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5Gで先行する中国 ふくらむ夢と先行投資

1月31日、表参道ヒルズ。OPPOの発表会

1月31日、表参道ヒルズ。OPPOの発表会

「皆さんから質問がないので、私のほうから一つ強調しておきたい点があります。われわれOPPOは5G通信技術で世界をリードする企業のひとつです。2020年にも始まる5Gネットワークの時代には大きな強みとなります。」

1月31日、表参道ヒルズ。OPPOの発表会にて

1月31日、表参道ヒルズ。OPPOの発表会にて

 世界シェア4位のスマートフォンメーカー、中国のOPPOは今年1月31日、東京・表参道ヒルズで記者会見を開き、日本進出を発表した。上記発言は、OPPO JAPANの鄧宇辰代表取締役社長によるものだ。発表会後の囲み取材で、鄧社長はOPPOのストロングポイントとして「5Gへの取り組み」を強調した。世界的企業に成長したとはいえ、日本では無名のOPPOがシェアを取れるのか懐疑的な向きはあるが、ゲームチェンジの転機となる5G導入は自分たちへの追い風だとアピールした格好だ。

 5Gとは現行の4G通信の後継規格として仕様策定が進められており、LTEの1000倍以上のデータ容量、100倍のデータ転送速度、遅延時間は1ミリ秒以下、LTEの100倍以上の同時接続数、高速移動中でも安定した通信など、さまざまな面でLTEネットワークを大きく上回る性能を実現する計画だ。

 この5G投資において、中国は世界をリードしている。スマートフォンの分野では米半導体大手クアルコムが主催する「5G Pioneer Initiative」にOPPO、vivo、XIAOMI、ZTE、Lenovo、Wingtechと中国メーカーが加盟。2019年には初の5G対応デバイスが発売される見通しだ。基地局整備ではファーウェイ、ZTEという中国通信機器大手が積極的に投資し、開発を進めている。5Gのデバイス、基地局の開発には多額の研究投資が必要で、世界市場でシェアを持たないドメスティックなメーカーでは対応不可能とも指摘されているが、中国企業にはそれだけの体力が備わっている。携帯キャリアの投資でも中国は先行しており、米国CNBCの報道によれば、中国はすでに35万カ所の5G基地局を設置しており(デロイト・トウシュ・トーマツ(DTT)の調査)、3万カ所未満の米国を大きく引き離している。支出額では中国の次世代通信インフラ投資は米国を数百億ドル上回っている状況だという。

5Gという錦の御旗を掲げ爆走する中国企業

 なぜ、中国はこれほど5Gに力を入れているのか。背景には、「次世代の技術」で世界トップに立つ戦略がある。人工知能(AI)、クラウド、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)など世界を大きく変える技術が次々と登場している。こうした技術が普及する過程は新興企業が躍進するチャンスだ。この好機を逃さずに、次のパラダイムでは中国が技術面で世界をリードすることが狙いだ。

広東省深圳市のファーウェイ本社キャンパス、VRラボ

広東省深圳市のファーウェイ本社キャンパス、VRラボ

 特に通信技術では2Gから3G、3GからLTEと切り替わるたびに、中国メーカーは世界での存在感を増してきた。2G時代には世界から10年遅れていると嘲笑されていたが、LTEでは中国発の技術規格「TD-LTE」を国際規格にするまでになり、5Gでは仕様策定の中心メンバーに食い込んでいる。

 また、通信関係の企業だけではなく、IT企業を中心とした多くの企業において5G到来を前提とした取り組みが始まっている。今年3月、ファーウェイ本社キャンパスの一角にあるVRラボを訪問した。彼らが提唱しているのがクラウドVRだ。現行のVR機器はかなり大きく気軽に装着するのは難しい。そこでデータの処理をクラウド側に任せ、VR機器は表示機能に特化し、小型化しようという発想だ。クラウドVRには高速、低遅延の通信環境が不可欠。5Gは最良の選択肢になる。

 テンセントのMVNO(仮想移動体通信事業者、通信キャリアから回線を借りて独自ブランドでの移動体通信サービスを提供する事業者)SIM「テンセント・キングカード」も5Gを前提にした取り組みだ。このSIMには、テンセント系のアプリを利用してもデータ通信量は課金されないという特典がある。メッセージアプリのウィーチャットでどれだけ音声通話、ビデオ会議をしてもタダ。それどころかPUBGモバイルといったゲームアプリ、テンセントビデオで映画やスポーツ中継を見ても、通信量の心配はない。テンセントビデオは現在、中国市場でシェアトップの動画配信サービスだ。映画、バラエティ、アニメ、スポーツ配信などコンテンツは豊富だが、Wi-Fiがない環境でもデータ通信量を気にせず視聴できるのはすばらしい。

広東省深圳市の電気街「華強北」テンセントキングカードを販売するショップ

広東省深圳市の電気街「華強北」テンセントキングカードを販売するショップ

 テンセント以外の企業からも同様のMVNO SIMが発売されているが、旗下のサービスの豊富さではテンセントが図抜けており、利便性が高い。日本のMVNO SIM「LINEモバイル」ではLINE、LINE MUSIC、Twitter、Facebookなどの通信量を課金しないというサービスもあるが、動画配信まではカバーしていない。

 テンセントはMVNO事業単体での損益を公表していないが、ある業界関係者は「月19元(約310円)という激安価格ではペイしない」と指摘する。テンセント系サービスにユーザーを集めるためのコストと割り切っての投資ではないか、と。この投資を許しているのも、5G時代前夜という状況だ。5Gが普及すれば、データ通信料が値下がりし、携帯回線を使った動画視聴は一般化する。現時点では赤字でも、先手を打ってユーザーを囲い込もうという狙いだ。

 他にも自動運転車やスマートシティ、IoTなど5G通信を前提とした技術開発、戦略に多くの企業が投資している。中国企業の取材中、「5G時代を見すえて……」という言葉を聞き飽きたほどだ。

2020年商用化予定も本格普及はまだ不透明という現実

 世界とビジネスを一変させる可能性を秘めた5Gの夢。この夢はいつ現実となるのか。日本、中国ともに2020年には商用化が始まる予定だ。もう目と鼻の先だが、LTEのようにあまねく普及するのがいつになるかはまだ不透明だ。

 3月、ファーウェイは発表会「ファーウェイ・アナリスト・サミット」(HAS)を開催した。席上、エリック・シュー輪番会長は導入初期において、5Gネットワークは必要な一部地域にのみ実装されるとの見方を示した。多くの観客が集まるスタジアムやイベント会場、無数のIoT機器が設置された工場などが候補になりそうだ。こうした特定場所での活用に大きな意義があることは間違いないが、すべてを解決する魔法のように語られている5Gの夢とは一定の開きがあることも否めない。

 5Gの携帯通信インフラの整備には多大なコストが必要となる。コストを負担するのは携帯キャリアだ。以前ならば通信の高速化、サービスの向上はキャリアの利益につながっていたが、OTT(Over The Top、音声・動画などのコンテンツをインターネット上で提供する事業者)の台頭により、キャリアの利益につながりにくいのが現状だ。こうした現状がある中で新たなインフラ整備にキャリアがどれだけ投資できるのか、投資するモチベーションがあるのかが問われている。政府の大号令でもなければ、3GやLTEほどのペースでの普及は難しいだろう。

 5Gの夢に向かって邁進する中国ビジネス、その夢がいつ形になるのか。今にも手が届きそうだが、なかなか手に入らない。もどかしい状況がしばらく続くのかも知れない。

高口康太 Written by
ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国専門のジャーナリストに。『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』など各誌に多数の記事を寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。