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「リチウム空気電池」実用化はソフトバンク流儀で15年前倒し

リチウム空気電池商用化へのロードマップ説明する宮川氏

リチウム空気電池商用化へのロードマップ説明する宮川氏

 つい先日、トヨタとの提携を発表し大きな話題となったソフトバンク。同社代表取締役副社長兼CTOであり、トヨタとの共同出資新会社MONET Technologies株式会社(モネ テクノロジーズ)の代表取締役に就任する宮川潤一氏が、10月16日国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の成果発表会に登壇。「トヨタとの提携についてもなんらかの話があるのでは」と期待から多くの聴衆が集まった。

ソフトバンク株式会社代表取締役副社長兼CTO宮川潤一氏

ソフトバンク株式会社代表取締役副社長兼CTO宮川潤一氏

 この日の講演は「ソフトバンクはなぜ電池開発に乗り出したのか?」と題したもの。ソフトバンクとNIMSはこの春「NIMS-SoftBank先端技術開発センター」の設置に関する覚書を締結している。そのメインテーマが「リチウム空気電池」の共同開発であり、2025年ごろの実用化を目指すとしている。

 リチウム空気電池とは、正極から取り入れた空気中の酸素を使って化学反応を起こすことでエネルギーを生成する。これまでのリチウム電池と比較して、重量エネルギー密度(蓄電池や燃料電池の指標で大きいほど軽量化に適する)が5倍以上とされる蓄電池だ。ソフトバンクは、その実用化を目指してNIMSと提携している。

10年で1.2倍しか進化していない携帯電話の電池

 宮川氏ははじめに、2008年の自社の代表的スマートフォンと、現在(2018年)の同スマートフォンのスペックを比較して見せた。「10年前に比べてCPU性能は約80倍、メモリーの容量は約32倍、ディスプレイの解像度は約22倍進化した」と述べ、「ところが電池性能は約1.2倍にしか進化していない」と続ける。10年前に比べて、さまざまなアプリがバックグラウンドで稼働し、動画などのリッチコンテンツがものすごい勢いで伸びているにも関わらずだ。

 またIoTが今後拡大していくと、IoTでつながる各機器に電源が必要となる。たとえば水道メーターや街灯などメンテナンスしづらい場所に取り付けられるIoT機器であれば、10年間はメンテナンスフリーで動くことが要件とされる。また、IoTでのモノとモノの通信は頻繁に行われるので電力の使用量も多くなる。つまり、IoT普及には「電池容量」の問題が避けて通れない。ソフトバンクが見据えているのは、携帯電話の電池ではなくその先のIoT時代であり、そこに「ものすごく長持ちして軽量な電池」が必要だということである。

 宮川氏は、「自分たちは電池会社を作ろうとしているのではない。プラットフォームでありたい」として、トヨタとの新会社MONETの話題に触れた。MONETもやはりモビリティ(乗り物)プラットフォームであり、クルマや人の行動などからIoTを活用してさまざまなデータを収集分析することになる。しかし、MONETについての話はそこまで。話題はすぐにソフトバンクが目指す次世代型電池の話に移った。

リチウム空気電池の研究世界トップクラスのNIMSと提携

NIMS成果発表会の様子

NIMS成果発表会の様子

 現在のリチウム電池では200~250Wh/kg(重量エネルギー密度)であり、次世代電池(全固体電池)は500 Wh/kgとされているが、ソフトバンクが目指すものは1,000/kgであり、それが実現できるのがリチウム空気電池だと宮川氏は述べる。そして、そのリチウム空気電池研究の世界最先端に位置するのがNIMSであると提携の意図を話した。リチウム空気電池については、エネルギー効率と寿命などで課題があったが、2017年7月にNIMSは、リチウム空気電池のエネルギー効率と寿命を大幅に改善する電解液を開発したことを発表している。

 宮川氏によると、もともとNIMSはリチウム空気電池については「車載用」を念頭に置いており、急速充放電が行えることを前提としていた。しかし、ソフトバンクとしては、IoT用途においては急速充放電は不要で、車載用途以外の研究を行いたいということでパートナー提携をしたという。NIMSのリチウム空気電池の実用化予定は2040年頃を見据えていたが、それを15年前倒しできると語った。

2025年にリチウム空気電池商用化のロードマップ

 講演で示されたスライドでは、リチウム空気電池商用化までのロードマップは以下のようになっている。
・2018~19年 基礎研究
・2020~21年 大判プロトタイプ(電池メーカー参加)
・2022~23年 製品化(電池メーカー主導製品化)
・2024年 量産

 その中で強調したのが、開発におけるAI(人工知能)の活用だ。とくに、NIMSのMI(マテリアルズ・インフォマティクス)は大きな力になるという。MIとはこれまで蓄積されてきた材料に関する膨大なデータを、AIで解析して、高速に新材料を生み出そうという手法だ。たとえば新しい断熱材を開発するためには数千通りの組み合わせを試す必要があり、途方もない時間がかかる。MIを活用すればその時間が飛躍的に短縮できるわけで、実際にNIMSでは世界最高性能の断熱薄膜合成に成功したという。リチウム空気電池にも、その威力が発揮されることが期待される。

 宮川氏は「われわれの提携を『産学提携』のロールモデルにしたい」と来場者に告げて講演を結んだ。

 大型の投資や買収などで注目を集めることの多いソフトバンクだが、今回は珍しく先端技術分野の話題での登壇だった。話の中で、「電池メーカーになるわけではない」と強調したソフトバンク宮川氏だが、次世代の「さらに次の電池」とされるリチウム空気電池に着眼し、それを同社の流儀をもって早期に実現させようというプランは、日本のモノづくりには良い刺激になるだろう。

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ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。