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余剰石油掘削機からロケットを飛ばす~宇宙ビジネスコンテスト

2017年から始まった、一般から広くアイデアを募る宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster」。最大1000万円の賞金が出る

2017年から始まった、一般から広くアイデアを募る宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster」。最大1000万円の賞金が出る

 近年、さまざまな分野でスタートアップエコシステムが構築されているが、ここ1、2年、にわかに活況を呈しているのが「宇宙ビジネス」の分野における起業支援だ。

 2018年11月19日、東京・渋谷ストリームホールにおいて、内閣府などが主催する宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster2018」の最終選抜会が開催された。

 「S-Booster2018」最終選抜会は、応募したチームのうち、一次、二次審査を勝ち抜いた12チームの代表者が、メンターとともに数ヶ月かけて練り上げたビジネスプランを披露する場だ。ビジネスコンテストとして審査を受けるとともに、会場に集まった投資家や企業に向けてプランをアピールし、資金調達や企業連携のきっかけを得ることを目的としている。

 今回の最終選抜会では、2017年度の受賞メンバーによる受賞後の活動報告も行われる。宇宙ビジネスプランを具体的に事業化するにあたり、受賞者がどのような課題を抱き、どう克服しようとしたのかを取材した。

石油を掘る巨大構造物を、ロケット打ち上げ台に

 ビジネスプランの発表は、3年以内の事業化を想定した「ビジネスプラン部門」と、10年以内の実現を目指した「未来コンセプト部門」の2部門に分かれて行われた。

 ビジネスプラン部門では、人工衛星の3D地形マップや天候データなどを分析し、農作物栽培に適した土地を探し出す「宇宙から見つけるポテンシャル名産地」が。未来コンセプト部門においては、衛星から地球内部をスキャンし資源開発に活かす「地球内部のCTスキャン」がそれぞれ投資家や企業の高い関心を得ていた。

森氏はで、海上掘削リグは映画『アルマゲドン』で隕石から地球を救った主人公の元職場だったと話し、会場の興味を引きつけていた。

森氏はで、海上掘削リグは映画『アルマゲドン』で隕石から地球を救った主人公の元職場だったと話し、会場の興味を引きつけていた。

「今すぐ実行可能」かつ「社会的インパクトが大きい」ことで、投資家や審査員の高い評価を得ていたのが、森琢磨氏(発表時、日本海洋掘削株式会社)の「ロケット海上打ち上げ」だ。

 現在、小型衛星の需要が高まっており、2018年から2030年までに世界中で1万7千機の小型衛星が打ち上げられる予定だ。その際、衛星会社がロケット会社に支払う打ち上げ代金の市場規模が13兆円だといわれるが、ロケットの打ち上げ場は不足しており、既存の打ち上げ施設では、その成長率を加味しても、需要の半分だけしか対応できない。つまり、6.5兆円分の供給不足が見込まれる。

 そこで森氏が考えたのが、海上で石油を掘るために使われる海洋掘削リグ(以下、リグ)を小型ロケットの打ち上げ場にすることだ。海上で石油を掘るために使われるリグは、サッカー場一面ほどの広さを持ち、450トンの重量にも耐えうる巨大構造物で、小型ロケットの打ち上げには十分対応できる。森氏自身、リグの乗船勤務に就いており、その性能については熟知しているという。

 2015年の石油価格暴落により、リグは全体の約40%が待機しており、格安で手に入る。こうしたリグを日本に移動させ設置し、世界中で不足している小型ロケットの打ち上げ場として提供するというのが森氏のアイデアだ。まずは小型ロケットよりも小さな観測ロケットで実証実験をしたのち、2021年から小型ロケットの打ち上げを開始。日本を宇宙開発の一大拠点にするとした。

宇宙は夢がある、応援団が集まりやすい

ビジネスプランの発表後、昨年の受賞者によるディスカッションも行われた。

ビジネスプランの発表後、昨年の受賞者によるディスカッションも行われた。

  こうした宇宙ビジネスの起業には、他分野とは違う苦労や課題はあるのだろうか。ビジネスプランの発表後には、「宇宙ビジネスアイデアを具体化していくためには?」と題されたディスカッションが行われ、昨年の受賞者4名から、受賞後一年間で直面した課題と、その克服に必要なことが議論された。

  宇宙で使える「嗅ぎ注射器(麻酔)」の実用化を目指す石北直之氏(渋川医療センター)は、2020年頃までには世に出す予定だったが、「ようやく2023年頃にひとつの効能に使える目処が立ったところだ」と進捗の遅れを報告。そうした状況も「仲間を作ることで、いろいろな研究が同時進行できれば、スピ—ディな実用化につなげられる」と前向きだ。

 大量の超小型衛星を活用した低コスト通信の実現を目指す福代(ふくよ)孝良氏は、大学教員を辞め、ベンチャー会社を立ち上げた。アフリカ・ルワンダで衛星開発計画を進めるなど着実のようだが、全て手弁当であり、「できないことだらけだ」と苦しい心境を吐露する。そうした中で「パートナーやつながりをどんどん作り、お金も作業も、頼めるものは人に頼むようにしたら、自然と道が拓き始めた」と語る。

 こうした声を聞くと、宇宙ビジネスとはいえ、重要な要素はパートナー、ネットワークなど、他分野のスタートアップと大きく変わりはないようだ。ただ初期投資については、他分野に比べて大きな資金が必要なことが多いため、「使えるツテは何でも使い、断られても何度でも食らいつくような、一定の図々しさが必要」という意見も挙がる。

 多くの苦労話が挙がる中で印象的だったのが、モデレータを務めた青木英剛氏(グローバル・ブレイン)の「宇宙ビジネスならではの特権もある」という前向きな意見だった。

 「宇宙分野のビジネスには夢があるので、アイデアをどんどん発信していくと『応援したい』という人が集まりやすい。その夢は大きければ大きいほど応援団が集まりやすい」と述べる。ただし、自分の中で長くアイデアを留めておくと、必ず誰かが同じアイデアを思いついて実行してしまうため、「とにかく発信したもの勝ち」と、声を上げる重要性も強く説いた。

* * *

 「S-Booster2018」で最優秀賞を受賞したのは、森氏の「ロケット海上打ち上げ」のビジネスプランだった。

 審査員からは「リグが余っている今しかできない。今やっておくと、日本が宇宙ビジネスの中で最前線に行けるかなり有望な一手になる」と手放しで褒める講評が続き、森氏自身も「日本を宇宙開発大国にします」と喜びの声を伝えた。

 森氏のプランでは、リグの購入、移動、設置など初期費用に6.3億円かかる。まずはこの資金集めに奔走することになる。森氏は、最終選抜会当日にロケット海上打ち上げ会社を法人登記するなど、事業化に向け早くも動き始めている。彼のような熱意ある宇宙スタートアップの夢に、果たして“応援団”が集まるかどうか。日本における宇宙スタートアップエコシステムの発展を注視したい。

庄司健一 Written by
有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。