2019年4月3日~5日、第3回 AI・人工知能EXPOが東京ビッグサイト青海棟で開催された。一時期の“AIブーム”も少し落ち着いた中で開催された今年のこの展示会では、AIのさらなる機能向上と、ビジネスや生活の現場でどう役立つか、既存の業務やシステムとどう紐付けるかなど、実践的な使い方を訴求する展示を多く見かけた。
4日に行われたセミナーでは、世界で初めて量子コンピュータを商用化したD-Wave社のジェネラルマネージャー、ハンドル・キム氏が「ジェネレーティブ・ラーニング」について語った。キム氏は、現在AI(人工知能)や機械学習を活用したいと考えたとき、大きな壁となるのがラベリングされたデータの不足だと述べ、量子アニーリングマシンを活用するジェネレーティブ・ラーニングはラベル付けされたデータ不足や、ターゲットクラスのサンプル不足などの課題に対して活用が可能だとした。
この日の話の中では、その具体的な技術概要については言及されなかったが、例えとしてキム氏は「(海面に出た)氷山の一角がラベル化されたデータだとします。そして、その水の下にある氷の塊はラベル化されていない。海より上に出ている氷の部分がラベル化されているのであれば、これを活用して海の下にある氷の状態を理解することができ、全体像を知ることができます」(キム氏)と述べて量子コンピュータがAIにさらなる進化をもたらすことを示唆した。
元ソニー会長も「ボット」として対応
展示会場では、大手ベンダーや研究機関、大学、スタートアップなどがさまざまなAIに関わる製品やサービスの展示を行っていた。その中で最初に目についたのは「チャットボットコーナー」だ。アップルやグーグルの音声応答などAIが人間の問いに対して応対するチャットボットは、ある意味AIブームを象徴するようなものだったが、数年前の物珍しさは消え、やはりビジネスにどう活用できるかの勝負になっているようだ。自社での導入にあたり、わかりやすい料金体系(月額定額制)で利用できるもの、チャットボットによくある“とんちんかん”な受け答えの改善をうたうものなどが散見された。
その中で動物のビジュアルで目立っていたのが、モビルス株式会社の『バーチャルオペレーター』。チャットボットのサービスでは無機質感を感じることがある。それを補うためアニメ調のやわらかいアイコンまたはアバターを使用しているサービスが多い。同社サービスでは、そのアバターを人物はもちろん、犬や猫に設定できるという。たとえば柴犬のアバターがカスタマーからの問い合わせに対して表情を変えながら対応できる。申し訳ない返事をするときには柴犬が困った表情になり、尻尾がまるまってしまう。「このように表情豊かに対応することでカスタマーと良好なコミュニケーションをとることができます」(説明員)。確かに、柴犬のアバターに向かって強いクレームはいいにくいかもしれない。
これを可能にしているのが、モーションポートレート社の“AI x アバター技術”だ。一枚の写真から簡単にアバターが生成でき、チャットのテキストにあわせて表情を変えることができる。写真だけではなく音声データも使える。
「アバターを人物に設定し、その人物の声で応答することもできます」(説明員)その例として『出井(いでい)ボット』を紹介していた。これは元ソニー会長出井伸之氏がチャットボットのキャラクターとなり、本人の声を元に合成した音声で対応をしてくれるもの。出井氏が同社の顧問であることから引き受けてくれたという。家電製品のカスタマーサービスに『出井ボット』が対応してくれるとインパクトがあるかもしれない。「将来的には、たとえば織田信長などの人物と、半永久的に対話ができるかもしれません」(説明員)
チャットボットコーナーには、以前本媒体で取り上げた「AILL(エイル)」も出展し、AIが恋愛をナビゲーションしてくれるサービスを展示、説明していた。また株式会社KDDIエボルバは、完全自動のAIチャットボット導入だけでは解決しない課題に対応するための、有人チャットやコールセンターとの組み合わせでの導入、また導入後にチャットボットの対応を改善するためのフォローサービスなどを紹介していた。問い合わせ応対などは、近い将来AI化される業務だろうが、イノベーション過渡期に現れるこうした“ハイブリッド”な現実的対策は、ビジネスの現場には需要があるということだろう。
議事録作成のさらなる進化
このような取材をしてそれを原稿にするとき、苦労するのは録音からテキストにする「テープ起こし」だ。メディアの取材記者のみならず、多くの会社でも記事録作成の手間に苦しんでいるのではないだろうか。録音音声をテキスト化してくれるソフトやソリューションもあるが、多人数の座談会などでは、音声が混じりあうため、うまく対応できない。また、発言と発言者が結びつかず、誰の発言なのかわからないこともある。
今回のようなAI関連の展示会では、過去にも音声認識からテキスト作成を自動化するソフトやソリューションが数多く展示されてきたが、なかなか「これ」というものに出会えなかった。
そんな中、今回見つけたTIS社の「COET Record Meeting」は、スマートスピーカーを活用した仕組みで、発言を自動的にテキスト化できるだけでなく、その場で参加者がスマホでそのテキストを修正できる。
そのデモ会議に参加してみた。まずスマホでQRコードを読み込み、アプリを起動する。そこで参加者の座席位置を検出するという。はじめに、参加者が自己紹介をする。すると、それぞれの名前がスクリーンに掲出され、発言が記録されていく。同じものは手元のスマートフォンでも確認できる。実際に架空の会議を記録するデモを行ったが、音声認識はまだ改良の余地があると感じる。しかし、「会議の中で、この人がこういうことをいった」という記録が、氏名とともに記録されていくのは新しいアイデアで、利便性が高いと感じた。夏頃にサービスのリリースを予定しているという。
「IT」がビジネスの現場に組み込まれ一体化した過程と同じく、「AI」も既存の仕組みや技術と上手く組み合わさってビジネスの現場に無理なく浸透しはじめたことを感じさせた第3回AI・人工知能EXPOだった。