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CES 2019レポート:会場での実演に見た次世代高速モバイル通信「5G」への期待と課題

5Gをアピールする各社 CES2019にて

5Gをアピールする各社 CES2019にて

 米国ラスベガスで開催されたCES 2019では、近未来の社会インフラとして注目を集める次世代高速モバイル通信「5G」に関する実演展示がいくつかのブースで見られた。5Gでは、既存の携帯電話にも利用する周波数帯(3.5GHz近辺)に加えて、28GHz帯や39GHz帯といった「ミリ波」と呼ばれる非常に高い周波数帯を利用することで、10Gビット/秒以上の高速なデータ転送速度を実現する。車載用レーダーや空港のセキュリティーチェックなどに使われる「ミリ波レーダー」と同様の周波数帯だ。こうした高い周波数の電波は、これまで携帯電話で利用していた周波数の電波と特性が異なるため、実用化に向けてはさまざまな技術的な課題がある。CES会場における展示からは、こうした課題とその克服に向けた各社の工夫がうかがえた。

クアルコムの試作機の内部構造

クアルコムの試作機の内部構造

 ミリ波帯の電波を実際に使った5Gの実演展示は、米クアルコムや米インテル、米T-Mobile社などが行っていた。このうちスマートフォンを使った受信の様子を見せていたのは、携帯電話向け半導体大手のクアルコムである。2018年12月に発表したばかりの5Gに対応した自社のチップセット「Snapdragon 855」を搭載したリファレンス端末(評価用のスマートフォン試作機)を展示し、天井に取り付けたアンテナとの間で28GHz帯を使って、4K(解像度がHDの4倍)の動画ストリームを転送していた。このほか、AT&Tと共同で39GHz帯を使ったVRのデモも行っていた。ヘッドセットのディスプレイに、左右の眼にそれぞれ2K(解像度がHD相当)の映像を表示することで、より現実に近い体験を実現できるという。

伝送距離に課題

5Gによる4K伝送を実演 クアルコムのデモ

5Gによる4K伝送を実演 クアルコムのデモ

 10Gビット/秒以上の最大データ転送速度を売り物にする5Gだが、今回の実演におけるデータ転送速度は「100Mビット/秒程度」(クアルコムの説明員)だった。ただし、シャープがNTTドコモなどと行った5Gを使い日本で行った8K(解像度がHDの16倍)映像の伝送実験でも、データ転送速度は「85Mビット/秒だった」(シャープの説明員)ことから、実効的に100Mビット/秒のデータ転送速度が確保できれば実用的には十分とも言える。むしろ、5Gについては電波が届く距離が短いことが、普及に向けた課題になりそうだ。今回クアルコムが実演したシステムでは、アンテナとスマートフォンの間で電波を送受信できる距離は「最大150mから200m」(同)という。理由は明かしていなかったが、一般的にミリ波は空気中の湿気(水蒸気)や酸素分子に吸収されやすいため、既存の携帯電話に使われているより低い周波数の電波に比べて、伝送距離が短い。このため、同じ面積をカバーするために必要な基地局の数がこれまでよりも増える。韓国サムスン電子は、5Gを使った基地局と家庭のネットワーク接続に向けた送信装置と受信装置を会場で展示をしていた。同社は、ベライゾンが米国のロサンゼルス、ミネアポリス、サクラメント、ヒューストンで開始している実証実験にこれらの装置を提供しているが、「送信装置のカバー範囲は1平方km程度」(サムスン電子の説明員)という。このため伝送距離は500m程度とみられる。

手前のガラス扉を閉めても600MHz帯は影響を受けにくいことをPRするT-Mobile

手前のガラス扉を閉めても600MHz帯は影響を受けにくいことをPRするT-Mobile

 T-Mobile社は、ミリ波帯を使った通信の課題を実証しながら、600MHz帯と併用することでサービス品質の低下を軽減することをアピールする展示を行っていた。具体的には、受信アンテナを小部屋に設置し、ガラスドアを開けているときには39GHz帯の電波を安定して受信できていても、ガラスドアを閉めると電波が届かなくなる様子を見せた。説明員がアンテナに手を近づけただけでも受信状況が悪化した。こうした状況でも600MHz帯の電波には変化がなかった。このほかT-Mobile社のブースでは、データ転送速度と並ぶ5Gの特徴であるレイテンシー(遅延)の短さを、4Gや3Gといった既存方式と比較できる展示も行っていた。4Gでは、通信に100ms(10分の1秒)から150msほどの遅延があるが、5Gではこれが10ms(100分の1秒)から20ms(50分の1秒)と短くなる。T-Mobileは、ARを使ったもぐらたたきゲームを利用して、ヘッドセットに現れるターゲットの表示タイミングを任意に遅らせることで、4Gや3Gでは手の動きとターゲットの表示にずれが起きて、ゲームを満足に楽しめないことを体験させていた。本体験ゲームの装置にはエリクソンのロゴが印刷されていたことから、5Gの普及を推進したいエリクソンが提供したとみられる。このほか、インテルは自社のチップセットを搭載した5G対応の家庭用モデムの試作機を見せていた。こちらも、VRを使ったリアルタイムの作業デモを通して、5Gの遅延の短さをアピールしていた。

対応スマホの開発が進む 

クアルコムの展示エリアで中国メーカーが5G対応スマホを展示

クアルコムの展示エリアで中国メーカーが5G対応スマホを展示

 ミリ波帯を巡る課題の克服と並行して、5Gに対応したスマートフォンや据置型装置の開発は着々と進んでいるようだ。クアルコムのブースには、Xaomi社、Vivo社、Oppo社といった中国メーカーが、Snapdragonを搭載した5G対応スマートフォンの実機を展示したほか、Netgear社やInseego社が5G対応の据置型のホットスポット装置を展示した。サムスン電子も5G対応スマートフォンの試作機を展示していた。部品メーカーでは、ヒロセ電機が5G対応スマートフォンのアンテナモジュールの実装に向けたコネクタを見せた。5G対応スマートフォンでは、3本から4本のアンテナを組み込む必要がある。ミリ波帯の電波は人体に吸収されやすいため、手が触れている部分を避けて電波を受信するために、複数のアンテナを切り替えて扱う必要があるためとみられる。クアルコムが展示していた5G対応の試作機は3本のアンテナモジュールを組み込んでいた。

ミリ波のアンテナモジュールに向けたコネクタ(右下が拡大写真)

ミリ波のアンテナモジュールに向けたコネクタ(右下が拡大写真)

 アンテナモジュールとチップなどを載せたメイン基板の接続には、これまでの携帯電話では電磁波ノイズを遮断する同軸ケーブル(信号線を導電体でカバーしたケーブル)を使っていた。ところが、複数のアンテナを組み込む5G対応スマートフォンでは、同軸ケーブルを使うとかさばるため使いづらい。このためフレキシブル基板と呼ぶ、薄くてしなやかな基板を使って接続したいという需要があるという。ヒロセ電機が展示していたコネクタは、アンテナ側のフレキシブル基板とメイン基板の接続に使うことを想定している。アンテナで受信したミリ波帯の電波はアンテナモジュールで低い周波数に変換(ダウンコンバート)してから、メイン基板に伝送する。低い周波数とはいえ、変換後の電気信号を伝送するにはコネクタ側で12GHzといった高周波までの伝送特性を保証する必要があるという。このため、コネクタの中央部にアース(接地)のための電極を用意するといった工夫をしている。

枝洋樹 Written by
理系大学院を修了後、日経BPに入社。技術者向けの雑誌「日経エレクトロニクス」で記者として半導体、コンピュータシステム、コンシューマーエレクトロニクスなどに関する記事を執筆。シリコンバレー支局を経て、2004年に日経エレクトロニクス副編集長。2007年にデジタルガレージに入社し、DGインキュベーションでTwitterなど海外投資案件を担当。2011年より、デジタルガレージ グループCEO室室長を兼務し、海外事業連携や広報などを担当。