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【前編】2020年 日本におけるデジタルセラピューティクス飛躍の年になるか?〜そもそもDTxとは?

DTxイメージ 前編(Photo by Negative Space from StockSnap)

DTxイメージ 前編(Photo by Negative Space from StockSnap)

 デジタル機器やIoTを治療に取り入れるデジタルセラピューティクス(デジタル治療、以下DTx)。米国では2010年にWelldoc社の2型糖尿病患者向けの治療補助アプリが、DTxとしては初めて、米FDA(U.S. Food and Drug Administration アメリカ食品医薬局)の認可を受けた。以来、DTxは薬物依存の治療などにも広がりを見せている。FDAも行動計画を作成するなどして、国としての取り組みが進んでいる。

 一方、日本における「DTx元年」は、2019年だった。同年4月に日本で初めてのDTxに関するセミナーを実施し、10月にはDTxデバイスを開発するスタートアップや製薬企業など7社が日本デジタルセラピューティクス推進研究会を発足させた。同研究会は、「新たな治療の選択肢を提供し、医療の価値向上を目的とする」ことを掲げている。さらには、DTxとして初めて、ベンチャーのCureApp社(東京都中央区)が、ニコチン依存症治療用アプリで承認申請した(2019年5月)。通院の回数を減らすことにもつながるこのアプリは、コロナウイルスの流行を受けて外出を避ける人が増える中、注目を集めている。

「元年」を迎えたばかりの日本で即、成果を求めるのは無理があるだろうか?米国ではDTxの興隆からすでに約10年が経ち、英国やドイツなどでも政府がDTxを治療の選択肢の一つとして認めている。そして何よりも、治療の選択肢を広げ、またより良い結果につながる可能性があるのなら、患者にとって何よりの福音である。

しかしながら、日本ではDTxについては業界関係者を除き、まだまだ知られていないという現実もある。DTxの開発推進・普及については推進研究会の活動を見守るとして、本稿ではまずDTxとは何なのかについて詳しく述べる。後編では、DTxが普及しつつある諸外国の例について紹介する。

「デジタル」を通じた治療――睡眠アプリとの違いは?

 広義の「デジタルヘルス」は、「デジタル」×「健康」の組み合わせ全てが該当すると言える。DTx以外では、ごく身近なものでは例えば、睡眠アプリやジョギングなどの運動を記録するアプリも、同じカテゴリーに含まれる。

 しかし、DTxが関与するのは医療行為であり、医薬品医療機器法(薬機法)により、睡眠アプリなど日々の健康記録をつける性質のアプリとは厳密に区別されるものだ。DTxの役割は、人間の健康を守るために必要な専門的介入を行うことであり、医療そのものである。

 従って、DTxは医師など専門家の管理下でのみ、使用できる。例えば、米国では医師の処方のもとに、治療アプリへのアクセスコードが付与される仕組みになっている。

 医療行為であり、薬機法の規制対象となる場合には、DTx製品として、規制当局の許認可を受ける必要がある。医薬品の規制当局とは、日本の場合は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency、PMDA)、米国であればFDAといった、公正・厳格な仕組みのもとで医薬品等のリスク評価や審査を行う機関のことだ。DTxは、日米欧でも法律上、医療機器として扱われ、規制当局の許認可を受けたものだけが市場に流通することを許される。

 では実際に、DTxはどんな治療に用いられるのか。米国では、喘息などの呼吸器疾患や糖尿病患者にDTxが医師から処方されている。いずれも、アプリを通じて個々の患者の症状にカスタマイズされる。

 例えば、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者向けのDTxは、吸入器にセンサーを取り付けて、アプリと連動させる。アプリは患者の医療データを積み上げることで、それぞれの患者にカスタマイズした自己管理のアドバイスを適時に行う。医師の指示のもとで適切に使用することで、通院や吸入器の使用回数を減らすことにつながったとの成果も出ている。

 また、糖尿病患者は食生活でさまざまな制約を強いられるが、患者の状態に合わせてアプリが、臨床的エビデンスに基づいた認知行動療法を用い心理的サポートを行う。このほか、米国で社会問題となっている麻薬性鎮痛薬オピオイド中毒治療に用いられるDTxもある。

■米国でDTxの活用が進む理由

 こうしたDTxの例に共通しているのは、治療プロセスのうち患者の自己管理にゆだねられている部分において、DTxが医療者に代わり伴走者の役割を担っていることだ。

 アプリが治療プロセスにおいて有効である例としては、米・サンディエゴで2018年に開かれた臨床腫瘍緩和ケアシンポジウムで発表された研究(英文原著はこちら)が参考になる。

 この研究ではがん患者の疼痛管理を行うAIアプリを使用して患者が経験するさまざまな痛みを記録し、痛みに緊急性があるかどうかを判断したところ、アプリを使用した人が痛みで入院するリスクは、アプリを使用していない人より70%低かった。

 がん治療に限らず、治療において日常的に直面するあらゆる問題について、その都度専門家に相談できるとは限らない。そのような時に、相談する相手がたとえ「人間」でなくても、患者の心理的負担は多少なりとも軽減できる。もちろん、金銭的負担も軽減するのは言うまでもない。

 また、DTxには上記のような疾病管理に関わるものでだけでなく、米・Akili Interactive社が開発したADHD治療アプリなど薬理作用を持つものもある。

 これらが普及すれば、国全体の医療費の節約にもつながる。FDAの姿勢も、医療費削減を見据えてのことにほかならない。

DTAのメーガン・コーダー氏(2019年4月撮影)

「デジタルヘルス領域におけるFDAは、積極的にリーダーシップを発揮している」と話すのは、米国でDTxの理解促進を図る非営利団体のDigital Therapeutics Alliance(DTA)のExecutive Directorであるメーガン・コーダー(Megan Coder)氏だ。

 同氏は「国際的な議論のもとで医療用デジタル機器についての考え方が話し合われ、その枠組が形成されてきました。FDAがこの枠組を米国にも適用したことによって、広範なデジタルヘルスの領域からDTx市場に参入する道筋が明らかになったのです。」と称賛する。

 FDAによる行動計画「Reimagining the FDA’s Approach: Digital Health Innovation Action Plan」には、DTxを含むデジタルヘルス領域に対する姿勢が示されている。

 それによると、デジタルヘルス技術の発展は、「消費者が、自分の健康について、より良い情報に基づいて決断したり、命に関わる疾病の早期治療や予防を促したり、慢性疾患の治療を管理したりすることで、より自身の健康をコントロールできる」としている。

 さらに、同国で社会問題となっているオピオイド中毒など、「公衆衛生上の危機において、治療や緊急時の対応について必要な情報を知らせることができる」ともしている。一方、個人情報を扱う上で必須であるサイバーセキュリティの確保などの課題があることから、行動計画には安全な製品を市場に出すための施策も示されている。

 FDAのDTxに対する姿勢が示唆するところは、個人の医療費負担が大きな米国だけでの問題ではないだろう。医療費の削減を、患者自身のコミットメントを促進しながらも増やし過ぎることなく、つまり患者の生活の質(QOL)を維持しながら実現させるカギが、DTxにあるのではないだろうか。

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