現在、首都圏を中心に実施されている「テレワーク・デイズ2019」(~9月6日)。これは東京オリンピックが開催される2020年に向けて、首都圏都心部の交通渋滞、通勤混雑などの緩和を目指し、会社員が都心への通勤を避けて自宅やコワーキングスペース、サテライトオフィスなどでのテレワーク(ネットなどを活用した遠隔での業務従事)を行うことを推奨する運動で、1年前のリハーサルとして試行されているものだ。
来たる2020年には、首都圏の企業は本格的にテレワークに取り組むことを求められる。また、今後の少子高齢化社会を見据え、多様な働き方を実現するためにテレワークの導入は不可欠だ。
株式会社NTTデータでは2017年に筑波大学とテレワーク推進に関する共同研究を実施した。その結果「メールチェック」「資料作成」「技術調査」などの業務はテレワークに向いているが、「会議」「取引先との打ち合わせ」は向いていないという声が多かった。そこでNTTデータではVR等の技術を用いて、テレワークでの会議に臨場感を出す試みを続けている。VR、アバター、自動翻訳などテレワークでの会議技術はどう進化ているのだろうか。また、その使い勝手については現時点での評価はどの程度のものなのだろうか。
対面以上のコミュニケーションを
2019年8月19日、NTTデータは「xR技術およびVR会議の取り組みについて」と題して記者発表を行った。その発表の中心が「ナチュラルインタラクション」というコンセプトだ。このコンセプトは近年の技術トレンドで、マシンと人とのより“自然なやり取り”を目指す。スマートスピーカーなどのボイスコントロールをより自然に活用するために、言葉だけでは不足する情報を視線やジェスチャーなどから取り込み補う。
人が集まる会議でも、すべての情報が言葉として発信されるわけではない。発言者は誰か、声のトーンや表情といった情報を総合して会議の参加者は議論を進めていく。音声だけの電話会議やskypeなどによる、切り取られた平板な画像を通しての会議がいまひとつ不自然なのは、そうした周辺情報が不足していることが原因でもある。
NTTデータが開発しているのはそうした状況を改善することを狙ったもので、同社エボリューショナルITセンタ次世代イノベーション技術担当部長武田光平氏は「オフィスのフルデジタル化を想定した革新的な働き方を創出するもの」と説明した。また、その内容について、シニア・スペシャリスト山田達司氏は「従来のテレワークのコミュニケーション手段としては、ウェブカメラを利用することが一般的だが、対面の会議より使いづらいと感じる人は多い。対面以上の遠隔コミュニケーションの実現を目指す」と従来の遠隔会議の課題を踏まえたものであることを説明した。
意外と便利な機能は…
この日はNTTデータが開発した「VR会議システム」のデモも行われた。このシステムでは別々の拠点にいる会議の参加者はVRゴーグル(デモではOculus Goを使用)を装着する。そして顔写真などから作られた自分に模した3Dアバター(仮想空間での自分の分身)となって「仮想的な会議室」に参加する。VRゴーグルをかけた、コントローラーを持って発言したり、資料を確認したりするが、その際、本人の顔の向き、手の動きなどがアバターに反映され、発言によってアバターの表情も微妙に変化する。また、アバターの立ち位置によって、相手の声が聞こえる方向も変化する。
デモでは英語での会議参加もあったが、参加者各々が話した言葉がリアルタイムで翻訳され「文字認識」されて吹き出しで表示される。アバターもさることながら、この機能が意外と一番ありがたいかもしれない。
さらに、会議のやり取りはすべてテキストとして保存され、そのまま議事録となる。また、このVR会議の模様は中継可能で、リアルタイムで視聴できる。さらにVR会議の中で、サーバーから資料を取り出したり、ウェブサイト上の資料を参加者に共有する様子も披露された。
説明を受けた後に、筆者も自分の顔写真を登録したアバターでデモに参加したが、コントローラーの操作に慣れていないこともあってか戸惑うことも多く、すべての機能を体感できることはできなかった。ただ、相手の音声が立ち位置によって変化する立体感は新鮮なものがあった。
利用者からは「まだまだ」との声も
戸惑ったのは筆者だけではないようで、NTTデータでは社内外の利用者にVR会議を試行利用してもらい、実用性についての評価を進めている。
試行利用者のうちVRの利用経験知は「初めて」が61%を占めており、「数回」(30%)、「所有」(9%)となっている。さらにVR会議を使ってみて「Web会議より誰が発言しているかわかりやすかったか?」という問いには「とてもそう思う」(17%)、「そう思う」(35%)と過半数が好意的な評価だったようだ。ただし、「どちらともいえない」も30%と多い。「思わない」(13%)、「まったく思わない」(4%)という声もあった。「Web会議より自分の考えを説明しやすかったか?」という問いには「そう思う」(36%)「思わない」(9%)に挟まれて「どちらともいえない」が55%と、計りかねている様子がうかがえる。
そして「顧客との打ち合わせに使えるか?」という問いには、「要VR機器改善」(50%)、「不可」(45%)となり、「可能」としたのはわずか5%だ。ネガティブなコメントには「ネットワーク帯域不足による音声不良」や「機器の装着感が悪い」「機器が熱くなり停止することがあった」など、ネットワークやVRゴーグルの機能についての課題が挙げられていた。
山田氏は「VRが持つ臨場感や仮想空間ならではの認識、翻訳機能などは評価されている」と語り、「VR機器の性能や普及度不足は確かに問題だが、これらは改善されていくものと考える」と前向きに捉えた。確かにVR機器に馴染んだ一部のユーザーの間では、アバターによるコミュニケーションだけではなく、ライブ講演への参加などが抵抗感なく行われている。
2020年の本格導入に向け、NTTデータグループでは、グローバル拠点との開発会議、分散拠点によるワークショップ、他社も参加するライトニングトーク(電光石火のような短いプレゼン)大会などで機能改善導入検証を進めていくということだ。
VRゴーグル機器そのものの進化と低価格化による普及が進み、ネットワークの問題が5Gで解決すれば今回のVR会議で示されたコンセプトはかなり有用かもしれない。2020年までにはすべてが整うことはないが、この動きは今後も期待をもって注視していきたい。