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「イノベーションの種」になる「不満」買い取ります~京都大学と産学連携で開発する文章解析AI

伊藤友博氏とシステムを支える開発部部長 原悠生(はら・ゆうき)氏

伊藤友博氏とシステムを支える開発部部長 原悠生(はら・ゆうき)氏

 「不満買取センター」というサービスがある。消費者が日常生活で感じた不満を買い取るというものだ。会員登録後、不満を投稿するとその内容をAIが査定、1~10ポイントの値付けがされる。それが累計500ポイントになると同額のAmazonギフトカードと交換できる仕組みだ。スキマ時間にポイントを貯められるサービスとして、現在41万人を超える会員を抱える。このサービスのミソは独自開発した文章解析AIによる査定だ。単なるクレームではなくて、“ここをこう改善すればもっとよくなるのに”というような、提案につながる不満の投稿が高く査定される傾向にあるので、会員は企業の課題解決に繋がるようなより質の高い投稿をしようと工夫する。その結果、「一定の質が担保された生活者の日記に近く、本音を浮き彫りにするテキストデータ」が日々約1万件集まってくる。現在同センターでは1,300万件もの“不満インサイトデータ”を保有していると言う。

シンクタンクから不満買取センター社長へ転身

株式会社インサイトテック 代表取締役社長 伊藤友博氏
株式会社インサイトテック 代表取締役社長 伊藤友博氏

 「不満買取センター」を運営するのは株式会社インサイトテック(東京都・新宿区)という文章解析AI開発のスタートアップだ。代表取締役伊藤友博氏は早稲田大学院(建設工学)から株式会社三菱総合研究所に入社し、ビッグデータを用いたマーケティングに従事。さらにAI(人工知能)を活用した新事業開発の立ち上げをけん引してきた。しかし、伊藤氏はクライアントの依頼で調査分析し、事業の立ち上げの手伝いはするものの、その後の重要な意志決定には直接関与できないというもどかしさを感じていた。新しいサービスを立ち上げる喜びを感じる一方で、すべて自分で意志決定し全プロセスにコミットしたいという思いが芽生えたと話す。

 そんな時、伊藤氏に株式会社不満買取センター(当時の社名)の代表をやらないかという話が持ち込まれた。実は「不満買取センター」は2012年から存在していたが、当時は投稿された不満を小冊子のレポートにまとめるビジネスだった。アイデアは面白いが事業規模の拡大は困難なビジネスモデルであると見なされ、伊藤氏に相談が来たわけだ。「これは自分で意思決定できそうだな。しかも自分のキャリアが生きるなと考えて社長を引き受けることにしました」(伊藤氏)

 ただし、伊藤氏は「不満領域だけではなく、そこで培われる技術やロジックは色んな領域に拡げていけるはず。テック企業となるべく会社名も含めてリブランディングしたい」と条件を付けた。そして社長に就任した3カ月後の2017年5月、不満買取センターから現在のインサイトテックに社名を変更。AIによる文章解析技術「ITAS(アイタス)」で課題解決サービスを提供するテック企業にリブランディングを果たした。

京都大学との産学連携

「単語ベースのテキストマイニングではビジネス活用しにくいと感じる企業が多いのです」と伊藤氏は語る。インサイトテックは「フレーズの理解」が鍵だとして構文解析技術に力を入れ、自然言語処理研究で著名な京都大学黒橋・河原研究室との産学連携体制をとった。

 インサイトテックは前述の「一定の質が担保された生活者の日記に近いテキストデータ」を提供する。京大側はそのデータを使って研究を行い、ビジネスに応用できる文章解析技術を共同で開発する。「不満買取センターの会員は主語述語もしっかり書く癖が身についており、自然言語処理に関する研究の有用なデータになると確信していました」(伊藤氏)。

寄せられた「不満」のサンプルには

冷蔵庫だけじゃなく、冷凍庫と野菜室も開けたら電気が灯る様にして欲しい。夜にアイス探したり、野菜室のペットボトル探す時に全然⾒えない。夜中に部屋の電気点けれない時にとても不便です。(女・30代・大阪府・専業主婦)

インターネットバンキングで入金されたときに知らせてくれるサービスをつけてほしい。いつ振り込まれるかわからないお金があったときに、いくらWEBで簡単に残高確認できるにしても毎日確認してられないから。(女・30代・愛知県・会社員)(以上原文ママ)

といったような意見があり、これらは正に生活者が日常感じている不満だ。「このようなデータを1,300万件保有している企業はそうないはずです」(伊藤氏)

声が届く世の中を創りたい

 インサイトテックのITASは、既存のテキストマイニングツールと違い、「優先すべき課題」を浮き彫りにすることで、「打ち手」に導きやすいことが強みだと言う。例えば既存のテキストマイニングツールによる解析で「価格」という単語が浮かび上がったとする。これだけでは「価格が高い」のか「価格がわかりにくい」のかが判然としない。しかしITASで解析すれば「価格がわかりにくいのが不満」だということが解るため、「価格体系を明確にすべき」と対策が明確になり、クライアントの成長を支援できる。

不満買取センターのサイト
不満買取センターのサイト

 インサイトテックのクライアントには、味の素、LION、野村證券等の消費財、金融をはじめとしたBtoC企業が数百社、並んでいる。また、コンビニに加工品を納める企業から「エンドユーザーの声を知りたい」というBtoBtoC需要も出ており、さらにAIによる文章解析技術「ITAS(アイタス)」に対してHR(人事系)業界からの期待も高まっていると伊藤氏は自信を見せる。

「我々の事業目的は『声が届く世の中を創る』ということです。世の中で色んな思いを持っている方がいるのでしょうけど、声の大きい人の声しか届かない。そんなところを改善していきたい。不満と言うとネガティブな想像をされるかもしれませんが、そうではなくてイノベーションの種を集めること。それを新しい事業創造や改善につなげていきたいのです」(伊藤氏)

 実際に不満を投稿してくる会員の中には、「社会とつながって自分の声を届けたい」「もっと社会をよくしたい」という思いを持っている人も多いという。生活者から集めたそんな不満データは宝の山なのだ。

藤木俊明 Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。