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仮想通貨の先へ~官製デジタル通貨、慈善活動などブロックチェーン技術の応用進む中国

中国の大手仮想通貨取引所「BTCチャイナ」、9月30日をもってすべての取引業務を停止と声明

中国の大手仮想通貨取引所「BTCチャイナ」、9月30日をもってすべての取引業務を停止と声明

 2017年9月、中国仮想通貨業界に激震が走った。中国当局は「ICOリスク防止に関する公告」を通達、仮想通貨取引所の取引業務を禁止した。

 ICO(イニシャル・コイン・オファリング)とは「トークン」(ブロックチェーン技術による独自コイン)を発行して資金調達を行う仕組みだ。株式と引き換えに資金を調達するIPO(イニシャル・パブリック・オファリング、株式公開)と似た仕組みだが、規制がないため採算性がないプロジェクトでも資金調達が行えるなど、金融不安につながりかねないと懸念されていた。

 このトークンは、ビットコインなど仮想通貨と同じくブロックチェーン技術によって運用されているため、中国では仮想通貨取引所が発行及び転売を仲介するケースが多かった。そのためICOと仮想通貨は別物にもかかわらず同時に規制されることとなった。

 もっとも仮想通貨の規制そのものに驚きはない。中国政府は資金移動を規制しており、資金流出を規制するべく監視の目を光らせている。規制が難しい仮想通貨は中国にとっては相性が悪い新技術だ。その仮想通貨をこれまで禁止してこなかったのは、ブロックチェーンが新時代のスタンダードになる可能性を見込み育成する目的があったとされる。これまでは目をつぶってきたが、やはりリスクが大きすぎるとして禁止に踏み出したというのが実情だろう。

官製デジタル通貨の取り組み

 実際、中国当局は「官製デジタル通貨」構築にいち早く取り組んでいる。中国人民銀行(中央銀行)は2014年に法定デジタル通貨発行を検討する研究グループを結成。2016年末にはブロックチェーン技術を用いた小切手市場流通プラットフォームの運用が始まった。2017年7月にはデジタル通貨研究所を設立した。最終的な目標と噂されるのが、ブロックチェーンを活用した人民元のデジタル化だ。

 デジタル通貨研究所の姚前所長は11月4日、シンポジウム「第2回デジタル金融の中国時代」に出席し、法定デジタル通貨の利便性を4点にまとめている。第一に決済、決算のすべてがデジタル化されることにより自動化が進み効率が増す。第二に資金移動の流れが可視化されることにより、農民や貧困層にも融資、決済などの金融サービスが提供できる。

 第三に資金移動の可視化によって中央銀行は資金移動のすべてに関する情報が取得可能となり、適切な金融政策を展開する助けとなる。第四に経済の津々浦々まで把握できるため、小さな動きも見逃さない金融リスク防止システムの構築が可能になる。

 仮想通貨の特徴の一つである匿名性を弱めた官製デジタル通貨によって、当局がすべての金融情報を把握できることが最大のメリットと言えそうだ。13億人の大国だけに適切なタイミングで金融政策を打ち出せずに苦しんでいる中国にとってはきわめて魅力的な新技術と言える。

民間ブロックチェーン技術の行方

 一方、民間の仮想通貨業界の先行きは不透明だ。仮想通貨を生み出す採掘(マイニング)に関しては従来通り規制はされない見通しだ。一部報道ではマイニング企業への規制が入ったとも報じられているが、これは業務に対する規制ではなく、独自に発電所を設立したり、発電所からの専用線を引いたりすることに対する規制だ。マイニング企業はいかに安く電力を調達するかに腐心しているが、公用の電力網を迂回することは許されないと電力当局が警告している。

 一方、取引所は仮想通貨と人民元の兌換業務が禁止されたほか、仮想通貨に関するセミナー開催まで禁止される事例が相次いでいる。広東省の中堅取引所幹部は筆者の取材に答え、「何が禁止なのかが不透明だ。仮想通貨と人民元の兌換業務禁止は明記されているが、セミナーや情報サイトまでダメなのか。地域によっても判断がまちまちで混乱している」と明かした。

 同幹部によると、不透明な規制が続く中、仮想通貨取引所業界ではブロックチェーン技術の応用を摸索する動きが広がっている。「保険や公文書など、ブロックチェーン技術を使って電子記録を残すサービスに転身しようとする動きが広がっている。我々も検討しているが、この分野で最終的にブロックチェーン技術が採用されるかは未知数だ。技術が採用されるかどうかは、利便性とコストで決まる。ブロックチェーン技術を活用したサービスが、他の技術よりもコスト面で優位性があるかどうかがカギだ。」

 ブロックチェーン技術が、仮想通貨以外で今後どのように活用できるのかは未知数だが、中国EC大手アリババグループは先進的な取り組みを続けている。同社が展開する越境ECプラットフォーム「Tモール・グローバル」では海外からの輸入品に対し、ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティーシステム(流通経路把握システム)を実装した。どの地域で生産され、どのような経路で輸入され、消費者の手元に届いたのかを改ざんできない電子記録で明示することによって、ニセモノに対する不安を一掃しようとしている。

アリババのヘルステック部門「アリヘルス」によるブロックチェーン技術活用のカルテ・健康診断管理模式図

アリババのヘルステック部門「アリヘルス」によるブロックチェーン技術活用のカルテ・健康診断管理模式図

 また、アリババのヘルステック部門「アリヘルス」でもブロックチェーン技術を活用している。既存の診療所で健康診断を実施し、AIによって大型病院での再検査、治療が必要と判断された場合、そのデータはブロックチェーン技術によって改ざんできない情報に加工され、大型病院、診療所、そして政府衛生部門との間で共有される。

 さらに、アリババグループの関連企業である金融企業アントフィナンシャル・グループにおいても、ブロックチェーン技術によって慈善活動の透明化にトライしている。中国では慈善活動に関して疑心暗鬼を抱く人が多い。支払った金が本当に助けを求めている人のところに届いているかわからないというのだ。アントフィナンシャル・グループの新プロジェクト「アント・ラブ」は寄付金の受付、移動の記録をブロックチェーン技術で記帳、透明化している。

 「世界一のニセモノ大国」という不名誉な称号を持つ中国においては、「改ざん不能」というブロックチェーン技術の価値は他国以上に高い。企業の新技術導入に対する積極性が高いこともあいまって、今後もさらなる応用が進みそうだ。

高口康太 Written by
ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国専門のジャーナリストに。『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』など各誌に多数の記事を寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。