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「ものづくりの伝統」がメイカーやスタートアップにつながる〜長岡ものづくりフェア2024 

会場「アオーレ長岡」の様子。イベント期間中、多くの人が来場

会場「アオーレ長岡」の様子。イベント期間中、多くの人が来場

 鉄工所でインターンをしているインド人留学生が、流暢な日本語で説明しているのは、100年以上昔の藁縄を作る機械。その向こうでは、ドローンを使った害獣駆除ソリューションの解説がある。日本酒、鋳物加工、木工の各企業ブースでは、興味津々の子どもたちが行列を作っており……。

 まるで、いまの日本社会の課題や可能性がすべて集まったかのような風景だ。これは2024年の2月25日に行われた「長岡ものづくりフェア2024&メイカーズながおかまつり(以下、長岡ものづくりフェア)」で実際に見られた風景だ。

 この長岡ものづくりフェアは、長岡市、長岡商工会などの行政側が中心となって運営されているイベントで、2014年に新潟県中越地震10周年事業として始まった。コロナ禍での中断を挟んで、今年は4年ぶりの開催になる。長岡市役所と同じ敷地内にある「アオーレ長岡」アリーナで開かれた1日限りのイベントに、1万1千人が集まった。会場の「アオーレ長岡」アリーナはバスケットボールチーム「新潟アルビレックスBB」の本拠地として使われ、最大客席数は約5100席。よってプロバスケットチームの興行よりも多くの人がこのインベントに集まったことになる。

 これは東京で行われている日本最大のメイカーフェアの1日の来場者数に匹敵するもので、総人口約25.8万人(令和6年3月1日現在)の長岡市では驚くべきことだ。

ギークも家族も楽しめるワークショップ

電動化された製縄機。インドからのインターンが説明している
電動化された製縄機。インドからのインターンが説明している

 80ブースを超える数の出展者は、地元企業、学校や研究機関、個人のものづくり愛好家などだ。高専や鉄工所、工作機械メーカーなどが集まるのはものづくりイベントらしいが、仏壇屋や和菓子メーカー、日本酒の酒蔵まで参加する幅の広さは珍しい。

 冒頭に紹介したのは、長岡市内にある株式会社広井工機の展示ブース。インド人留学生が日本語で説明していたのは、米を収穫した後のワラをより合わせて縄にする機械で明治末期に発明されたもの。それを留学生がモーターにより電動化した。「シンプルな技術は、インドでも使える。稲なら(インドにも)たくさんあるからね」(実演中の留学生)

 さらに27ものブースが体験用のワークショップを用意していて、内容も「米菓で、味付けのパウダーを混ぜて自分好みのスナックを作ってみよう」など、わかりやすく興味深い。午前中に早くもすべての予約が埋まるブースも多い人気ぶりだ。

N岡高専のブース。学生が開発した他のプロジェクトやスタートアップもあわせて展示されている
N岡高専のブース。

 長岡市には、長岡工業高等専門学校や長岡科学技術大学などがあり、これらの学校の在学生・卒業生なども出展しているため、ロボットや工作機械などのブースも豊富だ。その中には、中国DJIが主催する世界最大規模のロボットコンテストROBOMASTERに参加したチームや、NHKの人気テレビ番組「魔改造の夜」に登場したN岡高専(長岡工業高等専門学校)など、注目を集めるブースも多い。

深センの影響で始まった「ながおかメイカーズ」

「ながおかメイカーズ」ブース
「ながおかメイカーズ」ブース

 2018年の夏、有名エンジニアの清水亮(長岡市出身)さんが、長岡市の磯田達伸市長を伴って筆者の住んでいる深センを訪れた。磯田市長は深センの街の勢いや、プロダクト作りをきっかけに、エンジニアが起業家になっていく深センのメイカームーブメントに深く感銘を受けていた。その後もメイカーフェア深センや、日本各地のメイカーイベントに長岡市のスタッフが参加したり、深センからの訪問団が長岡市を訪れて、交流を行ったりするなど、長岡市とメイカームーブメントとの関係はますます深くなり、「長岡ものづくりフェス」の中に、一般から参加者を募集する「メイカーズながおかまつり」というイベントが共催されるに至った。

 今年の「メイカーズながおかまつり」は、アマチュア無線からメタバースまで、17プロジェクトが参加。長岡ならではの積雪計測研究開発や、自作の草刈りロボットが英国Raspberry Piが発行する技術雑誌MagPiに掲載されたメイカーなど、クオリティや発想、展示内容などは一般の企業ブースと遜色ないものも多かった。

メイカーズの発想が企業に導入される

 メイカーズブースに限らず、「自分たちでチームを立ち上げてロボコンに挑戦する」、「害獣駆除のような昔からある仕事にドローンなどの新しい技術を導入してソリューションにする」など、新しい手法を用いたプロジェクトや外部とのオープンイノベーションの実例なども多く目についた。

長岡高専発のスタートアップFieldWorks
長岡高専発のスタートアップFieldWorks

 有限会社廣川仏壇店は漆工房HIROKAWAとして、伝統技能の蒔絵を使って塗装したガンプラを展示。まだ非売品とのことだが、世界的に人気のあるガンプラと伝統技能の融合は、海外でも評価されそうだ。

 株式会社FieldWorksは長岡高専時代に何度もDJI ROBOMASTER競技に挑戦した小黑司友さん(写真)と山岸開さんが創業したスタートアップで、自動草刈りロボットを開発している。

 筆者が長岡のイベントに関わり始めた2018年頃は「『スタートアップ』という言葉がまだ普及していないので、雇用とか新規事業みたいな文脈で話してほしい」と依頼されたのが、6年が経過し長岡はスタートアップとイノベーションの街になりつつある。

現代社会の問題の多くは、手を動かさないと解決しない

フル稼働中のおもちゃ病院
フル稼働中のおもちゃ病院

 会場の中央部分に「おもちゃ病院」のブースがある。壊れたおもちゃを持ち込むと、原因と治療にかかる時間などが書かれたカルテが発行され、無料で修理してくれる。長岡市で継続的に行われているボランティア活動だ。今回ものづくりフェア内で開催することで、より多くの人目に触れることになり、ベテランのエンジニアたちがフル稼働していた。

 こうした活動をはじめ、会場内にはエコ、教育、高齢化社会、地域のつながりなど、現代社会で重要なテーマがいくつも含まれている。例えば、冒頭のインド人留学生の例は移民や国際社会の問題への一つの答えになっていると感じた。また、どのブースにも、新産業の育成、地域からイノベーションの創生、暮らし全体の品質向上、人々の可能性の開放、包括的な社会参加など、重要な問題の解決となりうるモデルケースが見られた。

 筆者は、複雑さを増す現代社会の問題の多くは、「手を動かして具体的に何かを作り、結果をシェアしてフィードバックを得る」そのプロセスの中でのみ解決していけると考えている。長岡でのイベントは、硬直化した多くの地方自治体や組織にとってのヒントに満ちていた。

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オープンソースハードウェア、メイカームーブメントのアクティビスト。IoT開発ボードの製造販売企業(株)スイッチサイエンスにて事業開発を担当。 現在は中国深圳在住。ニコ技深圳コミュニティCo-Founderとして、ハードウェアスタートアップの支援やスタートアップエコシステムの研究を行っている。早稲田大学ビジネススクール招聘研究員、ガレージスミダ研究所主席研究員。著書に第37回大平正芳記念賞特別賞を受賞したプロトタイプシティ』(KADOKAWA)、『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など。