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オンライン講座でバイオハッカーになる 

宿題には実験が必要なことも

宿題には実験が必要なことも

 本サイトでも、これまでに何度かストリートバイオやバイオハックを取り上げてきた。こうしたムーブメントを知るに及んで、現在は全く異なった分野で勉強をしている学生の皆さんや、すでに生物や遺伝子とは無縁の職に就いている人たちの中にも、あらためてこの分野の研究者になってみたいと考えている人がいるのではないだろうか。専門書や論文を読み、国内各地のラボが主催するイベントに参加するだけでは趣味の範疇を超えない。もっと本格的なモノに参加したいと考えている人に向けて、今回は MITが実施している生物学のオンライン講座と筆者も参加している国内のコミュニティを紹介したい。

 Fab Academyは、MITのニール・ガーシェンフェルド氏らが2009年から毎年実施している。ここでは「How To Make (Almost) Anything」(以下HTMAA)という名前通りなんでも自分で作ってみようという講座を実施しており、これまでの受講者などを含め世界中で500以上のラボなどがコミュニティを形成している。

 HTMAAは、毎年1月から6月までの5ヶ月間毎週水曜日、計16の講義で構成されており、受講料は5,000ドルと決して安くはないが、受講者には卒業証書が発行される。各講義では、デジタルファブリケーションや3Dモデリング、プログラミングなどの技術的な講義をはじめ、知財や収益化などのビジネスサイドの講義などが行われる。講義は、講師陣がSkypeなどを通して直接行い、後日収録された動画が一般公開されるので、受講しなかった人たちも過去の講義や資料を見ることができる。世界各都市にあるFab Academyの拠点として活動する ラボもではこれまでの受講者と交流することができる。日本国内にもあるので興味のある方は是非調べてみよう。2018年度Fab Academyの募集も始まっている。 

 Fab Academyと同様の仕組みで、2016年から実施されているBio Academyの「How To Grow (Almost) Anything」(以下:HTGAA)がある。HTGAAはHTMAAと同じく受講料は5,000ドルで、9月から1月までの5ヶ月間毎週水曜日、計16の講義で構成される。講師陣には、著名な遺伝学者であるハーバード大学教授のジョージ・チャーチ氏やケビン・エスベルト氏、ケイト・アダマラ氏、ジョセフ・ジェイコブソン氏をはじめとする生物学界のスターたちがおり、講義の際には彼らとも直接議論ができる。各講義では、DNAやタンパク質、顕微鏡技術、細胞培養などの基礎的な知識から、FISSEQ などの応用的で一線級の技術までが学べる。

 また、毎回出される宿題のレベルが高いのも特徴的だ。例えば、オリジナルタンパク質のデザイン、既知の生合成経路を組み合わせた新たな実用的な合成経路の設計、蛍光顕微鏡の自作、手羽先から軟骨細胞を取り出し初代培養するなど、どれも初学者たちにはハードルが高いが、講師陣の用意した資料を参考に、データベースや論文を読みながら実際に手を動かして学習できる。筆者も毎週、今年の受講者の方の勉強や宿題のサポートをしているが、体験を通じて学ぶことができるので非常に新鮮で得るものが多い。

 さらに、座学だけではなく、実際に多くの実験も行う。実験に使用する試薬や設備は受講料の一部から支払う。地域や環境によってこれらへのアクセスが制限される場合は他ラボと連携したり文章等で提出したりもできる。これらの実験は、一般的な実験教室や体験ワークショップとは異なり、より本格的で講師陣の専門に沿った課題が用意されている。論文などに掲載されているプロトコル(実験マニュアル)を用いるため密度が高く実践的な知識を素早く得られるようになっている。

 公式ページには、完璧に受講するには最低でも週に30時間必要と書かれているが、筆者を含め過去の受講者、他の受講者達と協力して受講することができるので心配無用だ。 

 このように初学者には少々ハードルの高い内容であるが、各分野をリードする研究者や企業による質の高い講義は、生物学とDIYバイオの 世界へ足を踏み入れるには最適な講座と言えるだろう。また、生物学を学ぶだけでなく、世界中の研究者やバイオハッカーコミュニティとつながる貴重な機会も得ることができる。9月にMITメディアラボで開催された世界中のバイオハッカーたち約200人が 一堂に会したGlobal Community Bio Summitなどに関心のある方などにはうってつけだ。

 「いやいや、いきなり5,000ドルの講座はちょっと」という方は、オンラインでも映像や資料を閲覧できる。また、まずは話を聞いてみたいという方は、 渋谷のMTRLで毎週火曜日19時から行われているバイオハッカーコミュニティのBio Clubのミーティングには、筆者や過去の受講者、DIYバイオに詳しい人々も数多く参加しているので興味のある方は渋谷に立ち寄った際は是非足を運んでみよう。

Written by

Wild Scientist
DG Lab 海外特派員
MIT Media Lab Research Affiliate

中学生時代、家族や友人の病気をきっかけに、免疫学分野で主にIgE抗体とクラススイッチング、エピジェネティクス分野でDNAメチル化中心に生物学を学び始める。
高校生時代には、研究費と試薬を集め、株式会社リバネスのラボや京都大学のラボを始め、様々な機関のラボで設備を借りながらDNAメチル化に関する研究を行った。高校卒業後は、フリーの研究者として研究を継続し、現在は主に生命を理解するための研究を行っている。