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ブロックチェーン「技術」と「規制」の現在地と次のステップは~フィンサム2018&レグサムから

セッション「当局者はブロックチェーンをどう見るか?」

セッション「当局者はブロックチェーンをどう見るか?」

 フィンテックをテーマにしたイベント「フィンサム2018&レグサム」(主催・日本経済新聞社、 金融庁)が2018年9月25日~28日に東京で開催された。国内外の金融当局や企業、アカデミズムからフィンテックの担当者、研究者が集まり、数多くのプレゼンテーションや議論が繰り広げられた。

 その中のひとつとして、当媒体への寄稿者でもあるジョージタウン大学の松尾真一郎教授の司会進行により開催された「Scaling Bitcoin:Latest technology to extend the real value of blockchains(Scaling Bitcoin:ブロックチェーンの真価を引き出す最新技術)」と題されたセッションが行われた。登壇者はBlockstreamのCSOであるサムソン・モウ氏(Samson Mow)とデジタルガレージのDG LabでブロックチェーンCTOを務める渡邉太郎。どちらもブロックチェーンのなかでもビットコイン関連の技術開発に取り組んでいる。

 セキュリティやコスト面で優れた特性をもつビットコインのシステムも、仮想通貨取引やブロックチェーンの活用が期待されるスマートコントラクトでの利用となると、技術的な課題や制約がある。

 特に、ここ数年で急速に膨らんだ仮想通貨ビットコインの取引や決済をスムーズに行うための処理能力が問題になっている。これがいわゆる”Scaling”の問題であり、この問題を解決するために、さまざまな技術が開発されている。

 そのひとつとして、最初に登壇したモウ氏からはBlockstream社が取り組むサイドチェーン「Liquid」が紹介された。これはビットコイン取引における取引所とその参加者の間での資金移動を迅速に行うための技術である。また、ビットコインが広く日常の決済手段となるにあたって期待される、少額決済などを可能にする技術Lightning Networkについての説明もあった。「Liquid」はメインチェーンとは別のサイドチェーン上で処理を行うことで速度を上げ、Lightning Networkはオフチェーンと呼ばれるブロックチェーンの外で処理の高速化を図るなどの課題解決をはかっている。

講演を行ったデジタルガレージの渡邉太郎

講演を行ったデジタルガレージの渡邉太郎

 続いて登壇した渡邉から、最新の技術動向として「Lightning Network」に加え、現在ビットコインのトランザクション署名として利用されているECDSAよりもデータサイズの小さいSchnorr署名が紹介された。これは複数のトランザクションに必要な署名をひとつにまとめることができる。セキュリティ上の理由から一般的となったマルチシグ(トランザクションに複数の鍵で署名を行うことでセキュリティを強める方式)など、署名回数が多い場面でも、これらを集約することができる。その結果、データサイズが格段に小さくなり、また複数の異なる署名をまとめるため、どのスクリプトも同じ署名値(数値)となる。個々の署名値が隠されることで、取引の秘匿性が高まり通貨としての”Fungibility(代替可能性)”の観点からも有望な技術だ。

 ビットコインの技術的な課題については、このように次々と新たな解決策が提案されており、その実装も着実に進んでいる。Scalingの問題などが解決されると、国境を超えた決済手段として、またマイクロペイメントを実現するオンライン決済の手段としてコスト効率高いビットコインの利用は飛躍的に拡大する可能性がある。

 ところで、もしそうした未来が実現すればの話だが、渡邉が講演の最後に発した、非中央集権的に運営されるビットコインが普及した世界では「規制や、監視が難しい技術が(決済手段として)どんどんと一般に浸透していってしまう。これが通貨や決済に関わる分野で進行するとこれまで金融当局が行ってきたガバナンスは、だれがどのように担うのか?」という問いかけに対する解が、現時点でどの程度準備が進んでいるのか、非常に興味深い。

 ビットコインの技術に関する課題は技術者の範疇にあり、日々改良がなされていく。より使い勝手が良くなった技術は、日常的にさまざまな場面で活用されるようになる。それは従来、この分野で重きをなしていたプレイヤーの思惑やルール・規制の整備に先行する形で進展していくことはインターネット普及の足跡を見ても明らかだ。

* * *

 翌日午前のセッションで「当局者はブロックチェーンをどう見るか?」と題したシンポジウムがおこなわれた。話題は、中央銀行が仮想通貨を発行することについてどう考えるのかや分散台帳技術をどう取り込むのか、またICOをどのようなものととらえ、類型化し、どう対応するのかといったことで、それぞれの取り組みは興味深いものだった。

 しかし、規制当局や金融界は既存の業務に直接関連するイノベーションの評価に忙しく、その先にあるグローバルかつ非中央集権的なシステムに関しては、その存在は意識しつつも、予想される課題に正面から取り組むには至っていないように見受けられた。

問題を共有する必要があると話す松尾氏と説明のスライド

問題を共有する必要があると話す松尾氏と説明のスライド

 当局者もクロスボーダーの取引にはブロックチェーンが有効だと気付いており、この分野に関しては国際協力が必要だとの共通認識はある。また、このシンポジウムの第二部として行われた「技術コミュニティはブロックチェーンをどう見るか?」でも、取引所からの仮想通貨の流出とその追跡などの問題など、技術だけでは解決不可能で、グローバルな当局者の関与が必要であること。そのためには規制当局やその他の関係者も含めたコミュニケーション、それも「共通の場所で共通の言語で会話する(松尾真一郎 ジョージタウン大学教授)」機会を持つべきでありそれがさまざまな課題の速やかな解決につながるのではとの提案があった。

 ブロックチェーンの社会実装は予想を上回る速さで進んでおり、技術者も当局者も自分たちだけで解決できる課題の範囲を超えていると感じ始めている。だとすれば、お互いに課題を理解し共有できるような環境を整え議論し必要な対策を講じる。今はそうした次のステップに進む時が来ているように感じられた。

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朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。