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読書もいいけど外に出よう!バイオテクノロジーの世界を目指す若い人たちへ

片野晃輔さん(左)榎本輝也さん(右)

片野晃輔さん(左)榎本輝也さん(右)

スポーツ選手や学校の先生になりたいという子供たちは多い。また、就活生の「就職したい会社ランキング」などには、IT企業や金融などの企業の名前が上位に挙がっている。だが、そんな職業や企業には目もくれず、バイオテクノロジーの研究分野にまっすぐ飛び込み、活躍する人たちが少ないながらも存在する。そういった人たちはどのようにして、バイオテクノロジー業界へと続く道を見つけ、その分野のスペシャリストとなったのだろうか。進路選択のきっかけやお勧めの本、バイオテクノロジーの世界に参加するにはどんな心構えや、ものの見方が大切なのか。夏休みも終盤。あるいはすでに2学期の授業が始まっている学校もあるだろう。宿題を片づけたり、進路考えたりするこの時期に参考にしたい話題を、この分野で活躍する3人に語ってもらった。

東京工業大学情報理工学院の研究員でDG Labのアドバイザーでもある榎本輝也さんと、当サイトのコラムでもおなじみの若きバイオテクノロジー研究者の片野晃輔さん。加えて、デジタルガレージのバイオテクノロジー分野のビジネス開発を担当する宇佐美克明が司会進行役で参加した。

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バイオテクノロジーへ至る道筋は三者三様

司会進行の宇佐美克明

司会進行の宇佐美克明

宇佐美:まず、自己紹介から始めましょうか。最初ですからまずは僕から話しますね。僕は、いまでもそうなんですが、高校の時に「地球のお医者さん」になりたいと思ったんです。それでどうすればいいかと考えて、東工大に入って研究者になる道を模索したのですが、長年研究しても必ずしも成果が出ないこともあることがわかって、違うアプローチを求めて在学中にNGOのグリーンピースジャパンで1年間弱ぐらいインターンをやってみました。ロビー活動したり、調査報告書を出したりするんですが、どうもしっくりこないなと。それで自分が一番しっくりきたのがビジネスをしながら地球環境をよくするという道で、例えばトヨタ自動車のプリウスは、それまでより環境に優しい製品で、それが売れることにより会社も儲かるという流れを作る。こういったのがいいかなと。それで95%は大学院に進学する中で、残りの5%である就職組、それもスタートアップ企業に就職をしてビジネス経験を積む道を選び、今に至るというバックグラウンドです。

榎本:中学3年生の時に友達が持っていた『ブラック・ジャック』を読んでお医者さんって面白いなと。それが高校1年生ぐらいになると、お医者さんだと自分の診ている人しか治せない。けど、研究の方がそこで作ったもので多くの人を治せるかなと。当時、科学雑誌「ニュートン」やテレビの科学番組をよく見ていたのですが、そんな中でウイルスを使って病気を治すということが取り上げられていて、みんなが良くないと思っているもの(ウイルス)で病気を治すという、逆転の発想で研究ができれば面白いと思って高校時代を過ごしました。そして、それがきっかけで東工大に入り、ウイルスを使って薬剤や遺伝子を目的の細胞に届けることを目指した研究をやっていました。

片野:バイオテクノロジーを目指すようになったのは、中学1年の時に母が乳ガンになったことがきっかけです。それまではどちらかというと映画監督とか考古学者になりたいと思っていたんですが、ガンのことを調べ出したのが、ちょうどスマホが普及してきた時だったので、論文などもそれで手軽に調べることができて、ガンのメカニズムなんかもちょっとずつ勉強できました。通っていた中学が医者になろうという人が多い学校だったけど、自分は研究などで知識に貢献したいなと。その後、専門書や英語の論文などを見ることが多くなり、その途中で友人のそばアレルギーに興味を持ったり、サイアメント(SCIEMENT)の瀬尾さんが作る抗体の3DCGモデルが綺麗で感動したりなど、免疫系の勉強なども少しずつスタートしました。そして連鎖的にバイオロジーの分野に興味が広がり今に至るという感じです。

宇佐美:自己紹介の中でおふたりから本を読むという話が出てきたんですが、おすすめの本って何ですかね。僕の場合はニコラス・ネグロポンテ『ビーイング・デジタル ビットの時代』がおすすめです。90年代半ばの時点で、新聞がデジタルコンテンツ化することや、テレビがネットに繋がりCMがカスタマイズされることなど、まさに今起きていることがしっかり予言されており、それは著者が技術の本質を捉えているからこそ、これだけ精度が高い予想ができるんだなと。

片野:僕は高校受験の間に勉強せずに『理系の子』という本を読んでました。アメリカのサイエンス・フェアに選抜された中高校生たちのドキュメンタリーなんですが、そこに出てくる人たちは何を言われても全然諦めないんです。なんでかというと、解決したい問題があってモチベーションがすごく高いから。諦めない精神をこの本から学びました。

榎本:エルヴィン・シュレーディンガーの『生命とは何か』は、今は主流になった分子生物学の発祥となる本です。作者は物理学者なんですけど、物理学の立場から見ると生命現象はこう見えるという内容です。あとはチャールズ・ダーウィンの『種の起源』。あの時代に自然選択説を唱えることの危険性を分かった上で、批判にとどまらず、鋭くそして入念な観察と、そこから得られたデータに基づき丁寧に説明していくのはすごいなと思いました。

 

プラモデル、木工、昆虫採集は理系の兆し

宇佐美:つぎに学生時代のことをうかがいたいのですが、日本の学校では早い段階で文系理系選択の機会がありますが、おふたりは迷わず理系だったのですか?

片野:そうですね。理系でないと生物が選べなかったので(笑)

榎本:父親が理系だったことも関係していると思いますが、実際に手を動かしてものを作ることが好きで、理系だと物理や化学の実験ができるので。

宇佐美:もうちょっと遡って、小学校の時はサイエンスとふれあいはありましたか?例えば自由研究などはどんなことされていたのですか。

 

片野晃輔さん

片野晃輔さん

片野:僕は小学校の時はずっとガンプラ(ガンダムのプラモデル)作ったり、木工したり、生物学というよりエンジニアリング的なものに興味がありました。そうなったのは父が自動車関連の仕事をしており、エンジンのオーバーホールを生で見ていたりしていたので。

榎本:僕もミニ四駆とプラモ。それも行ったことのあるお城のプラモデル作ったりしてました。それと夏休みは昆虫採集ですね。あと、父親に連れて行ってもらったのは木工体験教室で、電動ノコギリで鳥の巣箱作ったりといった体験です。

宇佐美:僕も群馬県在住だったので夏休みは「赤城ふれあいの森」というところに行って、木工で本棚とか作ったりしてました。文系教科は苦手だったので「古文なんて……」と思っていたのですが、文系科目はいかがでしたか?

片野:むっちゃ苦手でした(笑)論文の英語は読むんですけど、授業の英語は苦手で、歴史も苦手でしたけど、「信長の野望」とかやって、歴史の勉強はこうやってするのがいいよなと思ったりして、教室に座って聴くの辛かったです。

榎本:僕も国語と社会は苦手でした。旅行に行ったところの歴史などは率先して覚えることができるのですが、教科書読んで何かするのは苦手でした。僕は活字で覚えるより体験で記憶していくタイプです。人によってそのタイプが異なるでしょうから、もしかすると教育を考える際には活字型と体験型とタイプを分けて考えてみてもいいのかもしれませんね。

おすすめは「外に出てあれこれ疑問をもつこと」

宇佐美:おふたりのように、本やマンガがバイオテクノロジーの知識に近づくきっかけになることもあるでしょうけど、最近では「DIYバイオ」「ストリートバイオ」などのようにバイオテクノロジー体験が身近にできる施設なども増えてきています。いろんな方法があるとは思いますが、バイオテクノロジーに興味を持つきっかけを作るにはどうすればいいと思いますか

片野:ラボや実験キットでの体験がきっかけになるということも、いいことだとは思うのですが、僕の場合は、目の前にある現象に対する疑問や不満、解決できない謎を追うため外に出るのがいいんじゃないかと思います。

榎本輝也さん

榎本輝也さん

榎本:僕も片野さんと同じ考え方で、外に出て遊ぶ中で「なんでこうなっているのだろう」という視点をもつことができればそれがきっかけになると思います。僕の場合、父親が持っていた水槽に夏休みに取ってきたエビやカニなどを飼っていて、それを見ていると、イソギンチャクが増えたりなんかして「やべ!こいつら分裂している!どうなってるの?」 と。ただ遊ぶのではなく、ちょっとだけ疑問を持てば世界の見方が変わるし、それ以上の興味があるなら、どこかで子供向けのバイオテクノロジーのイベントに参加してみるとか、子供電話相談室など利用してみるとか。

片野:ちょっと付け加えて言うなら、子供の時は親が一番の情報源なので、親に聞くことが多いと思うんですが、あんまり親が答えちゃいけないなと思ってます。質問されるとなんとなく知っている範囲でそれらしく答えてしまっているけど、本当はその原理とか詳しいことは知らないじゃないですか、だから親だって知らないから一緒に調べるようにするとか。Wikiサーフィンなどの調べる方法や親も含めそれらの情報が常に正しいとは限らないことなどを教えてあげて、疑問投げかけて放置したほうが面白いんじゃないかなと思いますね。

宇佐美:さてズバリ、おふたりがやっておられるバイオテクノロジーの一番の魅力ってなんでしょうか?なんでそんなに熱中できるのかというところをお聞きしたいのですが。

片野:自分たち人間がバイオロジーやバイオテクノロジーの括りに含まれている(人間も生物である)ので、生命や自分自身を理解できそうな気もするし遠い気もするし、その駆け引きがエキサイティングだなと。世界は謎だらけなのでバイオテクノロジーを持ってそれに立ち向かうというのもおもしろいですね。

榎本:まず、生命って何だろう。生命の本質を見てみたいという気持ちがあります。バイオテクノロジーって、わからない領域を見たいと思って誰かが作ってきた技術ですし、そこで自分の疑問を解決するためのテクノロジーは魅力的ですね。

 

大人の自由研究は?海に行って巨大ウイルスを探す

宇佐美:ところで大人になった今、夏休みの宿題で自由研究があったとするとどんなことしますか。

片野 やりたいことはいっぱいあるんですが……。ちょっと研究っぽくなるんですが、カキって遺伝子があまり読まれていなくて種がよくわからないと聞いたんです。カキの種を判別することを子供が簡単に出来るようになれば面白いなあと。ある論文でカーボンナノチューブの周囲にDNAが巻き付くと、お互い影響しあって色が変わり視覚的な観察ができるということを知ったんですけど、これを使った子供向け実験キットでカキの種が判別できれば面白いと思います。こっちのカキはオレンジ色になったけど、こっちは紫とかカキの種によって色が変わるみたいなことができればやってみたいなと。水質調査キットみたいなDNA調査キットを作れたらいいですね。

榎本:夏は海に行くことが多いので、海に関する研究がしたいなと思うのですが……。

宇佐美:おお、それでは榎本さんもカキですね(笑)

榎本:いや、カキというのもありえて、巨大ウイルスは、カキの中に生息するアメーバーに感染していると東京理科大学の武村先生から聞いたことがあります。いろんなところのカキを集めて、巨大ウイルスを単離して遺伝子解析するという研究。レジャーでいろんなところに遊びに行ったときに集めてきたものでできる科学実験であればおもしろいですね。サーフィンとか海水浴で行った先の海でサンプル集めてウイルス見つけて……。

片野:海ではあんまり結果をみんなに詳しく言わない方がいいかもしれないですね。海水浴場でウイルスなんで(笑)

榎本:巨大ウイルスは人には害を及ぼさないらしいですよ。この研究って新しい分野なので、ある場所で新しいウイルスが見つかれば自分で名前が決められるんです。

片野:星も新しいのを見つけたら名前をつけることができるけど、生物は知らないものがまだまだいっぱいあるので、星よりも命名できる可能性はありそうですね。海の砂浜にも有孔虫とか未知の生き物がたくさんいるので、海は科学の宝庫だなと思います。

榎本:ノーベル賞の大村先生のように、ゴルフ場で面白い菌が発見できるということもあるので、宇佐美さんもゴルフいったときに土とってきてください。

片野:それで地球が救えるかもしれません

宇佐美:じゃあ取ってきます(笑)

 

科学者への心構えは、楽天的に「不満を持って」「疑って」

宇佐美:では最後の質問ですが、サイエンティストの卵に向けてメッセージを。

片野:いろんなところで同じような質問されるのですが、メッセージとしては「不満を持とう」と。最近は親も子供も満足しちゃっているひとが多いんじゃないかと思います。不満を持たないと受け身になり自分で改善しない。例えば「暑いからクーラー作ろう」とか、中学の時に実際にやってたんですけど。楽観的に不満をもつ。イライラするのではなくて、技術で何でも解決できるよと楽観的に考えてハイなテンションで不満を持って自分で解決できるように。親も満足させる方向にお金を使うのではなく、不満を持つ方向に(笑)

榎本:高校時代とかそうだったのですけど、大人が言っていることが100%正しいのか?疑いの目で見るというのをずっとやってました。本当に正しいのか。自分だったら、正しいことをどう証明するのかそういった見方をすると、ちょっと違った世界が見える。授業もおそらく正しい内容教えているんだろうけど、本当なのか自分でやってみないとわからない。最初は信じないで、信じるためにはどうすればいいのだろうかと考えることでおもしろい展開になるかもしれないですね。サイエンスの本質は疑って証明すること。「ホント?」というのが大事。生物学の教科書も、新しい事実が見つかるごとに更新されるので、まず疑ってみるのが大事です。

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