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ロケット界のスーパーカブを インターステラテクノロジズが挑む宇宙ビジネス

ISTの稲川貴大氏(左)と金井竜一郎氏

ISTの稲川貴大氏(左)と金井竜一郎氏

 低価格でコンパクトな小型ロケット開発と商業化を目指しているインターステラテクノロジズ(IST、稲川貴大代表取締役)。北海道大樹町に拠点を置き、これまで観測ロケット「MOMO」の打ち上げ実験を2度実施。現在、日本初の民間単独による宇宙到達(高度100キロ)を目指し3号機を開発している。ISTのミッションは「ロケット界のスーパーカブ」開発。小型ロケット開発により近い将来「小惑星探査・開発がやりやすくなる。小惑星を経済圏にし、その先にISTが目指す太陽系を脱出する世界が待っている」と語る。

宇宙ビジネスの「運送業」

 10月に札幌で行われた映像・音楽・ITの複合イベント「NoMaps」のビジネスカンファレンスに稲川氏らが登壇。「宇宙にかけるプロジェクトマネジメントとチームワーク」と題して、ISTの現状や将来像を語った。

 ISTは2014年から観測ロケットMOMOを開発。国際航空連盟(FAI)が定義する宇宙である高度100km程度を目指す。また、地球低軌道の高度500km程度を飛ぶ超小型人工衛星用ロケットの基礎開発を2016年から開始、2021年ごろの打ち上げを予定している。

 2017年7月30日に打ち上げられた初号機は発射66秒後に通信が途絶えたため、80秒後に飛行を緊急停止する「部分的成功」。2018年6月30日に打ち上げた2号機は、発射直後に推進力を失い落下、炎上した。

【Sounding rocket MOMO2 launch 観測ロケットMOMO2号機打上】

 稲川氏はMOMO初号機、2号機について「悔しい思いをした」としつつ「ロケット開発は大きな挑戦で難しいのは当たり前。実験を繰り返せる環境が大事」という。また、打ち上げ実験を通して「5000万円以下、数ヶ月内で打ち上げできるような、早く作れて安いロケットができつつあるという実感はある」と手応えを強調。現在、3号機の開発に取り組んでいる。

 人工知能(AI)技術の普及などにより、衛星から得られるビッグデータを利用したサービスやソリューションの開発競争が進んでいる。今後、その基盤となる民間による小型衛星や、それらを打ち上げる小型ロケットの需要が増大するとみられている。経済産業省の研究会は「小型衛星の打上げの多くは、大学や政府ミッションによるものが多かったが、今後、商業ミッションが増加し、市場に大きな影響を及ぼすとみられている」と報告(※)している。

※「コンステレーションビジネス時代の到来を見据えた小型衛星・小型ロケットの技術戦略に関する研究会」の報告書

資金調達と事業化

 宇宙ビジネスの拡大を背景に、稲川氏はISTを「宇宙に荷物を運ぶ輸送業」と位置づける。そのため「(衛星を打ち上げたい)ユーザーを第一に考えれば、安いロケットであることが大事になる。バイク便、原付きバイクのようなロケット、量産ができるサービス・プロダクトにしたい」という。また、事業化について「どれくらいの需要があるかと、そのマーケットをどれだけ取れるかにかかっている。小型人工衛星の需要は今後15年で1万基以上あると言われる驚くような数。ISTは射場として北海道という良い場所に拠点もでき、国内では先行していると自負している。国内トップを走っていれば、良いサービスと良いロケットができるだろう」とみている。

 ISTが拠点を置く大樹町は30年ほど前から宇宙による町おこしに取り組み、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が大樹航空宇宙実験場を設置している。ISTプロダクトマネジャーの植松千春氏は「MOMO1号機打ち上げで最も大変だったのが海と空の調整。漁協や付近の空港など20か所を回った」とエピソードを紹介。その上で「よそ者である僕らに対して、町の人が親身に手伝ってくれる。関東での学生時代は、騒音の問題で燃焼実験もできなかった。いま、唯一気にしているのが牛への影響」と笑いを誘った。

 ロケット開発では、技術開発と打ち上げに関わる渉外に加え、事業化までの資金調達も課題だ。

 CFOの小林徹氏は「いまの段階で(返済が必要な)融資を受けるのはほとんど不可能で、株式出資を募ることになる」とロケット事業の特殊性を挙げる。その上で「(スポンサーである)堀江貴文さんの友人などのつてをたどってお金を集めていた。その後、北海道の事業会社から出資をいただいた。堀江さんのつながりから出資者が広がったのはありがたいこと」という。また「ロケットが爆発しても、報道が好意的なのもありがたい。宇宙産業に対する期待が根底にあるのかなと思う。堀江さん個人に頼る段階からステップアップして、事業としても成立するところを見せていきたい」と抱負を語った。

オープンソース的開発

ISTの植松千春氏(左)、小林徹氏(中央)、北海道大学の鈴木一人教授

ISTの植松千春氏(左)、小林徹氏(中央)、北海道大学の鈴木一人教授

 ISTはMOMO3号機打ち上げに向けクラウドファウンディング(CF)も実施している。初号機は735人から2700万円を、2号機は924人から2800万円を調達した。

 稲川氏はCFによる資金調達の目的を「開かれたロケット開発、宇宙開発のため」という。「資金調達の方法としてCFは人手がかかりスマートではない。しかし、宣伝でもあるし仲間づくりのツールでもある。出資者が自分のロケットだと思え、自分たちもみんなのロケットになればいいなと意識している」という。

 また初号機、2号機の実験データはGitHubなどで公開。稲川氏は「失敗の原因を含めできるだけオープンにすることで、色々なアドバイスをもらうことができ、開発にフィーフォバックされる。オープンソース的な開発を心がけている」と強調。推進系エンジニア、金井竜一郎氏も「ロケット開発は、開発者のモチベーションをコントロールしないと上手くいかない。世間からのリアクション、レスポンスは最大のモチベーション材料で、開発スピードに直結する」と語る。

 カンファレンスには「宇宙開発と国際政治」(岩波書店、サントリー学芸賞受賞)の著者、北海道大学公共政策大学院の鈴木一人教授も参加。「CFでロケットつくっている会社はほかにない。一般が関与できるロケットはほかになく、そういうユニークさがISTの特徴。宇宙開発の民主化につながる」とした上で、世界のロケットベンチャーの中で「ISTはトップ5に入っている」と評した。

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北海道新聞で記者を経て現在、東京支社メディア委員。デジタル分野のリサーチ、企画などを担当。共著書・編著に「頭脳対決!棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)、「AIの世紀 カンブリア爆発 ―人間と人工知能の進化と共生」(さくら舎)など。@TTets