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脈波から認知症発見、工事写真台帳作成などバラエティ豊か〜 Open Network Lab 第28期Demo Day

Open Network Lab第28期生デモデイ登壇者と審査員

Open Network Lab第28期生デモデイ登壇者と審査員

 2024年4月16日、渋谷パルコDGビル18階の「Dragon Gate」にて、スタートアップ・起業家育成プログラム「Open Network Lab」(主催:株式会社デジタルガレージ)のデモデイが開催された。この日のピッチコンテストには、同プログラム28期生5チームの代表が登壇した。

 審査の結果、「オーディエンスアワード」は、脈を測るだけで、MCI(軽度認知障害)をスクリーニングするサービス「SENSUS」を開発する8ILLIONが受賞。「ベストチームアワード」は、自動で工事写真台帳を作成する画像識別AIアプリ「Cheez」を開発するverbal and dialogue株式会社が受賞した。以下、当日のピッチの様子を紹介する。

海外エンジニアの採用を支援する

 最初に登壇したのは、スタートアップが海外エンジニアを採用する際に利用できるプラットフォーム「Qlay」を開発するクレイ・テクノロジーズ株式会社の代表取締役CEO中田智文氏だ。

 中田氏らは、自らもテックスタートアップを運営していたが、マサチューセッツ工科大卒やハーバード大学卒の優秀なエンジニアを雇っていたため、人件費コストが高く、常に運営資金が圧迫されていたという。そこで、比較的安価な海外エンジニアを雇おうとしたが、候補の見極めが難しく、ソーシング(探し出す作業)や評価をするのに、候補者一人当たり30時間もかかってしまった。この手間を省こうと、採用エージェントを使ったが、手数料として200万円ほどかかったうえ、採用できたとしても、複雑な海外の給与・福利厚生システムに対応するため、大きな負担がかかっていたという。

 こうした海外エンジニアの採用に関する課題を解決するのが「Qlay」だ。このサービスでは、AIが海外市場のソーシングや採用の適性判断などを行うほか、雇用後のアドミン(管理)業務も含め一括で提供している。

「これまで、ソーシング、評価・審査、契約・雇用、給与・福利厚生といったプロセスは全て別々のプラットフォームで行われており、採用する側もされる側も、とても面倒でした。これをQlayでは一気通貫で、極限までシンプルにします」(中田氏)

 実際にクレイ・テクノロジーズではこの仕組みを用いて、自社のチームも構築しており、「6ヶ月で、9人のトップ工科大卒業生を採用でき、ランウェイ(キャッシュ不足に陥るまでの残存期間)は5倍にまで伸びた」という。

 さらに中田氏は、運転資金を抑えたいと考えるスタートアップが急増する中で、「Qlay」のニーズは非常に高いとし、まずは日本や米国のスタートアップを対象に顧客を増やし、将来的にはグローバルスタートアップや大企業も手がけながら、「25兆円」の巨大市場を狙うとした。

 最後に、「巨大なタレントネットワークと雇用インフラ」「異言語間のコミュニケーションを活性化させるAIコパイロット(副操縦士)」「時差に影響されない、チームメンバーのデジタルツイン化」を実現することで、「負担なく国境・言語、時差に制限されない精鋭組織を作れる未来を目指す」と述べ、広く支持を訴えた。

登壇中の中田氏
登壇中の中田氏

脈を測りMCIを見つける

 慶應大学のアカデミアチーム・8ILLION(ビリオン)は、脈を測るだけでMCI(軽度認知障害)をスクリーニングできる「SENSUS」の開発に取り組んでいる

 ピッチを行った平野幹根氏によると、認知症治療において重要なのが、いかに早く「MCI」であることを知るかだ。MCIは認知症に至る初期の状態で、新薬開発も進んでおり、この時点で対策や治療を行えば、認知症の進行を抑えることができるという。

 しかし、自身がMCIであることを診断で知った患者は全体の8%で、せっかくの新薬が活用に至らないのが現状だという。診断が進まない主な原因は2つ。ひとつはMCIは患者本人にもほとんど自覚症状がないケースも多いため、そもそもMCI検査に至らないこと。もうひとつが、検査費用が高価なうえ、一部の検査は痛みを伴うため、気軽に検査が受けられないことだ。

「この2つの課題を解決し、MCIの早期スクリーニングを行えるようにするのが、『SENSUS』です」(平野氏)

「SENSUS」は、ウェアラブルタイプの装置で脈を計測し、わずか15秒でスクリーニングが完了する。その脈波から推定した脳波を解析することで、MCIに特徴的な信号の有無を調べる仕組みとなっている。「脳波は(認知症の)症状の大元であり、表情解析や会話の解析など他の解析方法よりも、確実にMCIの異変を捉えることができる」とのことだ。

 この「SENSUS」を活用し、「現在8%であるMCI診断率を、30%にまで引き上げる」と平野氏はいう。MCIの診断数を上げることで、これまで発見されていなかった多数の潜在患者に対しても処方することが可能となり、「患者だけでなく、(莫大な開発コストをかけて新薬を開発した)製薬会社側の課題も解決できる」とのこと。

 さらに平野氏らは、MCIにとどまらず、中枢神経系の他の疾患についても事業化を進めていることを紹介。「日本の大学には、世界に誇るべき、宝物のような研究シーズが多く眠っており、これを研究室に止めるのではなく、社会実装し、必要な人の元に届けていくことを目指す」と宣言し、ピッチを締め括った。

ピッチを行う平野氏
ピッチを行う平野氏

メタバース空間でメンタルサービスを提供

 次にピッチを行ったのが、メタバース空間でメンタルを整えられるサービス「MentaRest」を開発する株式会社MentaRestの代表取締役CEO飯野航平氏だ。(同社については以前に当媒体記事でも紹介

 飯野氏によると、現在日本では、「気分障害の患者が年々増加傾向にあり、社会的損失も11兆円を超え、非常に大きな社会課題となっている」。この問題に直面しているのは企業で、従業員が休職や離職で抜けてしまうと、年間一人当たり約844万円もの損失となるため、多くの企業が未然予防を目指している。しかし、実際には、従業員のメンタルを整えたいという経営側と、昇給や昇進が気になり、本音が言えない従業員との間にズレが生じ、カウンセリングの仕組みを巧く活用できてない状況がある。

 こうした課題に着目し、飯野氏らが開発したのが「MentaRest」だ。同サービスの利用者は、メタバース空間の中で、匿名のアバターを使って、心理士など専門家と、よりカジュアルなコミュニケーションを取ることができる。

「東京都市大学の研究では、ビデオチャットよりもメタバース、アタバーを利用する方が自己開示のスコアが140%も高まったという研究結果も出ています」(飯野氏)

 また、従来のカウンセリングは、メンタルに不調を感じている人が使うものだったが、「MentaRest」では、特に不調を感じていない人も利用できる。 

 飯野氏は今後、メンタルヘルスの「予防領域×企業」という独自戦略に加え、一般ユーザーや学校機関、行政機関にも対象を拡大し、より大きな市場を獲得していくと述べ、同社へのさらなる支援を呼びかけた。

「MentaRest」をアピールする飯野氏
「MentaRest」をアピールする飯野氏

工事写真台帳を自動作成するAIアプリ

 続いて登壇したのは、工事写真台帳を自動作成する画像識別AIアプリ「Cheez」を開発するverbal and dialogue株式会社の代表取締役森川善基氏だ。

 森川氏によると、プラント業界や建設業界では、法令により定められた義務により「1万枚以上の工事現場の写真を撮影し、写真台帳として整理してまとめ、提出する作業」が必要で、この作業は工事現場の大きな負担になっているという。プラント業界で現場監督の経験がある森川氏は、この課題を解決するために起業した。そして、同社が開発し、特許を取得しているのが、写真を撮影するだけで、自動で工事写真台帳を作成してくれるAI工事写真アプリ「Cheez」だ。

 森川氏らは、川崎重工株式会社に、3ヶ月工期の案件で「Cheez」を使ってもらい、作業時間の93%削減に成功したという。これは、年間の人件費に換算すると、2880万円ものコスト削減につながるとのこと。

「さらに13社、19現場でPoC(実証実験)にご協力いただき、13社全てのお客様から5月にローンチ予定の正式版の導入希望をいただいています。また、すでに300社以上のお客様から『早く使わせてほしい』とのお問い合わせをいただいています」(森川氏)

 森川氏によると、プラント業界では、71万件以上の工事案件があり、「Cheez」では工事案件ごとに利用料金を設定しているという。さらに、プラント業界では、メンテナンス工事が法令で義務付けられているため、一度利用してもらうと、その後も毎年案件になる可能性が高い。また、工事写真は5年間保管することが義務付けられているが、この保管に対しても利用料金を設定している。「つまり、継続的にお客様からプライシングできるということです」(森川氏)

 また「現場単位、事業所単位、部署単位、元請け・下請け単位、コミュニティ単位」など、顧客のニーズに合わせて柔軟に導入できる点を強調。「売り上げの目標値は、4000億円以上」と述べ、同社の収益モデルの優位性をアピールした。

 最後に森川氏は、プラント以外の業界や海外の工事現場にも多くの需要があることを紹介。「この収益モデルで、6年後のIPOを計画している」と、力強くピッチを締め括った。 

「Cheez」について説明する森川氏
「Cheez」について説明する森川氏

LINEだけでNFT施策を完結できる

 最後に登壇したのは、LINEで完結するNFTツール「キリフダ」を開発するsynshismo株式会社の代表取締役社長・赤川英之氏だ。

 冒頭、赤川氏は会場に向かって、同じミュージシャンであっても楽曲を楽しむアプリとアーティストグッズ販売の物販のアプリが別々であるがゆえに、一気通貫のマーケティングができず、機会損失をしていることを説明した。

「スポティファイのユーザー、ECサイトのユーザー。(同じ人物であっても)それぞれを別人として評価せざると得ません。なぜならこれらのアプリは、ユーザーのデータを独占管理しているからです。私たちは、アプリを横断したブロックチェーンを用いて、NFTを発行します。それにより、ユーザーの持っているアーティストに対する思いをひとつに結んでいきます。こうすることで、皆さんはユーザーに対して、適切に理解できるようになります」(赤川氏)

 赤川氏らの取り組みのひとつは、ユーザーにウォレットを持ってもらう仕組みの構築だ。しかし、既存のウォレットは、「秘密鍵の管理」など課題が多い。これらを解決するのが同社の開発した「キリフダ」だ。

「キリフダ」は、「LINEのマーケティングオートメーションツールに似た、クラウドアプリ」になっており、LINEの管理画面の中で簡単にNFTを発行できる。また発行したNFTは、URLをコピーし、ユーザーにLINE上で配信することも可能だ。

「『キリフダ』は秘密鍵を管理する必要が一切ありません。そして、自社の公式LINEから直接ユーザーにメッセージを配信できます。また、ユーザーのアカウントに、全てのウォレットが一元管理されるため、ウォレットが散在してしまう心配もありません」(赤川氏)

 ブロックチェーン技術を活用し、ユーザーのさまざまな体験をオンチェーンに刻み、資産化する仕組みを提供していくことで、「スポティファイ(などの単一アプリ)からだけでは読み取れないユーザーの行動を(NFTを配布していくことで)明らかにし、ユーザーの立体的な分析を可能にする」と赤川氏は強調する。

「これは単なる新しいマーケティングの手法ではありません、プラットフォーム依存の現状から脱却し、ユーザー中心主義の世界に移行していく第一歩になるのです」(赤川氏)

 赤川氏らは、現在は、LINEに対応したNFTツールの開発に取り組んでいるが、将来的には他のSNSアプリに拡張し、最終的には「世界中の全ての愛をオンチェーン化していく」と説明。同社事業への支持を訴え、ピッチを終えた。

登壇中の赤川氏
登壇中の赤川氏
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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。