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家庭用カセットボンベが燃料 世界初のハイブリッド・ドローンの実証成功

市販のカセットボンベを2本搭載(画像は産総研提供)

市販のカセットボンベを2本搭載(画像は産総研提供)

 株式会社プロドローン(愛知県名古屋市)、株式会社アツミテック(静岡県浜松市)、産業技術総合研究所(NEDO 以下、産総研)は、液化石油ガス(LPG)のカセットガスボンベを利用した固体酸化物形燃料電池(SOFC= Solid Oxide Fuel Cell)搭載のドローンを開発し、世界初の飛行実証を行ったことを公表した。

飛行試験中のSOFCドローン(産総研HPより)
飛行試験中のSOFCドローン(産総研HPより)

 固体酸化物形燃料電池(SOFC)とは、ジルコニア(ZrO2)やセリア(CeO2)などの固体酸化物(セラミックス)を電解質に用いた燃料電池のこと。650~800 ℃の高温で作動し、各種燃料電池の中で最も発電効率が高い。燃料電池が発電する原理は「水の電気分解の逆」で、燃料となるLPGなどから水素を取り出し、酸素と化学反応を起こし電気を作り出す。身近なところでは家庭用の燃料電池システム「エネファーム」などでも同様の仕組みが利用されている。

 今回の飛行実証では、ドローンに通常のリチウムイオンポリマ−(LiPo)二次電池に加え、市販のカセットボンベ2本を燃料とした固体酸化物形燃料電池(LPG駆動SOFCシステム)も搭載しハイブリット化した。飛行中にSOFCシステムで発電した電力は、通常飛行時にはLiPo二次電池を充電することに使う。強風時の姿勢維持やホバリングなど電力負荷が大きくなる際にはドローンに直接給電することで、30kg以上のペイロード(最大積載量)の機体を1時間程度飛行させることが可能となる見通しを得た。

従来のドローンとSOFCドローンの電力供給の模式図(産総研HPより)
従来のドローンとSOFCドローンの電力供給の模式図(産総研HPより)

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 その用途が広がり、より長く飛び、より重いものを運ぶことへの期待が大きくなるにつれ、ドローン電源の大容量化は解決を急ぐ課題となってきた。現在主流のLiPo二次電池は、単位重量あたりのエネルギー密度が小さいため、連続飛行時間は最大で30分程度にとどまる。電池を多く積めば飛行時間が伸びそうなものだが、多く積めば積むほど総重量も増えてしまう。電気自動車(EV)などでもこの問題は共通で、電池そのものの小型化、高性能化が課題となっており、これを解決すべくさまざまな研究が進められている。

 その解決策のひとつが燃料電池の利用で、自動車では水素を利用した燃料電池車の研究開発が進んでおり一部で実用化されている。ドローンでも同様の検討がなされているが、水素を搭載して飛行するには、墜落や衝突に備え高い安全基準をクリアする必要がある。また水素供給のインフラが整っていないエリアでの実用は難しい。その点、今回の実証で飛行したドローンは市販のカセットガスの利用が可能となっており、現時点では水素を燃料とする燃料電池より汎用性がある。

LPG駆動SOFCシステムの外観(産総研HPより)
LPG駆動SOFCシステムの外観(産総研HPより)

 LPG駆動SOFCシステムをドローンに搭載するにあたって、従来のシステムを軽量化する必要があった。産総研とアツミテックは、部材の改良や新技術の採用で、両者が2017年に発表した「コンパクトハイパワー燃料電池システム」と比べて、出力あたりの重量を60%低減することに成功した。

 今回、新たに改良された固体酸化物形燃料電池(SOFC)では、ドローン飛行中の発電が可能であり、それによってより長時間の飛行ができることも実証された。このことで、災害時など電源確保が難しい場合でもドローンが活用できる見通しがついた。また、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の用途も小型・軽量化されたことによって、今後はドローン以外の移動体やロボットなどにも広がることが期待される。

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朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。