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宇宙スタートアップが始めた 宇宙への進出支援講座

「最新宇宙情報講座 Season1」を企画・運営する株式会社ElevationSpaceの大川創富一氏(右)、東野義政氏(中央)、安井孝太氏(左)

「最新宇宙情報講座 Season1」を企画・運営する株式会社ElevationSpaceの大川創富一氏(右)、東野義政氏(中央)、安井孝太氏(左)

 近年、宇宙関連産業の分野においてもスタートアップが数多く誕生している。しかし、宇宙関連のサービスや技術はその大きな目標の実現まで年月がかかるため、会社の運転資金の調達に苦労が多い。そこで、宇宙事業を推進するうえで自社が保有するに至った情報やノウハウを、宇宙に関心を持つ他の企業にシェアすることで売上を立て、“持続可能”な運営体制の構築を目指すスタートアップがある。それが、当媒体でも以前紹介した東北大学発の宇宙スタートアップ、株式会社ElevationSpace(本社:宮城県仙台市)だ。

 ElevationSpaceは、回収可能な人工衛星「ELS-R」を使って、宇宙空間で自社製品の性能テストなどを行いたいという企業の支援をしている(参照記事『宇宙での実験や検証のハードルを下げる〜宇宙スタートアップ「ElevationSpace」の挑戦〜』)。

 同社では、2024年3 月より、宇宙ビジネスへの新規参入を検討している企業向けに、宇宙の基礎知識や最新技術について網羅的に学べるセミナー「最新宇宙情報講座 Season1」(全4回)を始めた。この講座は、同社の顧客企業から要望の多かったトピックについて、各方面の第一人者を招き開催するもので、参加者に宇宙空間利用への理解を深めてもらおうというもの。もちろん同社の「ELS-R」の顧客開拓につなげる狙いもある。

 どのような人たちがこの講座に集うのか。講座を開講した背景や内容、反響について、事業開発担当の大川創富一氏、東野義政氏、安井孝太氏に話を聞いた。

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 ElevationSpaceのコア事業は、宇宙で実証実験したい顧客から預かった荷物(ペイロード)を、自社開発した人工衛星に乗せて打ち上げ、地球低軌道上で数ヶ月間、無人オペレーションする「低軌道実証実験」にある。実験終了後、人工衛星を大気圏に再突入させ、地球上で荷物を回収する「再突入・回収」や、回収した荷物の分析や耐久性を評価する「リターン後解析」、製品の広報活動をサポートする「製品PR支援」も行なっている。

 こうしたサービス自体は、自社製品の宇宙転用を目指す企業にとっても有用だろう。しかし、営業担当として、さまざまな企業を回ってきた大川氏は、「いきなり『低軌道実証実験』を紹介しても、『すぐにやります』と言ってくれるお客様は、ほとんどいない」と話す。

「最新宇宙情報講座」開講の背景について説明する大川氏
「最新宇宙情報講座」開講の背景について説明する大川氏

「最初から興味を示してくれるお客様は、すでに宇宙産業に参入しているお客様です。一方、我々が日本全国のお客様を回る中で言われるのは、『そもそも宇宙利用って何?』という言葉。そこから始めないと、話が進まないのです」(大川氏)

 こうした状況を受け、ElevationSpaceでは、「低軌道実証実験」の前段にあたるサービスも整備した。具体的には、経営者や一般社員向け「ウェビナー」や、専門家などを招いて行う「有償セミナー」。さらに、顧客製品の宇宙転用を検討する「コンサルティング」や「共同研究・開発」、宇宙の擬似環境で製品の耐久試験を行う「製品地上試験」といった「低軌道実証実験」に至るまでの前段フェイズをサポートする。

 加えて、大川氏らは、2023年7月からは、営業活動でつながった企業の担当者の交流会「宇宙会」を結成。化学メーカーや自動車業界を中心に、金融、ITなど100社以上が参加するコミュニティを作り上げた。

 今回開講した「最新宇宙情報講座」は、この「宇宙会」のメンバーや、まだ宇宙産業に参画していない企業から広く参加を募り、宇宙への理解を深めてもらうことで、「低軌道実証実験」の前段サービスの利用拡大につなげるものだという。

「(『最新宇宙情報講座』は)全ての企業の方々に対して、宇宙、宇宙産業、宇宙事業とはこんなものですよ、という基本的な情報を網羅的に提供します。我々のサービスを理解してもらうための、いわば前段(フェイズ)の“フリ”を提供するものです」(大川氏)

ネットワーキングの場も提供

 では「最新宇宙情報講座」とは具体的にどういった講座なのだろう。大川氏は、「宇宙会」においても、宇宙関連のセミナーを実施しているが、本講座は「よりアカデミックでマニアックな内容」であることが特徴だと説明する。

 例えば、登壇者には、宇宙材料実験の第一線で活躍する神戸大学大学院の田川雅人准教授や九州工業大学大学院の岩田稔准教授などが顔をそろえ、他ではなかなか得られない学術的な情報を提供してもらえるという。

「第2回の講座は『Post-ISSのゆくえ』がテーマのひとつになっています。2030年末にISS(国際宇宙ステーション)が運用を終えますが、講座では、このISSの運用に関わる企業の関係者から直に話を聞けます。インターネットでは、宇宙開発に関する情報は得られますが、私たちの講座では、そうした表層的な情報からもう一歩踏み込んだ、“生”の情報を得られるようになっています」(大川氏)

 もう一点、「ネットワーキングの場」となっていることも特徴だ。そして交流が進むことで、「参加者が『(チームを)組んでいける』ことも講座のもうひとつの価値だと考えています。例えば、宇宙で動かすロボットを開発するメーカーがいて、そうしたロボットで使う歯車を作っているメーカーや、潤滑油メーカーがいるとします。こうした方々が“(同じチームとして)組んでいける”のがネットワーキングの場です。すると、完成したロボットの形で人工衛星に乗せて打ち上げて動作検証するのか、あるいは、歯車や潤滑油などのパーツやコンポーネントの形で打ち上げ、検証をしてから、ロボットに組み込むのか。いろいろと実証実験の形が広がります。こうした点も、『最新宇宙情報講座』の大きな価値だと考えています」(東野氏)

第一回は約100社が参加

「最新宇宙情報講座」の提供価値について説明する東野氏
「最新宇宙情報講座」の提供価値について説明する東野氏

 3月に実施した「最新宇宙情報講座」の第一回は、オンライン・オフライン合計で約100社が参加。そのうち、オフライン参加は約60社にのぼった。特に化学メーカーや計測機器メーカー、シンクタンクなど研究機関の参加が多かった。

「当日は、ネットワーキングの場も非常に熱気があり、『来て良かった』という声が多く聞かれました」(東野氏)

 宇宙関連の新規事業立ち上げ担当者は、社内で少数あるいは一人であることが多く、話題を共有できる機会が少ない。この講座は、皆が宇宙について話すために集まっているので「(新規事業担当者が)水を得た魚のように、楽しそうに参加される姿が多く見られました」(東野氏)とのこと。

 今後の展望を尋ねると、まず大川氏からは、講座のコンテンツに「政府系の情報」や「よりアカデミックな内容」を加えること。さらに、技術の分科会を作り、将来的には、「民間企業として初の(宇宙関連の)協会団体を設立していきたい」との答えが返ってきた。

 また東野氏は、「企業と学生のマッチングの場」にもしていきたいと話した。

「『宇宙会』では学割も用意していて、東北大学などから学生も参加しています。『最新宇宙情報講座』においても、宇宙産業に関心を持つ学生が参加できるようにしていきたいと考えています。講座には、宇宙利用を考える新規事業の担当者もいます。おそらく学生が自分で調べても、そうした“非宇宙”の企業担当者は見つけにくいと思います。そこで我々の講座が、宇宙での新規事業を考えている企業の担当者と、宇宙を志す学生をむすぶ場になれば、さらなる価値の創出につながるのではないかと考えています」(東野氏)

 技術や製品の開発をおこなう宇宙スタートアップが多い中で、宇宙ビジネスの裾野を広げることを目指すElevationSpaceの取り組みは、宇宙スタートアップの新たなビジネス展開と言えるだろう。宇宙産業の発展にどう影響を与えるのか、今後の展開を注視したい。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。