人がコンピューターを操作する接点(ユーザーインターフェース)は時代とともに変化してきた。PCではキーボードやマウス、スマートフォンではタッチパネルへと移行し、近年ではスマートスピーカーのように音声での操作も登場している。
さらに使いやすいインターフェースとは?近未来のインターフェースとして「人と人(バーチャルキャラクター)によるコミュニケーション」に取り組んでいるのがKDDIの「バーチャルキャラクター × xR」プロジェクトだ。
「xR」は、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)、MR(複合現実)などを総称する言葉。同プロジェクトは「キャラクターを動かす仕組み(AI)」と「キャラクターをリアルに感じて体験できる仕組み」のかけ算で生まれる価値を提供する。この取り組みは5G時代を見据えたもので、クリプトン・フューチャー・メディア(北海道札幌市)、フィールズグループ(東京都渋谷区)、パソナグループ(東京都千代田区)、長野県飯田市などのパートナーとビジネストライアルを開始した。「バーチャルキャラクター × xR」がビジネスや社会でどう展開されていくのか? KDDI本社を訪問し、2つのデモを体験した。
ひとつ目のデモは端末を通して見ると、会議室の隅っこで「初音ミク」が踊っている。しかも立体的で、横に立つと横顔や体を横から見ることができ、後ろに回ると後ろ姿が見える。ふたつ目は昨年のCEATECでも披露された、ビジネス現場向けでのバーチャルキャラクターの「受付担当」。カウンターの向こうにバーチャルキャラクターが座っており、5Gのことについて質問するといろいろなことを教えてくれるというデモだ。
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―― 具体的にどういうシーンのビジネスを想定されていますか?
大川 祥一氏(KDDIプロダクト開発1部マネージャー 以下、大川):パソナさんと考えているのが、バーチャルキャラクターを派遣してお仕事をしてもらうということです。
―― バーチャルな「人」が仕事に来るということですか?
大川:たとえば博物館では音声案内がありますね。あれは立派な仕事です。しかし、「人のカタチ」として、ちゃんと手で案内してくれた方が、より暖かいインターフェースではないでしょうか。案内や受付という仕事は十分可能性があります。
また、個人向けのサービスとしては、「そのキャラクターと生活したい」というニーズがあると考えています。スマートスピーカーなどは音声で使えるインターフェースということで浸透していますが、もっと突き詰めると「人」とのコミュニケーションは高齢者にもやりやすいこと。たとえば家に帰ったら、好きなキャラクターがあれこれ家事を手伝ってくれたり、提案を聞いたりしてくれる。そのやり取りで要望を満たしてくれるとうれしいでしょう。
―― わたしが家に帰ると大好きなキャラクターが出迎えてくれて「ご飯にしますか?」「お風呂にしますか?」と聞いてくれるのですか?(笑)
水田 修氏(KDDIプロダクト開発1部マネージャー 以下、水田):そういう世界です(笑)。よく自分のことを理解している人(キャラクター)が出迎えてくれます。それは今でもビッグデータをもとにしてリコメンドするということでいつも体験していることですが、「人」というインターフェースでやってみたらどうかしらという考え方なのです。
山﨑 あかり氏(KDDIプロダクト開発1部課長補佐 以下、山崎):バーチャルキャラクターというとすぐアニメぽいものを想像されますが、家のことをやってくれるので、メイドさんや家政婦さんの姿をしていてもいいわけです。美女よりふつうの人がよかったりするかも(笑)。
―― そういう「人」になにかをすすめられるとつい買っちゃうかもしれませんね(笑)。
山﨑:それどころか、キャラクターに「ゴメンもう買っちゃった」って言われたりして(笑)。
水田:いつの間にかキャラクターが投資して儲けてくれていたりして(笑)。
―― そういった独自の判断もするということは、バーチャルキャラクターはそれぞれ「脳」(AI)を持っているという認識でいいですか?
水田:はい。キャラクターは動いて、しゃべって、見て、感じて、案内してという人間の脳と同じことをやっています。キャラクターのAIというのがそこにあたります。
―― このようなバーチャルキャラクターの展開には、やはり大容量、低遅延の5Gが必要ということでしょうか?
大川:5Gであれば、サーバー側のレスポンスもかなり早くなりますし、バーチャルキャラクターを動かしていくためには大きな容量も必要ですから5G時代にはぴったりなサービスではないかと思っています。
水田:われわれの考え方としては、まず自分たちで「価値」のあるサービスを作り、5Gで価値をストレッチしていきたい。そもそも、このプロジェクトは社内のハッカソンをきっかけに生まれたものなんです。
山崎:「キャラクターと一緒に生活したいと思っている人に何が提供できるのか?」というところからはじまっているのです。
大川:「オタクがやりたかったことを技術で叶えましょう」という発想でしょうか。よくアニメ聖地に等身大のパネルがあるじゃないですか? あれがあるのは、そこに生きているキャラクターの姿が見たいから。それでは、カメラを通して見てもらえば、その世界ではキャラクターがちゃんと生きている、生活しているというものを作ってしまおうということで、試作し、サービスの形にしてみました。
水田:展示会では外国人のウケが非常にいいですね。「またクレージーな日本人がクレージーなものを作った!」と喜ばれています。
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最後に、これらサービスはスマートグラス(またはARグラス)に適していると思うが? と質問すると、相性は確かによさそうだが、それにこだわるものではないということだ。とにかく「人っぽいもの」をつくるというのがノウハウになると答えていただき、インタビューは終了した。KDDIという大企業にありながら、いい意味でのスタートアップのようなフットワークのよさそうなこのプロジェクトがどう展開していくのか注視したい。