Open Innovation Platform
FOLLOW US

群馬の大学・地元企業が生んだ「銅繊維シート」マスクでコロナ拡大防止

板橋教授(中左)と銅繊維シート開発チーム(提供:群馬大学)

板橋教授(中左)と銅繊維シート開発チーム(提供:群馬大学)

 5月19日、群馬大学発のベンチャー企業である株式会社グッドアイ(群馬県桐生市)が開発した抗菌・抗ウイルス効果がある銅繊維シートを使った「GUD(グッド)シート」(商品名)などが、6月1日から朝倉染布株式会社(群馬県桐生市)より販売されることが発表された。

銅繊維シートで作られたマスクカバーサンプル(提供:群馬大学)
銅繊維シートで作られたマスクカバーサンプル(提供:群馬大学)

 銅繊維シートとは、銅箔でコーティングしたポリマー繊維に可視光応答型の光触媒を付着したもので、群馬大が出願した特許技術をもとにグッドアイと株式会社明清産業(群馬県前橋市)が開発した。

この光触媒を付着させた銅繊維シートがなぜ今、注目されるのか?

 2020年3月、米国立衛生学研究所(NIH)らの研究チームの発表によると、新型コロナウイルスはプラスチックやステンレスの表面では48~72時間生存するが、銅の表面では4時間と極端に生存時間が短いことがわかった。さらに群馬大の実験では、この光触媒を塗布した銅繊維シートは、銅単独の場合より1000倍もの殺菌効果があることが確認された。これをマスクやドアノブ、スイッチなどのカバーに活用すれば、感染リスクを低減させることが期待できるという。

 この銅繊維シート開発を主導した、群馬大学大学院理工学府の板橋英之教授(グッドアイの会長を兼務)に開発の経緯を聞いた。

光触媒の活用研究から銅繊維シートへ

 板橋教授は、自然にあるものを使い環境中の有害物質を除去する研究を続けてきた。15年ほど前、水質浄化に光触媒を利用することを検討した。光触媒そのものは微粒子で非常に小さいので、水質浄化に利用するためには光触媒を何かに固定する必要があった。光触媒を固定化するものとして、普通の布生地などでは光触媒の酸化作用で布生地がボロボロになってしまう。「そこで、光触媒に侵されない無機物、たとえばセラミックス、金属に光触媒を付着させました。それを水の中に入れるわけです。そこに光が当たると強い酸化作用を持った活性酸素が出て有機物を壊します。菌やウイルスも有機物だから分解できるわけですね」(板橋教授)

銅繊維と光触媒の効果を語る板橋教授
銅繊維と光触媒の効果を語る板橋教授

 銅にはそもそも殺菌効果がある。2年前、桐生市内での会合で、板橋教授は「銅の糸でカーテンを織ることができる」という人と知り合う。この時に銅の糸で作ったシート状のものに、光触媒を付着させれば、いいものができるのではないかと思いついたという。

 その後の研究を重ね、銅箔でコーティングしたポリマー繊維に可視光応答型の光触媒が塗布された“銅の糸”で銅繊維シートを作り上げた。その殺菌力は、大腸菌を使って実験を行ってみたところ、銅単独の場合、30分間で大腸菌が10分の1程度に減少したが、このシートを用いると大腸菌は1万分の1に減少した。単純計算で、銅単独の場合より1000倍の殺菌力が出たことになる。それがわかったのが1年ほど前のことだ。

「この銅繊維の技術を何かに役立てられないかと考えていたところ、今回の新型コロナウイルスの騒ぎが起きたわけです。3月17日、米国立衛生学研究所らの研究チームによる発表を知り、これは感染症拡大防止にお役に立てるのではないかと思ったのです」

地元企業の力を結集

 このシートを使った感染症対策として、すぐに思い浮かぶのはマスクだ。はじめに銅の糸を「編んで」マスクを作ってみたが、これはいささか目が粗すぎた。そこで次は銅の糸を「織って」生地(シート)にし、そのシートでマスクを作ることにした、そこで頼ったのが桐生市伝統の職人技だ。桐生は織物の街である。紹介された機織りの工場で、銅の糸を使って織ってもらうことになった。板橋教授が工場を見学すると、80歳を超える工場長が1本1本、銅の糸のテンションを確かめながら織り上げていたという。

銅繊維シートで作られたドアノブカバーサンプル(提供:群馬大学)
銅繊維シートで作られたドアノブカバーサンプル(提供:群馬大学)

 こうしてできた銅繊維シートでマスクを試作したところ、確かに織目はある程度細かくなったものの、ウイルス侵入を止めるほどではない。そこで板橋教授が着目したのは、ウイルスが付着したマスク表面をうっかり指先で触れてしまうと、それによって感染が広がるという点だ。この銅繊維マスクを通常のマスクに重ねれば、指先で触れるのは外側の銅繊維シートのマスクとなり感染リスクはかなり減少する。また、不特定多数の人が触れるドアノブやエレベーターのボタンなどに銅繊維シートのカバーなどをしておけば、ウイルスの残存防止が期待できる。

 4月上旬にこの銅繊維シートの効果などについてのリリースを行った後、商品製造や販売を行うパートナーを探してきたが、この度、同県桐生市の染布会社、朝倉染布株式会社の協力でマスク(オーバーマスクとして使用)や大小サイズの生地などが、一般に向けて販売できるようになった。

※先行ネット予約は生地は5月22日午前10時から、マスクなどは5月26日午前10時から。詳しくはこちら(株式会社グッドアイのリリース)

 大学発ベンチャーの優れた研究技術はよく耳にする。しかし、この銅繊維シートのように優れた研究が、地元の伝統産業の企業、職人技術と融合して商品化される例は多くない。忌むべきコロナ禍ではあるが、群馬大学の先進的な研究と桐生の職人技が見事に共創した製品を生み出すきっかけを作ったことは感慨深い。

藤木俊明 Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。