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「恋愛に傷つきたくない世代」をAI(人工知能)でサポート〜恋愛ナビゲーションサービス「AILL(エイル)」

ジェムフューチャー代表取締役豊嶋千奈氏

ジェムフューチャー代表取締役豊嶋千奈氏

 AI(人工知能)を活用した恋愛サポートサービスはいろいろとあるが、「出会いをサポートするだけでは意味がありません。お付き合いに発展させる過程こそが大事なのではないでしょうか」と語るのは株式会社gemfuture(ジェムフューチャー)豊嶋千奈社長だ。同社はAIによる恋愛ナビゲーションサービス「AILL(エイル)」を展開中だ。

 このシステムにはAIによる自然言語解析の第一人者、北海道大大学院情報科学研究科の川村秀憲教授が全面的に協力している。そもそも、豊嶋氏がAILLのコンセプトを企画書にして、川村教授のドアを叩き、企画趣旨に賛同を得たことがはじまりという。この企画を事業として磨きをかけるために川村教授に勧められたのが「Open Network Lab HOKKAIDO(以下、OnLab 北海道)」への応募だ。幸いにしてOnLab 北海道のアクセラレータープログラムに採択され、3ヶ月間みっちりと、事業としての仮説、検証を進めた豊嶋氏。10月に開催されたデモデイでは「AILL」は最優秀賞を獲得することができた。同氏は関西出身だが、「北海道に育てられています」と感謝する。

そのAILLについて豊嶋氏に話を聞いた。

結果が不透明なことへの努力に踏み出せない人たち

——どうしてマッチングではなく、恋愛ナビゲーションなのですか?

 婚活のマッチングでAIをうたっているサービスはあります。でも、AIがパーソナルデータをもとにマッチングして、それだけでうまく行くでしょうか? 大切なのは行動や価値観など、2人の「行動相性」でしょう。出会うだけではダメ。出会った後の関係進展をAI化したのは世界で初めてなんです。

——それがAILLですね。では、AILLはどういう価値提供を?

「傷つかない恋愛」です。

——「傷つかない恋愛」とはどういうことでしょう?

 成果主義によって、結果を出すことにこだわりを持つ20代、30代が増えました。つまり、結果が不透明なことに努力することへ踏み出せない。ヒアリングを重ねたのですが、一番のインサイトは「やった努力を無駄にしたくない」ということでした。「恋愛で傷つきたくない」人たちなんです。でも恋愛って傷つくものですよね? そうすると、「今恋愛できずに悩んでいるその世代の人たちには、結果をクリアにしながらナビゲーションしていけばいい」というところに行き着いたんです。言い換えれば、恋愛の進展可能性を「⾒える化」してあげることがポイントです。

* * *

 それでは、どうやってAILLは「恋愛に傷つきたくない人たち」をナビゲーションしているのだろうか?

 まずAILLに登録し、自分のパーソナルデータを入力すると、すでに登録している異性から候補者が選び出される。現在、この部分に関しては既存のAIを使った相性診断サービスと大きく変わらず、豊嶋氏の求めるサービスの姿には到達していない。しかし登録ユーザーの日々の行動過程をAIに学習させ、分析しており、近いうちにこうしたデータから、より相性のいい人を選出できるようにするという。

ジェムフューチャー代表取締役豊嶋千奈氏

ジェムフューチャー代表取締役豊嶋千奈氏

 登録後、相手候補の異性とのやり取りが開始されると、そのやり取りをAIが解析し、双方の画面に「こうすると好感度が上がるよ」「今話した中からこの話題を深く聞けばいいよ」などと好感度が上がるような会話のテクニックがアドバイスされる(相手側へのアドバイスは画面上に見えない)。

 AILLの特長は、相手からの自分への好感度が「見える化」されていることだ。たとえば相手からの好感度が80%と高く出ていれば、相手にもう1歩踏み込んでいく勇気が出る。これが、豊嶋氏のいうところの「結果をクリアにしてナビゲーションする」ということにつながる。

 恋愛で傷つきたくない人は、一方的に人に好意を寄せることをためらう。豊嶋氏によると、人を好きになるきっかけは「相手が自分に好意を寄せているとわかったとき」だそうだ。

 AILLのサービスでも、画面で相手候補の一覧が出ると、自分への好感度が高い(とAIが判断した)相手に興味を持つ。その傾向は男性の方が顕著らしい。男性の方がより傷つきたくないということなのだろうか?

女性活躍のためには「仕事」と「愛」が必要

 豊嶋氏は日本の大手医薬品企業で、トップ営業として活躍していた。先生(医師)との会話を一言残らずメモし、書き出し、その言葉の変化によって、優良顧客になるかどうかのきっかけを見つけ出していたという。この自己流自然言語解析が営業成績につながっていたわけで、それもAILLのアイデアに繋がっているのかもしれない。

 豊嶋氏は仕事も恋愛も両立させたいと思っていたという。「仕事を持つ女性達の9割もそうです。でも、女性はみんな疲弊していました。仕事だけに自分のアイデンティティを持つ状況。女性活躍とか言われているけれど、大事なピースが足りないのでは」と感じた豊嶋氏は、医薬品企業を退職し、独自に事業準備の調査を行い、有識者に意見をもとめた。女性が活躍するためには、アイデンティティに仕事と恋愛の両方が必要であり、その恋愛部分を自分が事業化しようと考えたのがAILL開発のきっかけだ。 

 そして冒頭のように川村教授のドアを叩くのだが、OnLab 北海道で最優秀賞を獲得したことにより、さらにAI人材を集めやすくなったということだ。著名なAI研究者からも賛同の申し出が続き、「今はまだ発表できませんがAIのドリームチームができそうです」と期待を滲ませる。

 豊嶋氏が創り、北海道で芽吹いた恋愛ナビゲーションサービス「AILL」は、恋愛を育てようとする男女間のやり取りのデータを食べて、社会課題の解決に向け今日も進化し続けているようだ。

 

藤木俊明 Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。