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「ごくり」飲み込む動作をAIで“見える化”~「つくば発スタートアップ」PLIMES株式会社の取り組み

 日本人の死因として注目されているもののひとつが「誤嚥性(ごえんせい)肺炎」だ。高齢になると「嚥下(えんげ)機能」つまり、食べ物を飲み込む力が衰えてくる。この衰えは、医師が外見からの診断することは難しく、本人も気づかない事が多いが、嚥下の異常を知ることは誤嚥性肺炎の予防につながる。そこで、筑波大学の人工知能研究室などが、嚥下時の“ごくり”という音の波形をAI(人工知能)で解析することにより、嚥下に異常がないかを知ることができるウェラブル機器「GOKURI(ゴクリ)」を開発した。

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GOKURI嚥下センサ・アンプとAndroid用アプリ(PLIMES HPより)
GOKURI嚥下センサ・アンプとAndroid用アプリ(PLIMES HPより)

 飲み込む動作は言葉にすると“ごくり”の一言で簡単に表現されるわけだが、人間の嚥下機能というのは、たいへん複雑なメカニズムで、ノド周辺のたくさんの筋肉によって支えられている。特にノドのふたである「喉頭蓋(こうとうがい)」は気管の入口を閉じることで食べ物が気管に入ることを防いでいるが、こうした機能は加齢により筋肉が衰えてくると低下する。そうなると、正常な嚥下ができなくなり、食物や唾液などが気管から肺に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」が起き、同時に口の中の雑菌が肺に入って誤嚥性肺炎を引き起こす。肺炎は平成28年の統計によると、ガン、心筋梗塞に次いで日本人の死因の第3位を占めており、この誤嚥が原因の肺炎も無視できない問題となっている。

 嚥下に関わる器官の動きは外から見えないため、正常な嚥下が行われているかどうかは、経験のある医師でも診断が難しい。また、高齢者自身も嚥下機能の低下に気がつかないないことが多い。そこで、筑波大学人工知能研究室では、嚥下時の“ごくり”という音の波形解析により嚥下の状況を知ることができないかと同大学附属病院などと共同研究を進めてきた。さらにその取組を一歩進めて、2018年4月には筑波大発ベンチャーとしてPLIMES株式会社(プライムス・茨城県つくば市)を設立、嚥下機能を測定しAIで判定するウェラブル機器「GOKURI(ゴクリ)」の製品化を果たした。

 今回はPLIMESのCCO仁田坂淳史(にたさか・あつし)氏にGOKURIの実機を見せてもらいながら、話を聞いた。

GOKURIを装着した状態でコーヒーを飲むと、嚥下を感知してセンサとアプリが緑色に発光する
GOKURIを装着した状態でコーヒーを飲むと、嚥下を感知してセンサとアプリが緑色に発光する

 GOKURIは首周り(頸部)に装着し、水や唾液、食事などの嚥下が正常かどうかを音で判断し、光で周囲にその結果を知らせる。緑色に光ると正常な嚥下、赤色が光ると何らかの問題があることを示し、診断や治療に役立つように嚥下の状態を「見える化」した。センサーの収集した嚥下音などのバイタルデータは、スマートフォンを介してクラウド上のデータベースに保存される。これまでGOKURIは特定施設入居者生活介護事業所特定施設「ケアハウスゼーレ」などで実際に入居者に装着してもらい、その効果を実証してきた。

「いま、自分で体温計や血圧計で体温や血圧を測定するのはふつうのことですよね? 私たちの目標は、日常的に嚥下状態を測定できる『嚥下計』のようなデバイスとして定着させることです」と仁田坂氏。PLIMESでは、GOKURIを当たり前に使える医療機器のひとつとすることを目指している。

 GOKURIを生み出した嚥下のAI解析については、筑波大学で10年以上も研究開発が進められていた。仁田坂氏(筑波大学卒)が参加した5年前に、この研究がJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)のスタートアップ事業(JST START)に採択され、助成金を受けたことが法人化への大きな弾みとなった。また、創業後にはNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援事業に採択されたり、「つくば発スタートアップ」として、地元つくば市・茨城県からも支援を受けたりすることができた。このように起業支援の仕組みを上手く活用できたことが、GOKURIの事業化につながっている。

 ちなみに大学発の起業数でいえば、筑波大学は東京大学、京都大学に次ぐ実績がある。大学や地域の制度的なサポートもあるが、つくばという地域は、優秀な人を集めやすく、研究する環境にも恵まれていると仁田坂氏は話す。大学関係者の家族などアルバイトに応募してくる人材も高学歴でリテラシーも高く研究に理解のある方が多くて驚くそうだ。

 さらに「地方は(スタートアップの)競合が少なくて注目されやすいという話を聞きます。自分たちはそのつくばバージョンなのかな(笑)」と謙遜する仁田坂氏だが、筑波大には、まだまだいろんな事業シーズがあるという。

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 ところで嚥下機能の低下は死に至る危険ばかりではなく、食事の楽しみを奪い日常生活のレベルを著しく低下させる。今回の取材の中で仁田坂氏は、「嚥下機能が低下した人に提供する嚥下食というものがあります」とその資料を見せてくれた。うまく飲み込めない人のために、やわらかくしたり、とろみをつけたりしたものだが、その見た目は食欲をそそるものではない。それらを知ると、やはりふつうの食事を、正しく飲み込める状態にあることが望ましいとわかる。

 ふだん何げなく飲食するときに出る“ごくり”という音。それを注意深く聞いている人はいないだろう。しかし、その音が正常であり嚥下機能に問題ないことは、とても恵まれたことなのだと理解できた。「つくば発スタートアップ」PLIMESの挑戦を、今後も息を吞みつつ見守りたい。

藤木俊明 Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。