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”巨大なクジラ”が泳ぎ回るResi-Tech業界 スタートアップはどこを狙うべきか?

Resi-Tech Global Pitch Sessionの参加者

Resi-Tech Global Pitch Sessionの参加者

 11月15日、DG717(米国・サンフランシスコ)において開催された「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2018 SAN FRANCISCO」の中で、住環境や不動産ビジネス分野でのイノベーションに挑戦するスタートアップが集うグローバルピッチが開催された。米国、欧州、香港などのVCやアクセラレータが集い、各々が推すResi-Tech(住宅や不動産関連のテクノロジー)関連するスタートアップが自社の取り組みについてのプレゼンテーションを行なった。日本でも11月11日に始動したばかりの同分野のアクセラレータープログラム「Open Network Lab Resi-Tech(以下「Onlab Resi-Tech」)と呼応する形で開催されたこのプログラム。日本発でグローバルな展開が期待できる住宅関連テクノロジーサービスを構想中の起業家には、世界各地ではどのようなアイデアが進行中なのか気になることだろう。ピッチの中から可能性を感じさせるアイデアや有用なアドバイスを紹介したい。

プライバシーに配慮しながらの監視

質問を受ける舞台上のtellusのTania Coke氏(左)とKevin Hsu氏(中)

質問を受ける舞台上のtellusのTania Coke氏(左)とKevin Hsu氏(中)

 スタンフォードの大学院出身のTania Coke氏(CEO)、とKevin Hsu氏(CTO)が創業したtellus(米国・サンフランシスコ)というスタートアップは、今後、世界各国で高齢化が進むことを見据えてビジネスを構想している。センサーを使って住宅内で高齢者を見守り、連動するアプリで健康管理などを行うことを提案している。

 こうしたサービスや、そのためのセンサーはすでに多くの企業が手がけているが、ここでのtellusの提案は、高齢者ケアに必要な装置の改善だ。高齢者の行動を見守るためにカメラやマイクを利用することはプライバシーの侵害につながる可能性がある。また、心拍数や血圧を測定するために常時ウェアラブル端末を装着して暮らすのは、快適とはいえない。tellusが提供するセンサーは非接触型で装置から発するレーザーを使って動きを感知する。設置は家庭内のコンセントに差し込むだけだ。

 カメラやマイク、通信機器が小型化したことで、住居や施設内のあちこちに監視用カメラを取り付け、見守りをすることができるようになった。しかし、住宅内での行動は極めて個人的なものであり、プライバシーを侵害する可能性を排除するこうした配慮や工夫は今後ますます必要になるだろう。

音+αのインターフェイス

 センサーによる自動化とともに、従来あるスイッチのオンオフとは異なったインターフェイスとしてここ数年、家庭内に急速に普及してきたのがスマートスピーカーだ。AI(人工知能)アシスタントのAlexa が内蔵されたAmazon Echo や同様の機能を持つGoogle Homeなどは声に出して指示することによって家電製品のオンオフ、BGMの選択、室温の調整などを行なってくれる。

Hale Orbを手にピッチを行うDouZenの三浦謙太郎氏

Hale Orbを手にピッチを行うDouZenの三浦謙太郎氏

 これに加えて、音声によらない新しいインターフェイスを提案するのがDouZen(米国・サンフランシスコ)だ。ピッチで紹介された同社の製品「Hale Orb(ハレ・オーブ)」は、木目調のソフトボールほどの大きさの玉で、この球形のインターフェイスをなでまわしたり、押したり振ったりすることで、画面が切り替わったり、スクロールする。このHale Orbは「CES 2018 Innovation Awards」スマートホーム部門を受賞している。

 DouZenは、ソニーでVAIOなどの商品企画などに関わった三浦謙太郎氏が、同社を退職後創設した会社でユーザーインターフェースの開発を得意としている。手で触ることができ身体とのつながりのあるインターフェースに注目しているが、音声によるインターフェイスを否定しているのではない。今後はグーグルやアマゾンのスマートスピーカーとの連携も検討しているという。だが、音声インターフェイス万能ではない。生活のあらゆるシーンで常に声を出して指示できる環境にあるとは限らない。例えば「朝、アレクサをスヌーズするのに声を出して、隣で眠っている妻を起こしたくないのです。」というのはピッチの中で語られた実例であり、こうした例は日常生活の中でいくつも想定できる。

 スマートフォンなどの機器は便利だが、スクリーンをタッチしメニューを選択しながら機能を活用するのは難しい作業だ。今後は住宅内でもさまざまな機器がつながることで便利になる反面、その操作はより複雑になるだろう。自動化はひとつの解決方法だが、センサーが感知する情報だけで住人のすべての要望がかなえられるとは思えない。スマートホームが普及するにつれ、その利便性を十分に享受するための、より直感的なインターフェイスを実現するアイデアは、常に必要とされていると考えていいだろう。

“カプセルホテル”温故知新

Pod Roomの室内(ピッチのスライドより)

Pod Roomの室内(ピッチのスライドより)

 住宅向けのアイデアではないが、既存の不動産を活用する新しいアイデアとしてYusuke Tanaka(田中優祐)氏がサンフランシスコで展開するPod Roomは、今回のピッチの中でもユニークな提案だった。Pod Roomとは日本で言うところのカプセルホテルだ。ホテルの宿泊費が高いサンフランシスコなどでは、安価かつ清潔でセキュリティが確保された宿泊空間の需要は高いという。古いホテルはセキュリティや快適性の面で問題を抱えていることが多い。こうしたホテルの部屋をリノベーションし、客室に宿泊用カプセルを設置することで、ホテルの機能やセキュリティが向上し、稼働率が向上する。カプセルホテルのビジネスは、日本では何十年も前から存在しているが、その機能性を前面に出し、ネット宿泊予約の仕組みなどとうまく組み合わせることによって、グローバルな展開ができる新しいビジネスとなった。

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 ピッチを総括した伊藤穰一(MITメディアラボ所長 デジタルガレージ取締役共同創業者)は「大企業は現在、プラットフォーム型企業ならチャットボットやIoT、コンシューマーエレクトロニクスならインターフェースやネットワークプロトコルなどで主導権を取ろうと激しく争っています」とこの業界の現状を解説した。こうした「大きなクジラが泳ぎ回っている」状況下で、スタートアップがいかに振舞うべきかについては「プラットフォーム型企業をよく観察して、投資や技術の面で戦略的パートナーになること」も選択肢のひとつだという。自身で覇権を目指すのではなく、ニッチな分野で求められる役割を受け持つ。今後Resi-Techの領域に参入を検討しているスタートアップにとって、このアドバイスは検討に値するものだ思う。

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