ドローンはこの数年で急速に身近なものになった。1万円前後で入手できるドローンでも、そこそこのクオリティで空撮など楽しむことができる。このドローンを宅配や農薬散布など、産業利用しようという試みが進んでいる。
ドローンを本格的に産業利用するとなると、多くのドローンが上空を行き交うことになる。そうなると欠かせないのが、複数のドローンが秩序を保って空を飛ぶための「運航管理システム(UTMS= Universal Traffic Management Systems)」の構築と、低空域でヘリコプターや小型機などの有人機との接触を避けるための「衝突回避技術」の開発だ。
日本でこうした技術の開発を担っているのが、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NEDO」)だ。NEDOは、「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」(〜2021年)を立ち上げ、民間企業とともにドローン運行に関する技術の開発を推進するほか、ドローンの性能評価基準の検討や、プロジェクトの成果を国際標準化につなげる取り組みをしている。
ドローンが活躍する近未来への課題は何か。プロジェクトを統括するNEDOの宮本和彦氏に話を聞いた。
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――複数のドローンが同時に空を飛び交うためには、まずは「運航管理システム」が欠かせないと聞きました。これはどのようなものでしょう?
運航管理(UTM)にはいろいろな概念があるのですが、私たちは、「情報提供機能」「運航管理統合機能」、各事業者がドローンを飛ばす「運航管理機能」の3つで構成されるものを構築しています。
――それぞれどんな役割が?
「運航管理統合機能」は、同じ空域にたくさんのドローンが飛ぶときの安全な航路をサポートする機能です。わかりやすいのが災害のとき。災害が起こり、同じ場所を回り災害状況を検知する災害ドローンが飛ぶとします。そこに、別の企業が物流のドローンを飛ばすと、航路が重なる可能性があります。その際の衝突リスクを避けるため、飛行計画の承認や変更指示などを出す機能です。
―「情報提供機能」は?
これは天候など安全運行に必要な情報を事業者などに提供する機能。いわゆる「ドローンハイウェイ」(ドローンが安全に飛行するためのルート)作りに役立てるものです。わかりやすいのが風です。強い風が吹いているところは落下リスクが高まりますから、経路変更などの判断が必要になります。そうした情報を整備していくのが目的で、情報は3Dマップに落とし込んで提供し、事業者の判断材料にしてもらう予定です。
「運航管理機能」については、主に5つの用途(業態)別に、開発を進めてもらっています。(図表を参照)
「衝突回避」開発をクルマのメーカーが担う
――もうひとつの「衝突回避技術」について教えてください。
改正航空法(2015年)により、上空150メートルで有人機とドローンは空域分離されることになりました。ですが、一部の有人機は150メートル以下の空域でも飛ぶことが可能です。たとえばドクターヘリ。ドクターヘリが離着陸するところにドローンが飛んできたとします。ぶつかりそうだからといってドクターヘリを止めるわけにはいきません。NEDOの研究開発の基本的な考え方としては、ドローン側で回避することを大前提にしています。
「衝突回避技術」の開発は(自動車メーカーの)SUBARUが全体を見ています。何をするかというと、SUBARUのアイサイト(車の自動運転アシスト機能)の技術をドローンに載せようとしているんですね。
――なぜ自動車メーカーが?
実はSUBARUの中でも今回担当してくれているのは、中島飛行機(第二次世界大戦後まで存在した航空機メーカー)の技術を受け継ぐ部隊なんですよ。彼らが昔から引き継いだ知見を活用させてもらっています。よく日本が新しいレーダーやカメラを作ると、すぐ他国に追いつかれてしまうと言われる。ですが、少なくともSUBARU、中島飛行機の知見は長年培ったノウハウですから、すぐに持って行かれることはない。それをきちんと制御システムとして日本の資産にすることは大きな意味があると思っています。
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NEDOでは上記技術に加え、“日本版GPS”準天頂衛星からの精密な測位(位置)情報と合わせることで、ドローンが自動で危険回避する技術を開発している。その成果を試す場として、近く、衝突回避などに対応した自律型ドローンによる離島への荷物輸送などを想定した飛行試験を行うという。
技術開発の“節目”は「2019年末」
――現在、それぞれの技術の開発は、どういった段階にあるのでしょう?
これらの研究開発は今年で2年目です。3年目となる2019年の末に、研究成果を実証するための飛行試験が実施されます。これが研究開発のひとつのターミナル(終点)です。この飛行試験では、今開発している「運航管理システム」と「衝突回避技術」のパッケージをそのまま試します。つまり同じ空域で別々の用途でドローンが飛ぶ。違う用途のドローンが同時に飛ぶ光景はおそらく誰も目にしたことがないでしょう。
――世界でここまで実現したところは?
狭い範囲の同一空域における飛行試験としては、公式なものは見当たりません。
――成功すれば世界をリードすることにつながると?
でなければNEDOは着手する意味がありません。ただし、今NEDOが考えている「運航管理システム」が本当に機能するかどうかは誰にも分かりません。でもこれが成功すれば、次は官民、いろいろな方のお力添えで規模を広げてもらうことができます。そのためにも、まずは今のパッケージで、まずは福島で成功させることが私たちのターゲットです。
――あと気になるのが電波です。
難しい課題です。どの電波をドローンの運航にどれだけ使うのかが難しい。電波は国民の共有財産ですから、(電波塔などを建てて)対応しようと思えばできる。ですが、そのためには非常に多くの投資が必要になります。投資回収も見据えて展開するためには、まず一歩を踏み出さないといけません。一歩を踏み出したときに、電波の持ちうる限界が出てくるので、そこから検討に入ることになると思います。
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インタビュー中、日本のドローン活用は出遅れているのではという話になった際に、宮本氏は「私たちもそういう感覚は持っているし、持たなければいけない」と述べた。そうした思いがあるからこそ、今回のプロジェクトを早期に実現し、日本がドローン活用の分野でイニシアチブを握るきっかけにしたいという。
2019年末の飛行試験が成功したとしても「運航管理システム」の各機能をどこが受け持つのか、さらに多数のドローンを飛ばす電波をどう割り当てるかなど解決すべき課題は多い。
多くのドローンが飛び交う社会の実現へ、歩みは加速しつつも、離陸まではもう少し時間がかかるというのが現実のようだ。