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宅配に「空飛ぶトラック」が必要な理由は〜5年後の運行を目指すヤマトHD

「空飛ぶトラック」について講演するヤマトホールディングス株式会社 社長室eVTOLプロジェクトチーフR&Dスペシャリスト伊藤佑氏

「空飛ぶトラック」について講演するヤマトホールディングス株式会社 社長室eVTOLプロジェクトチーフR&Dスペシャリスト伊藤佑氏

 2016年、ウーバー(Uber : アメリカ)が、人を搭載する大型ドローンで配車サービスを行う空飛ぶタクシーの構想(Uber Elevate)を発表したのをきっかけに、「空飛ぶクルマ(eVTOL)」の開発競争が起こった。ボーイング(Boeing : アメリカ)やボロコプター(Volocopter : ドイツ)、イーハン(Ehang : 中国)など、各国の企業やスタートアップが開発を始め、飛行距離や時間は短いものの、すでに自律飛行による実証実験も行われている。

 空飛ぶクルマの明確な定義は実はまだない。主に「電動」(ガソリンとのハイブリッド型も含む)で「自動運転」、かつ「垂直離着陸」できるモビリティがイメージされている。ヘリコプターと比較すると、機構がシンプルになる分、製造コストが下がり、操縦士が不要で運行費用が下がるなどの強みがある。また滑走路など大型設備が不要なため、都市内での高速移動や災害時の迅速な救援物資輸送などに活用できると期待されている。

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 2019年12月18日から21日に東京ビッグサイトで開催された「2019国際ロボット展」では、「空飛ぶクルマの実用化に向けた最新の開発動向と取り組み」と題されたセミナーが行われた。

 その中で、用途や開発の方向性を具体的に提示し、来場者の興味を惹いたのが、宅配便大手のヤマトホールディングス株式会社 社長室eVTOLプロジェクトチーフR&Dスペシャリスト・伊藤佑氏による「ヤマトの『空飛ぶトラック』がもたらす未来とその開発」と題された講演だ。

宅急便に続くラディカルイノベーションを

 伊藤氏はまずヤマトグループ(以下「ヤマト」)が空飛ぶトラックを開発する背景を解説した。

米国ベルが開発したeVTOL機「APT 70」(ヤマトHDリリースより)
米国ベルが開発したeVTOL機「APT 70」(ヤマトHDリリースより)

 1919年、ヤマトは大和運輸株式会社として創業。その際には、日本にはまだ202台しかなかったトラックで物流事業を開始している。さらに1929年には日本初の路線事業となる定期便を開始。1976年には今の事業につながる宅急便を誕生させた。いわゆる「ラディカルイノベーション(従来の価値観を覆すほどの革新)をこれまで複数回起こした会社」であると伊藤氏は胸を張る。しかし、宅急便誕生を最後に40年以上大きな変革は起こっていない。そこで目を付けたのが、空飛ぶクルマを「空飛ぶトラック」として物流に活用することだ。

 自動運転の空飛ぶトラックを使えば、パイロットが不要となり、労務管理上のコストも増えない。また空輸であるため、地形や道路の形に左右されず、地上を走るトラックを利用したサービスよりも早く荷物を届けることができる。こうした「追加コストを抑えながら、リードタイム(注文から配達完了までの時間)を短縮できる」ところに新たな変革の可能性を感じ、空飛ぶトラックの開発に踏み切ったという。

 想定する物流の流れについて伊藤氏は、「一般的な航空機(旅客機)は都市と都市など大きな地域同士を結ぶことに使われますが、空飛ぶトラックで実現しようとしているのは、既存の航空機で結ばれていない都市や地域の内部を結び、物流の流れを高速化、多頻度化すること」だと説明。

 具体的には、物流の拠点とする大きな物流倉庫を中心に、半径20キロから40キロ程度の圏内で、常時多数の空飛ぶトラックを飛ばし、荷物を運ぶ。空飛ぶトラックは、顧客の家の前に直接着陸させるのではなく、家の近くのビルの屋上(ランディングポイント)などに着陸させ、顧客に渡すところは今まで通り、配達員が人手で行うことをイメージしているという。

物流向けは物流屋が開発すべき

 ヤマトではどのように空飛ぶトラックを開発しているのか。伊藤氏は、開発方針として「物流向けは物流屋が開発すべき」という考え方を挙げ、「物流に特化した機体を開発しないと、目指すところには行き着かない」と説明。

 例えば、かつて宅急便用のトラックを作った際に、スライド式のドアにすることで車体をギリギリまで左端に寄せられるよう設計するなど、ドライバーの要求を聞きながら開発したが、「これと同じようなことを空飛ぶトラックでもやろうと考えている」と述べた。

「PUPA70XG」貨物eVTOL機に結合して荷物を空輸することのできる貨物ユニット(ヤマトHDリリースより)
「PUPA70XG」貨物eVTOL機に結合して荷物を空輸することのできる貨物ユニット(ヤマトHDリリースより)

 ヤマトでは現在、ヘリコプター製造会社ベル(Bell : アメリカ)と共同で空飛ぶトラックを作っているが、空を飛ぶ自動操縦無人航空機(「APT70」)をベルが、荷物を運ぶためのポッド(「PUPA」=Pod Unit for Parcel Air-transportation)部分をヤマトが分担し開発している。つまり飛行機が安全に空を飛ぶための耐空性についてはヘリコプター製造に長けたBellが担い、荷物の積み下ろしなど地上での操作性の部分を物流のプロ・ヤマトが担うことで、空中でも地上でも高い性能を発揮する機体を開発する目論見だ。

 開発しているポッドは、地上では30秒ほどで航空機から取り外すことができる。取り外すと同時に車輪が出てくる仕組みになっており、作業員が取っ手を付けることで、すぐに台車として移動できる。またポッドをまるごと着脱できることで、例えば、航空機からポッドを外す際に、荷物を積んだ別のポッドを用意し交換することで、素早い運用が可能になるという。

「本当は空を飛ぶ部分だけを考えて、余計なシステムは全部地上においていければよいのですが、行った先で、例えばエレベーターが無いとか、フォークリフトが無いといった事態か起こってくると100%の運用ができません。そこであえて重量が増加することも加味しながら、こうしたものを作っています」(伊藤氏)。

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 ヤマトでは空飛ぶトラックを使った有償サービスの2025年開始を目指し、機体の開発および商品設計を進めている。しかし実際にサービスを開始するには、長時間飛行に耐えうるバッテリーの開発や耐空証明や型式証明などの認証制度の整備、上空を多数の大型ドローンが飛ぶことに対する社会の受容性向上を待たねばならないなど、課題は多い。

 Amazonや楽天、日本郵便などが開発するドローン配送と比べ、どのように優位性を示していくのか。物流に関わる企業間の競争も気にかかるところだ。空飛ぶトラックの今後の開発動向を注視したい。

庄司健一 Written by
有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。