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進むブロックチェーン技術 追いかけるルール作り〜KEIO TECHNO-MALL「ブロックチェーンの現状と未来」

KEIO TECNO-MALL 2019 シンポジウムの様子

KEIO TECNO-MALL 2019 シンポジウムの様子

 慶應義塾先端科学技術研究センター(KLL)主催の第20回KEIO TECHNO-MALL(慶應科学技術展)の一環として、12月13日に「ブロックチェーンの現状と未来」と題したシンポジウムが行われた。主に金融分野でのルール形成や利活用、それを支える技術ついて、各分野の識者が現状と近未来の課題などを語った。2019年を振り返るタイミングとしては程よい師走のこの日。登壇者は金融庁総合政策局課長補佐の高梨佑太氏。株式会社三菱総合研究所社会ICTソリューション本部主任研究員の河田雄次氏、さらに株式会社デジタルガレージDG Lab CTO (Blockchain)である渡邉太郎とファシリテータとして同社取締役の大熊将人の4名だ。

金融庁総合政策局課長補佐の高梨佑太氏
金融庁総合政策局課長補佐の高梨佑太氏

 はじめに高梨氏が規制当局として、ブロックチェーンなど分散台帳技術を利用した金融システムを考える際に、従来の銀行などの金融業界とは異なる特性が多々あることを指摘した。

 そもそもブロックチェーン基盤の金融システムには、これまで金融庁が相手にしてきた銀行などの中間業者が存在しない。システムもある程度は自律的に動き続けているため、なにか問題と思われる事象が発生した時に、指導したり停止を要求したりする相手がいない。さらにその金融システムを利用して、誰が取引しているのか、あるいはそもそもそのシステムはいったい誰が構築しているのか、その全貌を把握するのは容易ではない。そのため、これまでやってきたような許認可や免許といった枠組みの適応ができない。しかしながら、こうした特性を前提に金融システムを安定させ、消費者を保護するルールや手法を構築することが金融当局には求められている。

 今年6月に福岡で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議の場では、こうした課題解決のためには新しい技術が考案され、実装されていく過程において当局側もその内容を理解し、同時にルール構築をする必要があり、そのためにはエンジニアとのコミュニケーションを増やす必要があることが確認された。ただ、G20の決定だけでことが進むわけではない。そもそも当局とエンジニアの間には、これまで話し合いの場もなければ、話し合うための共通言語も整備されていない。さらに暗号通貨でビジネスを行っているプレーヤーもここに利害関係者として加わるわけなので、コミュニケーションはさらに難しくなる。

 金融庁としては、G20以降、新しい金融エコシステム全体のガバナンスのありかたについて、立場の異なるステークホルダーが一同に介して話し合う機会を作ってきており、今後もそうした話し合いの中で新たなルールを見出したいとの考えだ。

株式会社三菱総合研究所社会ICTソリューション本部主任研究員の河田雄次氏
株式会社三菱総合研究所社会ICTソリューション本部主任研究員の河田雄次氏

 続いてブロックチェーンを利用したさまざまなユースケースに詳しい三菱総研の河田氏が、取り上げた話題は、異なるネットワーク上の暗号資産を仲介者なしに取引する「アトミック・クロスチェーン・スワップ」についてだ。この仕組が実装されれば国境を越えた取引も容易に行える。また個人の間においても暗号資産を取引する際に、取引所などの第三者の仲介なしに安全な取引をすることもできうる。

 こうした技術が進展すれば、理論的には利用者サイドの実用面において秘匿性の高い取引が可能となり利便性が高まるが、一方でこうした進化がどこまでも進むかといえば、そこには社会的な課題や技術的な壁があることもまた事実だ。技術面ではブロックチェーンの初期から課題である、より多くのトランザクションに対応するためのスケーリング問題(取引量と取引速度)などがあることが指摘された。

株式会社デジタルガレージDG Lab CTO (Blockchain)渡邉太郎
株式会社デジタルガレージDG Lab CTO (Blockchain)渡邉太郎

 それを受ける形で、デジタルガレージの渡邉がブロックチェーン、特にビットコインのここ数年間の技術的な進展と課題の解説を行った。2017年のビットコイン分裂騒動の元になったスケーリングの問題は、その騒動故にビットコインが広く世に知られるきっかけとなった。そこで示された解決方法は2つあり、ひとつはブロックサイズを大きくすることで解決を図ろうとするもの。しかしこの方法ではブロックチェーンの特徴である非中央集権的な特色が弱められ、同時にセキュリティ毀損の可能性が高まるという。ボランタリーに活動するブロックチェーンの中心的な開発者グループである“慎重派(Bitcoin Core Developer)”は、この方法に反対し、ブロックチェーンとは別の別階層でトランザクション処理を行う方法(Off-Chainトランザクションと呼ばれる)を考案してきた。このようにエンジニアは新たな技術を案出し、ビットコインの弱点を補いセキュリティレベルを棄損することなく決済手段としてクレジットカード並みの取引量と速度を実現することを目指している。さらに最新の技術動向として”Taproot”という新しいコンセプトを紹介した。これはMAST(※1)を起点にしたアイデアやSchnorr署名(※2)などを用い、ビットコイントランザクション内のスクリプトサイズを大きく削減させ、且つスクリプト内容を秘匿化できるといったアイデアだ。

 3人の話から浮かび上がってきたのは、ブロックチェーンの技術はエンジニアサイドでは休みなく進化しており、「ライトニングネットワーク」や「アトミック・クロスチェーン・スワップ」などでも見られるようにその適用範囲は拡大し続けている。個人にとっては利便性が高く、匿名性、秘匿性のある取引ができる環境が広がりつつあるのだが、規制当局はいまのところそれを規制する手段を持ち合わせておらず、マネー・ローンダリングなどの危惧も高まり困惑の体だ。当局はエンジニア、ビジネスサイドとのコミュニケーションを求めており、さしずめこのパネルディスカッションもその一端を担うものなのだろう。

 最後に慶應義塾大学の主催のこのパネルディスカッションの会場には、多くの大学関係者がいたが、ブロックチェーンがこれから進展するにあたって、アカデミアに期待することはなにかという問いがファシリテーターの大熊から発せられた。それに対して、アカデミアには、技術的な面や社会制度の面から中立的な議論の整理者になってほしいということが、表現は異なれど3名の登壇者が期待することところであった。

※1:ビットコインスクリプト内の複数の条件をハッシュ化し、さらにそれぞれのハッシュ値同士を連結させてまた新しいハッシュを作り、最終的に1つのハッシュ値にまとめてしまう技術。手数料の削減、ブロック容量の節約、スクリプトの秘匿化などを実現するアイデア。

※2:ビットコインのトランザクション署名は現在”ECDSA”という方式。これに対し、Schnorr署名は”線形性”という特徴からECDSAよりもデータサイズを小さくすることができ、安全性を担保しつつ処理速度が向上、且つ理論的にシンプルで扱いやすい署名となっている。現在のビットコインでは当たり前になったn-of-nのMultisigの検証が格段に早く、楽になるという今最も導入が期待されている新技術の1つ。

北元均 Written by
朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。