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九経連も“AI婚活”を開始 福利厚生に導入されはじめたAI恋愛ナビゲーションサービス

九州経済連合会が「婚機創出事業」を新設。左から、北海道大学情報科学研究科の川村秀憲教授。株式会社エール代表取締役の豊嶋千奈氏。九経連観光・サービス産業部の升本喜之氏(部長)、宮城純氏(参事) (画像提供:エール)

九州経済連合会が「婚機創出事業」を新設。左から、北海道大学情報科学研究科の川村秀憲教授。株式会社エール代表取締役の豊嶋千奈氏。九経連観光・サービス産業部の升本喜之氏(部長)、宮城純氏(参事) (画像提供:エール)

 これまでも企業の福利厚生メニューには、結婚相談サービスの斡旋や婚活パーティーの開催など、パートナーの“出会いの場”を提供するものがあった。さらに近年はAI(人工知能)技術の進化を背景に、パートナーと付き合うまでの “プロセス指南”までもが福利厚生のメニューに入るようになったのをご存じだろうか。

 株式会社エール(東京都港区)は、2020年9月7日から、AIを活用した恋愛ナビゲーションアプリ「Aill(エール)」の福利厚生サービスとしての提供を開始した。現在、首都圏を中心に約280社で導入されている。

 Aillとは「Open Network Lab Hokkaido」のアクセラレータープログラムに採択された株式会社エール(当時、株式会社ジェムフューチャー)の豊嶋千奈代表取締役が中心となり開発したAI恋愛ナビゲーションアプリだ(※「恋愛に傷つきたくない世代」をAI(人工知能)でサポート〜恋愛ナビゲーションサービス「AILL(エイル)」)。

 同アプリの利用者は、他の企業に所属する独身社員をAIが紹介してくれる「紹介ナビゲーション」や、チャット上でのコミュニケーションをAIがアシストしてくれる「会話ナビゲーション」、気になる異性の好感度をAIが可視化してくれる「好感度ナビゲーション」の3つのナビゲーションを利用できる。これら機能により、単なるマッチングだけでなく、出会った後に関係が進展するようAIにアシストしてもらえるというわけだ。

Aillの利用画面。左から「紹介ナビゲーション」「会話ナビゲーション」「好感度ナビゲーション」 (画像提供:エール)
Aillの利用画面。左から「紹介ナビゲーション」「会話ナビゲーション」「好感度ナビゲーション」 (画像提供:エール)

 なおAillに搭載されるAIの開発には、AIによる自然言語解析の第一人者である北海道大学情報科学研究科の川村秀憲教授や、「将棋AI」の開発で知られる東京大学システム情報科学部の松原仁教授、感情の数値化を得意とする東京大学工学系研究科システム創成学専攻の鳥海不二夫准教授が参加している。

恋愛コストを下げるためのAI活用

「恋愛のプロセスまでAIに頼る時代になったのか」と眉をひそめる人もいるかもしれない。しかし恋愛を取り巻く環境や意識は、ここ30年ほどで大きく変化しつつある。

 AillのAI開発に携わった3人の教授と豊嶋氏は、「AIで恋愛が変わる!?〜日本のAI先駆者3教授によるAI×恋愛論〜」と題したトークセッションを実施しているが、そのなかで社会情勢と恋愛意識の変化、それに対するAIの有用性などについて言及している。

 まず恋愛を取り巻く状況の変化について松原教授は、30年ほど前にはお見合いが頻繁に行われ、結婚適齢期の男女の世話を焼く存在がいたが、今や「そうした機能が日本社会からなくなった」と自説を述べた。さらに川村教授は、「お見合いが減った後も合コンなどで出会い、自然恋愛の末に結婚する流れがあった」が、現在はその合コンすらなくなり、「マッチングアプリのようなものでしか出会う機会がなくなってしまった現状がある」と出会いが難しい状況がさらに進んでいると話した。

 鳥海准教授は、こうした恋愛を取り巻く状況の変化に、価値観の多様化が加わったことで、かつて大多数を占めていた恋愛至上主義が影をひそめ、「コストをかけてまで恋愛しなくてもいい」と考える傾向が強まったと分析する。つまり、恋愛へのモチベーションが低い傾向が見られるという。

 ただ鳥海准教授は、この状況を裏返し、「(金銭的、精神的)コストさえ下がれば(恋愛を)してもいいと考えるのではないか」と提言し、AIナビゲーションによってリスクやコストを下げる仕組みを提供することは「これからの時代の恋愛市場においては有益」とAillへの期待をにじませた。

 実際に企業11社を対象に行ったAillのトライアル(2019年11月〜2020年3月に実施)では、チャット開通後1ヶ月以内でのデートへの進展率が、AIナビゲーションがない場合に比べ約4倍に上がったほか、デートに誘った場合の受託率もAIナビゲーションがない場合に比べて約8倍に上がるなど、さまざまな効果が出ている。

“AI婚活”事業で九州全体の活性化を

 こうしたAIによる恋愛ナビゲーションを大々的に取り入れると発表したのが、九州地域の経済活性化を目指す一般社団法人九州経済連合会(福岡県福岡市、以下「九経連」)だ。

 九州地域では、福岡県を含めた7県すべてで人口減少が見られ、地域衰退の懸念が増している。この人口減少の原因である「社会減少(若者の都心への移住)」と「自然減少(未婚者増加)」の解決を目的に、九経連ではAillを活用した「婚機創出事業」を2020年9月18日から開始した。

 婚機創出事業では、身元がはっきりした加盟企業内で出会いの場が提供される。同じ社会的レイヤーの企業の社員同士が出会うため、安心安全に利用できるほか、価値観やライフプラン、キャリアプランが合わせやすくなる。九経連は同事業を通して人口減少、ひいては地域経済後退の抑制につなげたいとしている。

 エール代表取締役の豊島氏に婚機創出事業の狙いを聞いた。

 豊嶋氏は九経連が同事業を進める効果として、特に女性が結婚、出産した後の「雇用継続」を挙げた。

エール代表取締役の豊嶋氏 (画像提供:エール)
エール代表取締役の豊嶋氏 (画像提供:エール)

「九経連に加盟している企業さんは、福利厚生が充実しているところが多い。Aillの利用により、そうした企業の社員同士が結びつくと、お互いの福利厚生制度を利用することで、共働きをしやすく、(結婚、出産後などに)仕事を辞めなくてすむ確率が高まります。すると雇用継続されやすくなります」

 さらに豊嶋氏は「九州全体のエコシステム創出にもつながる」と事業への期待をにじませる。

「Aillのナビゲーションによってカップルができ、やがて結婚すると世帯収入が増えますよね。するとお金が回りやすくなる。さらに共働きしやすい環境のなかで、子どもを産む夫婦が増えると、どんどん経済が回っていきます。すると企業さんの利益も上がり、雇用増加にもつながります。こうした流れにより、九州全体を活性化するエコシステムを構築できるのではと期待しています」

 現在エールでは、こうした婚機創出や経済活性化の取り組みを、九経連以外の複数団体とも推進中だという。「九経連さんとの取り組みは、日本創生の第一歩です」と豊嶋氏は力強く語る。

 恋愛指南が地域経済活性化につながる。そしてその恋愛指南者はAIである。人とAIの共生はあらゆるところで始まり、成果をあげることだろう。

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有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。