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スマートグラスの進化でさらに変わるメディアビジネス

ウェアラブルEXPOにて

ウェアラブルEXPOにて

 人は目の前にある文字や映像からニュースや情報を取り込む。それらはかつて紙の新聞や雑誌であり、お茶の間のテレビであった。こうした情報を映し出すメディアの「主役」は、ここ十数年でパソコンからスマートフォンへとめまぐるしく入れ替わり、それにつれて、情報が消費される場所やタイミングも変化してきた。スマホを手に食事をしながらニュースを眺める、通勤電車など移動中の車内でドラマや映画を見るといった光景が日常のものになって久しい。

 閲覧デバイスの機能や形状が変わると、そこで消費されるコンテンツも変化する。紙からモバイル端末へと移行するに合わせて、株価やスポーツ速報はリアルタイムになり、時刻表には現在の運行状況を反映した乗り換え案内、地図には経路案内機能があるのが当たり前になった。このためメディアを運営する筆者としてはデバイスの変化の予兆には敏感にならざるをえない。

 情報を映し出すメディアとして現在主流になっているスマートフォンだが、いつまで主役の座にあり続けるかは未知数だ。すでに「歩きスマホ」や「運転中のスマホ操作」など、画面に集中するあまり自分の周囲に対する意識が薄れてしまうことによる弊害が社会問題になっている。とはいえ、マナーの徹底が声高に叫ばれたり、取り締まりが厳しくなったりしても、スマホで味わった「いつでもどこでも情報にアクセスできる」という便利さを失うことは人々に受け入れられないだろう。目的地の検索、移動経路、行き先やこれから会う人に関する情報の取得など外出中に知りたいことに限りはない。

 「いつでもどこでも情報にアクセスしたい」という欲求が人々の間で高まれば高まるほど、スマートフォンに変わるデバイスが必要になるのは間違いなさそうだ。その本命と言われている「スマートグラス」の現状を取材しようと、先日、東京ビックサイトで開催されていた「ウェアラブルEXPO」に出向いた。

 視覚に関係するウェアラブル端末には、さまざまなものがある。ダンボールで自作することもできる「ハコスコ」のような簡易な3Dビューワーから、VR空間での活動やゲームを行うためのHMD(Head Mounted Display)と呼ばれるデバイスなど。さらにAR技術をつかって視野内に手順の指示や映像を流し、ドローン操作や機械の組み立て修理などをサポートする「ARグラス」などもある。

Vuzixのスマートグラス「Blade」

Vuzixのスマートグラス「Blade」

 アラートや道案内、ちょっとしたニュースや情報を移動中に眺める、スマホのディスプレイ的な用途なら、この「ARグラス」が役に立ちそうだ。しかし、主に業務用を想定して作られているこの種のデバイスは、高機能であるため、その大きさやデザインが日常利用にはなじまないものが多い。

 しかし、海外メーカーが作るものには、日常生活で普通の“メガネ”として利用しても違和感のない形状の製品もある。ウェアラブルEXPOに出展していた米国Vuzixのスマートグラス「Blade」は、外見は少々ツルの部分が太い普通のサングラスに見える。このツルの部分がタッチパッドになっており、触れることで操作できる。片方の目の部分にフルカラーのディスプレイが内蔵されており、通常はシースルーだが、ディスプレイをオンにすると、視界に四角い画面が映し出されそこに情報が表示される。

 同社は今月米ラスベガスで開催されたCES 2019にも出展しており、そこではメルカリの研究開発組織であるmercari R4Dとの実証実験を限定公開していた。実証実験は、スマートグラスを掛けたユーザーが、視界にある商品を指差せば、商品情報などがディスプレイに表示されるというもの。またユーザーがサムアップ(親指を立てる仕草)を行い、それを見ることでその商品がお気に入り登録される。まさにスマートグラスをスマホのかわりに利用する試みだ。

株式会社QRレーザの「RETISSA Display」

株式会社QRレーザの「RETISSA Display」

形状の進化、小型化以外に映像の投影方法にもさまざまな方式が誕生している。上記で紹介したもののように目の前のディスプレイに表示する方式ではなく、眼球の網膜に直接投影することによって映像を視認させる方式がある。すでに日本国内で2018年から個人向けに販売が始まっている株式会社QDレーザの「RETISSA Display」は、メガネのフレームに内蔵した小型のプロジェクタから映像を出力し網膜に投影をする。この方式では眼球の水晶体でのピント合わせが不要なため、誰が見ても焦点があった映像を出力できる。つまり、これを利用してスマートフォンからの出力を映し出せば、老眼で細かな文字が見えない人にもくっきりと文字や画像が見えるのだ。こうなってくると、単なる映像表示装置以上のものとなり、視覚の機能拡張や補助を担ってくれる機器としての利用も期待できる。

 現在市販されている商品はメガネ型のディスプレイ部とラインでつながれた、ボックス部とで構成されている。ボックス部は約460グラムなので、今後より小型化されれば日常的に身につけることができ、用途もさらに広がるだろう。

福井大学が開発中の超小型光学エンジンのプロトタイプ

福井大学が開発中の超小型光学エンジンのプロトタイプ

その小型化に向けての技術開発も進んでいる。網膜投影はRGBの光線を使って、映像を映し出すが、この3色を出力するレーザーを合波する合波器を独自の技術で極小化し、さらに投影に必要MEMSミラーを一体化した超小型光学エンジンを福井大学が開発している。ウェアラブルEXPOで同大学は、そのプロトタイプ(サイズ:13×4.5×4.5 mm)を展示していた。このプロトタイプは今後さらに小型化を予定しているという。コスト低減など量産化への課題をクリアし、さらに電池の小型化などが進めば、現行のメガネと外見上の違いがほとんどない網膜投影方式のスマートグラスも実現可能となるだろう。

 スマートグラスの普及には、歩行の安全の確保以外にも、そこにカメラやGPSなどの記録装置が内蔵されるため、プライバシーの問題がある。しかし、すでに普及が進みつつある製品や、技術的課題への対応の進展を目の当たりにするに、スマートグラスがスマホ画面に変わるディスプレイとして一般にも普及することは間違いないだろう。情報機器としてだけでなく、視力を補う医療機器としての価値が付加されるなら、その普及はより早くなる。

 前述したように、デバイスの形状が変わると、情報取得のスタイルも変化する。そうなると情報提供者側にもコンテンツやビジネスモデルといった点でスマホ主流の時代とは異なったものが求められる。紙メディア中心のビジネスからようやく脱したばかりのメディアだが、さらに新しい環境への対応が求められている。

北元均 Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。