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宇宙開発からライフスタイル変革まで 全日空(ANA)のアバター構想が始動

デモで登場したANAのアバター。「意識は会場にいるのと同じ感覚」という

デモで登場したANAのアバター。「意識は会場にいるのと同じ感覚」という

 チャールズ・リンドバーグがプロペラ機による大西洋単独無着陸飛行(1927年)にチャレンジしたのは、初の横断成功者に2万5千ドルの賞金が出る「オルティーグ賞」があったからだ。そして、このリンドバーグの成功により、航空関連産業は注目を集め、飛躍のきっかけをつかんだ。

 米国の非営利団体XPRIZE財団は、この「オルティーグ賞」を手本とし、イノベーションの加速、社会課題の解決を目的に技術開発の賞金レースを実施している。全日空(ANA)は、2016年10月、この国際賞金レースの課題として「ANA AVATAR XPRIZE」を提案、採用された。2018年3月から、アバターの開発を競う4年間のレース(賞金総額1,000万ドル)が始まり、58カ国・430チームが参加しているという。(この構想については以前こちらの記事「『究極の移動手段』 ANAがアバター開発に本気で取り組む理由」で紹介)

 生身の身体とは別の分身ロボット、アバターが地上に限らず宇宙までを活動領域とする近未来は、どんな世界になるのだろうか。

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津田氏(右)と深堀氏

津田氏(右)と深堀氏

 10月に札幌で行われた映像・音楽・ITの複合イベント「NoMaps」のカンファレンスにおいて、ANAホールディングスのデジタル・デザイン・ラボ(以下、DDLab)、津田佳明チーフ・ディレクターと、深堀昂アバター・プログラム・ディレクターが「ANAデジタル・デザイン・ラボが描く未来のエアライン」として発表を行った。

 カンファレンスでは、デモンストレーションで移動用の車輪とモニターがついたアバターが登場。DDLabイノベーション・リサーチャーの梶谷ケビン氏が、会場とは別の場所からパソコンやスマホでアバターを操る。ANAはこうしてアバターにログインすることを「AVATAR IN」と呼ぶ。

 会場内を自在に移動しながら梶谷氏はアバターを通して「意識はカンファレンス会場にいるのと同じ感覚。食事会や教育・医療の現場、英会話のトレーニング、ショッピングなどユースケースはいろいろある」と話した。このアバターは現在、約250万円と高価だが、シェア利用することでユーザーが広がる可能性があるとみる。

 アバターの形式は、水中型や宇宙型など用途に合わせればよい。深堀氏は「人間の身体と同じようにする必要はない。必ずしも高性能ではなく足は車輪で十分なケースもある。一般の市場が求める安価なものから、高性能なものまで用意したい」という。

宇宙開発をJAXAと

 アバターの用途が最もイメージしやすいのが宇宙開発の分野だろう。

 ANAは9月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と「AVATAR X Program」を始動。宇宙空間での建設事業、宇宙ステーションや宇宙ホテルの保守・運用、宇宙空間でのエンタメ開発などの実現を目指している。

 「AVATAR X  Program」には大分県やXPRIZE財団、大林組、NTTドコモといったゼネコン、通信など28社3団体が参加を表明している。各事業分野でコンソーシアムを発足させ、2019年からの事業会社化を視野に、大分県にある技術実証フィールド「AVATAR X LAB@OITA」で実証実験と事業性検討を行う予定だ。

 深堀氏は「アバターによって宇宙を身近に体験できるようになる。アバターをフックにした宇宙開発を進めていきたい」とした上で、「(冒頭のリンドバークの例にあるように)エアラインも賞金レースから生まれた。賞金レースはさまざまな分野で、技術開発を進める方法として使われてきた。民間企業が宇宙へ乗り出せば技術開発も促進され、ビジネスも生まれる」と構想する。

 ANAは2020年代序盤の開始を目指し、宇宙空間での実証実験と事業性検証、それを経て各事業を立ち上げるとしている。将来は月面や火星での事業展開まで想定する。

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 ANAは2016年4月、「破壊的イノベーションを起こす」ことを目的にDDLabを設置。アバターのほか、シェアリングエコノミー、次世代エンタメ、地域通貨プラットフォームといったサービス、技術開発を構想している。津田氏は「エアラインは安全運行が第一で、良い意味でコンサバ(保守)。一方、新しいことへの興味のなさに危機感があり、出島(DDLab)として新しいチームが必要ではないかと考えた。DDLabは男女半分、エンジニア、キャビンアテンダントなど多様性を大事にし、各部門で持て余した尖っている人材を集めている」と語った。

 DDLabで誕生したアバター構想。「すべては6%から始まった」という。世界人口70数億人のうち、エアラインを利用できるのはたった6%ほど。「距離と時間と文化を超え、人と人をつなげる、距離を短くする」というのがANAのミッション。これを6%の外側にいる人々(エアラインを利用しない人々)にも、と考えた時にたどり着いた究極の移動手段が「どこでもドアをアバターで実現しよう」ことだった。

 アバターが現実化した近未来。深堀氏は「満員電車に乗る必要はなく、好きな場所に住めるようになる。駅近物件に住むこともステータスではなくなる。企業は優秀な人材を世界中から集めることもできる」とライフスタイルの変化を予測する。

 また、アバターが人間の行動を手本に機械学習し、職人や名医の技術を記録・再現するスキル・シェアリングも実現するかもしれない。「グーグルも持っていないような人間の行動データを(アバターを通して)蓄積し、人間が無意識に行う経験知(暗黙知)を形式知に変えることができる。AI(人工知能)の時代だからこそ、人間が進化する必要がある。アバターというシェア・ボディで人間の経験値を進化させたい。70数億人の経験値で社会問題を解決できる」とその構想の可能性に言及し話を締めくくった。

田中 徹 Written by
北海道新聞で記者を経て現在、東京支社メディア委員。デジタル分野のリサーチ、企画などを担当。共著書・編著に「頭脳対決!棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)、「AIの世紀 カンブリア爆発 ―人間と人工知能の進化と共生」(さくら舎)など。@TTets