9月19日、札幌市の道新ホールにおいて「Open Network Lab HOKKAIDO」の第2期生によるDemo dayが開催された。この日は5つのチームが登壇し、自らの事業計画を投資家や道内外の関連企業などの聴衆に向けて披露した。
地域特化型のシードアクセラレータープログラムとして昨年の4月にスタートしたこの取り組み。今回採択されたチームには、農業や食といった北海道の基幹産業に関わるビジネスや、「狩猟」といった他の地域ではスタートアップが取り扱うことが稀な分野においても新しいアイデアが披露された。
5つのチームの中には、株式会社スポルターレ(代表:大坪英則)のアスリート向けメディカルサポートアプリ「スポルnote」のように、すでに道内13医院で導入が進んでいるものや、株式会社KitaLabs(代表:阿部研生 Gabil Aliyev)の留学生向けで、多言語対応の中古品売買プラットフォーム「2gaijin.com」など北海道に限らず、他のエリアでも実用的な事業の提案があった。
さらに、会場の聴衆からの投票で決まる「AUDIENCE AWARD」に選ばれた株式会社Fant(代表:高野沙月)は、地域を越えて若手ハンター同士がつながり、鳥獣被害、ジビエの活用などの課題解決にもつながるプラットフォーム「Fant」を提供する。エゾシカの増加と駆除という社会現象が身近にある北海道のスタートアップならではの着眼だ。
また、この賞に関しては、会場からの投票結果はわずか1票差の僅差であったため、次点となった株式会社TREASURE IN STOMACH(代表:柴田愛里沙)の「issue」にも特別賞が贈られた。こちらは、宗教や生活信条、健康、アレルギーなど個別顧客の状況に配慮したお菓子が月1回届くサブスクリプションサービスだ。
それぞれ「ハンター」「お菓子屋」と昔ながらの仕事に関する提案だが、コミュニティを作り、つながり、そこで生まれたデータを集約・分析することで、その業界や顧客が持つ課題の解決方法を提案している。issueをプレゼンテーションした柴田氏は受賞の挨拶の中で「普通のお菓子屋がITちっくになるにはどうすればよいかを考えた」と話した。この「ITちっく」の意味するところは、電子決済やIoT機器の導入のことではなく「コミュニティ」「シェア」「サブスクリプション」などイノベーションがもたらす、コミュニケーションやビジネスの仕組みの変化を、既存の仕事や業界に取り入れることを指しているはずだ。その結果見えてくる「猟師」や「お菓子屋」の新しい可能性に、会場の聴衆が共感したゆえの受賞なのだ。
この日の「最優秀賞(Best Team Award)」は審査の結果、株式会社ベッテル(代表:池田哲平)の「vetell」が獲得した。これは牛を飼育する農家と獣医師が牛の情報を共有できる「電子カルテ」のシステムだ。現役の獣医師である池田氏が自ら課題と感じてきた、牛の健康情報の電子化と共有化は現場発ならではのアイデアだ。さらに病気の予防や治療だけにとどまらず、牛の個体別にコストと収益を管理することもでき、より精緻な酪農経営に役立つツールとなっている。
なお、この最優秀賞にはサプライズがあり、副賞としてこの日の審査員である千葉功太郎氏(慶應義塾大学SFC特別招聘教授、Drone Fund 創業者/代表パートナー)所有のホンダジェットで丘珠—奥尻間の往復フライトに同乗するチャンスが提供された。
フライト中は千葉氏と、同じ北海道の先輩起業家である小林晋也氏(株式会社ファームノート代表取締役)が“牛”つながり(同社はクラウド牛群管理システム「Farmnote」を提供している)で同乗し、メンタリングを行うことになっている。