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ワイヤレス給電でロケット燃料をゼロに 計測実験成功で研究が一歩前に

筑波大学システム情報系助教の嶋村耕平氏

筑波大学システム情報系助教の嶋村耕平氏

 近年、民間企業による宇宙ビジネスが活発化する中で、大きな課題となっているのが打ち上げロケットの低コスト化だ。

 人工衛星を宇宙空間に運ぶのにかかるコストは高価で「衛星の1グラムは金(ゴールド)1グラム」と言われている。最近では衛星も軽量化し、重量100kg以下の小型人工衛星も増えているが、そうしたものでも金を100kg購入する以上の大きなコストがかかるという。

 ロケット打ち上げのコストを押し上げている要因のひとつが、燃料効率の悪さだ。現在、ロケットエンジンは液体や固体の燃料を使っているが、全体質量における燃料の割合は90%以上となっており、「燃料を飛ばすためにロケットを飛ばす」と言われるほど非効率なものとなっている。

 この燃料をゼロにし、ロケットの打ち上げコストを約100分の1にまで下げることができるのでは、との期待を集めているのが「マイクロ波ロケット」だ。マイクロ波ロケットでは、地上からのマイクロ波(※)をワイヤレスで給電し、ロケット内部でのプラズマ生成あるいは燃料を加熱することで推進力を生成する。

※電子レンジなどにも使われる短い波長域の電波

マイクロ波ロケットについて説明する嶋村氏
マイクロ波ロケットについて説明する嶋村氏

 しかし、これにはまだまだ多くの技術的な課題がある。そのひとつは、これまで大電力のマイクロ波を瞬時に測定する方法がなく、地上からロケットにどれだけの電力を送れているかの計測ができないという課題だ。

 こうした中、筑波大学情報システム系助教の嶋村耕平氏と、同プラズマ研究センターの假屋強准教授らの研究グループが、周波数28GHz(ギガヘルツ)のマイクロ波によるロケット推力生成実験を行い、ワイヤレス給電効率を含めた総合推進効率の測定に成功した。嶋村氏に、実験内容や背景、この研究が今後の社会やビジネスにどのような影響を与える可能性があるのか聞いた。

* * *

 嶋村氏によると、マイクロ波ロケットのコンセプト自体は決して新しいものではなく、40年近く前に考案されていたという。技術的な問題があり長らく実験は滞っていたが、近年、「ジャイロトロン」と呼ばれる大電力のマイクロ波発生装置の開発が進んだことで、この試みに再び光が当たった。そして2000年代に入って、東京大学大学院の小紫公也教授らによる打ち上げ実験が成功したことで、日本はこの分野の研究で一躍トップランナーに躍り出た。

 しかしこれまでのマイクロ波ロケットの研究は、「いかにマイクロ波をロケットの推力に変換するかにフォーカスしたもの」がほとんどだったという。そうした中、マイクロ波によるワイヤレス給電全般を研究対象とし、マイクロ波でドローンを飛ばす実験をしていた嶋村氏は、ドローンへの送電効率が極めて低いことに着目。ロケットの打ち上げにおいても、ワイヤレス給電の効率の悪さが課題になると考えた。そこでまずは給電効率を正しく計測する仕組みづくりに着手したという。

 「ロケットの推進効率はかけ算ですから、いくらマイクロ波を推力に変換できる技術が上がっても、地上からマイクロ波をロケットに送る効率が低いままだと、推進効率は向上しません。マイクロ波ロケットの実用化にはここがボトルネックになるという問題意識があり、今回の実験に至りました」(嶋村氏)。

マイクロ波ロケット推力測定実験の様子(上)と、推力測定実験模式図と測定結果(下)
マイクロ波ロケット推力測定実験の様子(上)と、推力測定実験模式図と測定結果(下)

 実験では、筑波大学のプラズマ研究センターが所有する500kW級ジャイロトロンを使い、直径200mm・長さ600mmほどの円柱型の推進機に向けて、マイクロ波を照射。嶋村氏らが独自開発したレクテナ回路(※)を使って推進機内のマイクロ波を計測したところ、「コンセント(電源)からロケットまでの送受電効率」は約6%だったという。

※アンテナ(Antenna)と、交流の電波を直流に変える整流回路(Rectifier)が一体化した受信回路

「今はまだスタート地点です。まずは送受電効率をロケットやアンテナ形状を工夫して上げていく必要があります。そのほかロケットの姿勢を制御する技術など、マイクロ波ロケットの実用化までには、一般のロケットと同じように研究開発が必要な技術要素がたくさんあります」。

ドローンなら「すぐにでも実現」

 マイクロ波によるワイヤレス給電の研究は、今後社会にどのような影響を与える可能性があるのだろうか。

 嶋村氏によれば、マイクロ波でロケットを打ち上げ、ビジネスや宇宙開発環境をドラスティックにゲームチェンジするようなことは、「我々が生きているうちにあるかないか」の実現可能性だとし、「マイクロ波でロケットを宇宙に打ち上げることは相当先の目標だ」とのこと。

 その一方で、「ドローンや小型航空機、空飛ぶクルマなどをワイヤレス給電することはそれほど難しいことではない」とし、とくにドローンへのワイヤレス給電は資金や開発環境が整えば「すぐにでも実現できる」と自信をのぞかせた。

 一般的なリチウムイオンバッテリーを使ってドローンを飛ばせる時間は、数十分ほどが限界となっているが、マイクロ波によるワイヤレス給電が可能となり、ドローンを何時間でも飛ばせるようになれば、その用途は一気に広がるだろう。

「飛行機やロケットなど一般に最も燃料が必要になるのは着陸と離陸のときです。この一番燃料を使うところで、マイクロ波によるワイヤレス給電を使い、飛んでいるときはバッテリーを使う。つまりバッテリーとワイヤレス給電のハイブリッドにするわけですね。現状のドローンでいえば、バッテリーの容量を大幅に減らせるというだけでも十分燃費は良くなりドローンの利用価値は大幅に上がると思います」。

 ただしマイクロ波によるワイヤレス給電を実用化するためには、法律の整備や生態系への影響の克服などいくつか課題もある。とくに大きな問題となるのが通信網との共存だという。大電力のマイクロ波をあちこちで発すると他の通信網と混線しかねない。このため、「人の少ない山間部にワイヤレス給電の装置を置く」といった共存のあり方も今後は探っていく必要があるという。

 ちなみに今回の計測実験では、5Gと同じ28GHzの周波数を用いたが、これは共同研究者の假屋准教授が核融合発電の研究で使っている装置を流用したところ、偶然5Gと同じ28GHzを使っていたというだけで、マイクロ波によるワイヤレス給電がこの周波数でないと実現しないわけではない。他の周波数帯でも実現できるという点からも、他の通信網との共存は決して不可能なことではないだろう。

「我々としては課題を克服しつつ、できるところから徐々に実用化をしていきたいと思っています。最初はドローン、次は小型航空機、空飛ぶクルマと、少しずつ距離とパワーを上げていきながらロケットの打ち上げに近づけていく。その中で、社会に還元するような技術の開発につなげていければと考えています」。

 現在、嶋村氏らの研究室には、企業から共同開発の依頼や相談が頻繁に寄せられているという。

庄司健一 Written by
有限会社ガーデンシティ・プランニングにてライティングとディレクションを担当。ICT関連や街づくり関連をテーマにしたコンテンツ制作を中心に活動する。