセキュリティ分野にとどまらない。同社は中国IT大手アリババグループとも提携している。「アリババの無人店舗で顔認証決済を導入」というニュースを見た方もいるかもしれないが、実際にはFace++の技術が電子決済の進化を推進しているわけだ。

 顔認識技術はセキュリティ、決済に加え、将来的にはスマートシティ(人間の移動や生活などがIoTを通じてすべてデータ収集され、最適化された都市)の要になると期待されている。Face++の前に広がるマーケットは巨大だ。10月末にアントフィナンシャル社、鴻海集団などから4億6000万ドルのベンチャー融資を受けている。

 セキュリティと倫理の間で先進国が揺れている間に、中国はその先へ、セキュリティが社会生活と一体化した未来に向かって邁進している。

高口康太 Written by
ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国専門のジャーナリストに。『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』など各誌に多数の記事を寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。