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スタートアップの街ボストンで見たエコシステムの未来とは その3

イメージ:エコシステムとスタートアップ 

イメージ:エコシステムとスタートアップ 

 ここまで2回にわたって、ボストンのスタートアップエコシステムを紹介してきた。ここでは、ボストンの現状を踏まえ、これからの日本においてスタートアップエコシステムを構築拡張するにはどのようにすればよいのかを考えてみたい。

コワーキングスペースは乱立から統合、大規模なものへ

 東京にはすでに100以上のコワーキングスペースが存在している。各施設の広さまで詳細に把握はできていないが、数十席程のスペースの施設も多くみられる。前回の記事で紹介したCICの例で見るように、これから必要とされるコワーキングスペースは、物理的な場所の提供だけではなく、同じスペース内で事業成長に必要な要素をすべて兼ね備えた巨大な施設ではないだろうか。理想的には以下の各要素が入居したコワーキングスペースが望ましい。

  • スタートアップ企業
  • ベンチャーキャピタル
  • レギュレーター(金融庁やPMDAなど)
  • 大企業のスタートアップへの投資・協業の担当者
  • 大学の起業推進の担当者/TLOの担当者
  • アクセラレータープログラム運営者
  • イベント運営者
  • スタートアップに精通した弁護士
  • 海外展開をサポートする会社、団体
    理想のコワーキングスペースとは?(写真はイメージです) 

    理想のコワーキングスペースとは?(写真はイメージです)

 このような多様性をもたせるためには、各企業・団体がわざわざ人を配置するに値する価値を生む必要があり、それは有望なスタートアップの入居数を多くすることで解決できる 。そのため多くのスタートアップが入居可能な巨大なスペースが必要になる。もしくは、既存の小規模のコワーキングスペースをネットワーク化して、物理的には離れているが、最新のテレビ会議システムやVR/AR技術を駆使しながら、同じ空間で働いているかのような環境を作ることでも実現できるかもしれない。

日本に優位性のある産業でインキュベーションを

 世界で勝負するスタートアップを生み出すために、日本に優位性のある産業分野に絞りインキュベーションを加速させることも考えられる。シリコンバレーはあらゆる産業のスタートアップが集結しているが、ボストンはヘルスケア・バイオテクノロジー、中国の深センはハードウェア、イスラエルはサイバーセキュリティなど、地の利を活かして世界で勝負している例も多い。日本では高齢化社会関連の技術・サービス、再生医療。また他国の猛追をうけているものの自動車、ロボット産業なども今後はスタートアップを取り込んでいくことで、優位性を保てるかもしれない。

 日本の65歳以上の高齢者の割合は28%を超え、世界で最も高い。介護人材不足や医療費の増加など直面している問題は深刻であるがゆえ、イノベーションの種が多く埋まっている。また、アクティブシニア向けのサービスなど新たな産業も生まれてくる。ロボット産業においては技術のみならず、文化の面でも利があると言える。それは、米国ではアニメや映画などでロボットvs人間の描写が多いのに対し、日本ではドラえもんや鉄腕アトムなど人間と共存するロボットが描かれているため、ロボットが生活に入り込む心理的ハードルが他国に比べ低いかもしれない。

大学における起業ムーブメントと新たな仕組み

 学生が職業選択をする上で「起業」という道を認識してもらうためのムーブメントが必要であり、すでにいくつかの大学ではそのための特色あるプログラムを提供している。例えば、東京大学のアントレプレナー道場、九州大学の起業部、東北大学のスタートアップガレージなどがそうだ。また、大学発スタートアップで活躍し、シンボリックな存在になりつつある会社も増えてきた。ペプチドリーム(東証1部上場)、ユーグレナ(東証1部上場)、SCHAFT(グーグルに買収)などがそうだ。

 新たな仕組みとして今後整備する必要があるのはつぎの2点だ。ひとつは、知財ライセンスの対価の支払い方法に株式など現金以外の手段を取り入れること、もうひとつは、研究者と起業家、エンジニアのマッチングを大学の枠を超えて推進することだ。

 すばらしい技術があり、これらの仕組みや人材が整えば、日本にも今以上のイノベーションが生まれるに違いない。

* * *

 3回に渡り、スタートアップエコシステムにおけるボストンの現状と日本の未来を紹介した。海外の事例を真似てそれをそのまま日本にもってきてもうまくいくことはなく、日本の現状、強み、文化などに沿った形で日本独自のスタートアップエコシステムの築き方をしていく必要があると考える。スタートアップ、ベンチャーキャピタル、コワーキングスペース運営会社、国も目指しているゴールは同じであるので、これらの関係者が協力して世界に誇れる日本独自のスタートアップエコシステムを築きあげ、 世界にインパクトを与える革新的なスタートアップが生まれる日もそう遠くないように思われる。

>>連載のその1はこちら その2はこちらから

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DG LabでBioHealth分野を担当。東京工業大学 生命理工学部卒。学生時代は、生態系に与える影響を最小限にし、かつ経済効率性を向上させるグリーンケミストリーの研究を行う。卒業後はインターネット広告業界で経験を積み、インドネシアでインターネット広告代理店を立ち上げ。2016年に東京に戻りBioHealth分野にてテクノロジー×ビジネスの取り組みに従事。2018年5月よりボストンに移りMIT Media Labにて医療情報管理システムの研究及びスタートアップ企業への投資も手がける。