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人間拡張と、新しい食品技術─我々が今なすべきことは?  The New Context Conference 2017

The New Context Conference 2017にてパネルディスカッションを行う伊藤穣一(左)暦本純一氏(中央)ジ

The New Context Conference 2017にてパネルディスカッションを行う伊藤穣一(左)暦本純一氏(中央)ジェーン・メトカルフェ氏(右)

 AIとコンピューター、人間の能力が結びついて可能になる未来。

 人口爆発によって生じる食糧増産要請に対応する技術。

 この2つはまったく別のトピックであるかのように見えるが、いずれもデジタル技術を活用している点と、倫理的な課題を抱えている点において共通している。技術の発展に目をみはるだけでなく、人々の暮らしが良くなるために求められていることは何なのか。技術の発展と同時に深まっていく問いに対し、くさびを打ち込むポイントはどこにあるのか──。

 11月3、4の両日、DG717(米・サンフランシスコ)で「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2017 SAN FRANCISCO(主催:株式会社デジタルガレージ、株式会社カカクコム、株式会社クレディセゾン)が行われた。テーマは、初日が「AI時代の人間拡張」2日目が「拡大し続ける世界に対応する食品技術」。研究・実践の最前線にいる発表者がそれぞれの成果を発表し、活発な議論が繰り広げられた。

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 初日に基調講演を行った東京大学大学院の暦本純一教授は、「人間とコンピューターのインタラクション、コンピューター・オーグメンテッドされた環境、人間拡張」と題して、コンピューターと人間をつないで「人機一体」化させることで可能になる未来を示した。IoTの後に続くフェーズとして、IoA(Internet of Abilities)を紹介した。それぞれの「能力」(Abilities)をつなぐことで可能になる例として、大学の研究室で行なっているユニークな実験の映像を次々と例示し、IoAによって、SF映画の一場面のようなことが実現に近づいていることを示した。

  IoAによる人間拡張はさまざまな可能性を感じさせる一方で、暦本教授は同時に、根本的な問いを投げかけている。こうした無限の可能性を秘めた技術は、何のためにあるのか。人間の幸せのためなのか、効率化のためなのか。さまざまなSF映画の場面と比較しながら、現実に研究が進む人間拡張の技術を示して見せたが、2日間の最後に行われた総括セッションでは、「多くのSF映画はつまるところ、(ユートピア的な思想の対極にある)‘暗黒郷’である」と指摘。こうした映画に込められた問いについて、重ねて強調した。

  2日目冒頭の基調講演では、NEO LIFE創立者のジェーン・メトカルフェ氏が、「新しいコンテクスト」とは、DNAを編集する技術を得たことによって「ホモ・サピエンスが、将来の種族にわたるインパクトを与えていることである」と定義。遺伝子組み換え食品など「食べられる」新バイオロジー革命を紹介した。果敢に新しい食品技術の導入を図ることで、人口爆発に伴う食糧増産に対応すべきだと主張した。

 同時に、こうした技術の発展の恩恵を受けることの難しさは、対象が食べ物という、誰しもが特別な感慨を抱く点にあるとも指摘した。ノスタルジーを伴う心理状態が、偽情報や無知の入り込む隙を作ってしまうのだという。科学者は自らの役割を果たすため、インターネットやSNSが影響力を持つ21世紀に合ったコミュニケーションのしかたを学ぶべきだと述べた。

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 両日程の最後に行われた総括セッションでは、当イベントのホストで、デジタルガレージの共同創業者/取締役でもあるMITメディアラボ所長の伊藤穰一氏と、各日のセッションをそれぞれ代表して暦本教授とメトカルフェ氏が討論を行った。

伊藤穣一(The New Context Conference 2017のパネルディスカッションにて)

伊藤穣一(The New Context Conference 2017のパネルディスカッションにて)

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「食べ物が安全安心だとか追跡可能だなどと言っても、味がまずければ始まらない」とする暦本教授。そこで伊藤氏はメトカルフェ氏に、「オーグメンテーション技術によっておいしく粉飾した食べ物を出されたとしたら、どう思いますか」と投げかけると、「騙されたと思うでしょうね」とメトカルフェ氏。伊藤氏は、「オーグメンテーション技術で体に良くないものまで味を変えて食べられるようにできるかもしれないが、ここで生じるのは、倫理的で基本的な問いである。より残酷な真実に気づくことのできるオーグメンテーション技術か、それとも幸せのためにより少ない食糧を甘受するか。より根本的で、倫理的な問いが生じる」と指摘した。

 倫理的な問題について、伊藤氏はさらに「一般の人々は科学者を信じているが、科学者は科学者を信じていない」という文言を引用し、研究が資金提供元の企業の影響を受けているなどの現状から、科学の倫理そのものが揺らいでいると述べた。最後に、日本の中学生との対話で気候変動をテーマに討論した時のエピソードを紹介し、2日間の会議を締め括った。

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「ある男子生徒は、『人間がいる場合と、そうでない場合のどちらについて議論するのですか』という非常に洗練された質問をした。すると、別の女子生徒が、『気候変動について語る上でまず、幸せとか生きることの意味を理解することがまず重要ではないでしょうか』と言ったのである。

 現状を問い直し、そこで自分の考えを明確にすること。それこそが、科学者や企業などそれぞれが現状では行っていないことであり、我々が今まさに取り組まなければならない問題なのである」。

(翻訳・編集 株式会社ポッセ・ニッポン)

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