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ウェアラブルEXPOで見た現場で使えるxR技術の数々

東京ビックサイトで開催されたウェアラブルEXPO

東京ビックサイトで開催されたウェアラブルEXPO

 2019年1月16日から3日間開催された「第5回ウェアラブルEXPO」(東京ビックサイト)。さまざまなウェアラブルデバイス(身体に装着して使う端末)がお目見えしていたが、ホロレンズや網膜投影などここ数年で登場した技術を採用し、「ビジネス現場」で使うことを想定したものが目立った。

ホロレンズで建設現場の実空間に設計図面が投影するMRシステム

現場ではホロレンズとヘルメットを組み合わせて使用

現場ではホロレンズとヘルメットを組み合わせて使用

 建設現場で使う「ジャイロアイ ホロ」(Gyro Eye Holo)。設計図面を実寸大のホログラムとして、建設現場の実空間に投影するMR(複合現実)のシステムだ。デバイスはマイクロソフト社の「ホロレンズ(Holo Lens)サンバイザー」を使用する。実際の現場ではホロレンズとヘルメットを組み合わせてかぶり、工事を施行する箇所と設計図面とを合わせて見ることができるようにする。ホロレンズを通して、現場の壁で設計図面のプロジェクションマッピングを眺めるようなイメージだ。

 このシステムを展開する株式会社インフォマティクスに聞いたところ、建築業界では、設計図面の作成にはデジタル技術が活用されているが、それを建設現場で利用する際は、プリントアウトし、現場で紙面を開いて確認するという手順から進歩していないとのことだ。

 これを使えば、たとえばCADで作成した設計図面をクラウドにアップする。現場責任者はそれをホロレンズにダウンロードして持ち出せば良い。現場で、工程の推移にあわせた出来形の確認やチェックが行える。現場での作業者も着用して使うことができるのかと質問すると、それは精度的にはこれからで、現状では現場の監督責任者向けととらえて欲しいとのことだ。

 同社の技術はネクスコ・エンジニアリング北海道が開発を進める「PRETES-e」に採用されたとのことだ。これはMRを活用した保全技術教育・研修の支援ツールであり、高速道路などの現場で、仮想の内部構造や地中の基礎など、ふだんは見えないものを現実の構造物と融合させてホロレンズを通して見ることができる。教育・研修に使い勝手がいいシステムだという。

「視力拡張」を可能にする網膜走査型レーザアイウェア

QDレーザ「RETISSA Display」

QDレーザ「RETISSA Display」

 網膜走査型レーザアイウェアを展開する株式会社QDレーザのブースに行くと、超小型のレーザプロジェクタで網膜に直接映像を投影するHMD(ヘッドマウントディスプレィ)「RETISSA Display」の着用を勧められる。着用して壁を見ると海や魚の風景がクリアに目に映る。しかしそれをはずすと何もない壁だ。これは、HDMIで接続した機器の映像を、一体型超小型プロジェクタで網膜に直接投影しているという。

 この網膜に直接投影する技術については、他にも同様の試みがあるが、まだ各社とも研究段階で、実用化しているのは同社だけではないかとのことだ。網膜に直接画像を投影することにより、かけている人のピントの位置や視力の影響を受けにくくなる。つまり、弱視や強い遠視・近視・乱視の人でも、クリアに画像が見えるという「視覚拡張」が可能になるわけだ。視力に問題のある人が現場で作業をする時、「RETISSA Display」を着用すれば、細かい作業などが見えやすく、やりやすくなるはずだということだ。平行して医療用にも開発を進めているという。

熱中症を防ぐスマート消防服や組紐センサーなど産学連携の成果

スマート消防服と消防士の状況を表わすタブレット

スマート消防服と消防士の状況を表わすタブレット

 帝人株式会社(テイジン)のブースには「スマート消防服」が展示されていた。アラミド繊維(断熱性・強度に優れている)を使ったテイジン製の消防服にセンシングデバイス(インフォコム社)を内蔵し、消防士の活動量や体温を把握し、熱中症を予防することが目的という。言うまでもないが、消防士は高温にさらされながら危険な場所で活動する。消防無線はあるものの、現場の指揮責任者が各消防士の体調を即時に把握することは困難であった。

 この「スマート消防服」は、大阪市立大学との産学連携の成果で、大阪市消防局の協力を得た実証実験において、火災環境における消防隊員の衣服内温度から予測した深部体温と、深部体温の実測値が極めて近い結果となることを実証できたという。これにより、熱中症のリスクが高まると警告をすることができる。また離れた場所から活動中の消防士の位置や体温の状況を管理者が把握することも可能となる。

一見デバイスに見えなさそうな組紐センサー

一見デバイスに見えなさそうな組紐センサー

 同ブースでは、帝人の関連会社帝人フロンティアと関西大学との産学連携の成果「組紐」の中に縫い込める紐状のウェアラブルセンサー「圧電組紐」の展示も目を引いた。関西大学工学部のスタッフに話を聞くと、鮮やかな色の紐の中に1本細くて白い紐が縫い込まれているのを見せてくれた。それがセンサーそのものだという。

 「組紐」は日本の伝統工芸品で、職人が手仕事で組んでいくものである。そこにセンサーを織り込めば「日本ならでは」の息づかいを感じさせるウェアラブルディバイスが提案できる。たとえばブレスレットの中に組紐センサーに組み込んで、脈拍をセンシングしたり、膝の部分に縫い込んで、膝の傾きや曲げ伸ばしなどの関節の動きをセンシングしたりするものだ。機械を身につけることに抵抗があるお年寄りにも、この紐状のセンサーならば、あまり抵抗がないかもしれない。

 また、ブースには、子ども向けのサッカー用シューズに組み込んだ「組紐」センサーデバイスと、テニスラケットに組み込んだ「組紐」センサーデバイスも展示されていた。このウェアラブルセンサー「圧電組紐」は、衝撃のかかる特定の部分でのデータ収集も得意だという。

 最新のテクノロジーを、現場に役立つように組み入れた展示物を多く見かけたウェアラブルEXPOだった。

Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。