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充電回数ゼロを目指せ 世界最高水準の高効率「車載用太陽電池パネル」を製作

1kW超の太陽電池パネルを搭載した電気自動車「e-NV200」(車体全景 左前)

1kW超の太陽電池パネルを搭載した電気自動車「e-NV200」(車体全景 左前)

「次にクルマを買うならEV(電気自動車)を」そう考えた時に気になるのが、充電1回あたりの走行可能な距離。数年前までのように実質100キロ少々だと常に充電場所を気にしながら走ることになる。最近のモデルではガソリン車並みの航続距離のモデルもあるようだが、充電可能な場所や充電時間を考えると、EVオーナーになるのは躊躇がある。

空に太陽がある限り

1kW超の太陽電池パネルを搭載した電気自動車「e-NV200」(車体全景 リア)
1kW超の太陽電池パネルを搭載した電気自動車「e-NV200」(車体全景 リア)

 もし、クルマに取り付けた太陽光電池パネルによる電力供給だけで走り続ける事ができるEVがあれば。「晴れていれば」の条件付きながら、充電にまつわるあれこれを心配せずにクルマに乗ることができる。そして太陽光なら燃料費は無料だ。

 先ごろ国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とシャープ株式会社は、そんな夢をかなえてくれそうな電気自動車用太陽電池パネルを制作したことを公表した。

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 そもそも、車に載せた太陽光電池パネルだけで、EVが走行するのに十分な電力を得ることができるのか。

 話は少し遡るが、NEDOが、2016年4月に設置した産学の有識者からなる「太陽光発電システム搭載自動車検討委員会」では、太陽光発電システム搭載自動車に関する調査・検討を行ってきた。同委員会が2018年1月に公表した中間報告書によると「変換効率30%以上の太陽電池パネルを使用すれば、自動車のような限られた設置面積においても、1kWの発電電力を実現することが可能である」、「ユーザーの利用パターン次第では、年間の充電回数をゼロにすることが可能である」との試算結果が公表されていた。

 一般的なシリコン系太陽電池の変換効率は14〜20%程度となっており、理論上29%の変換効率が限界と言われている(出典NEDO)。つまり車載用の太陽電池には、新たな素材を用いた、より高い変換効率の太陽電池パネルが必要だということだ。

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こうしたことからNEDOでは「革新的で高性能な太陽電池の開発を推進する事業」を進めてきた。その一環としてシャープでは、インジウムやガリウムヒ素など、2種類以上の元素からなる化合物を材料とした光吸収層を3層重ねた「III-V化合物3接合型太陽電池」を開発。これをもってモジュールとしては世界最高変換効率となる31.17%を2016年2月には達成していた。

複数の太陽電池セルにより構成された太陽電池パネル (左からルーフ、フード、バックドア)
複数の太陽電池セルにより構成された太陽電池パネル (左からルーフ、フード、バックドア)

 今回は、このモジュールに用いたものと同等のセルを活用して、車載用の太陽電池パネルを製作した。このパネルは約0.03mmの薄いフィルム状であり、車体の曲面形状に沿って効率よく搭載できる。今回、実証用の日産自動車のEV「e-NV200」には天井やボンネットだけでなく、リアガラスの部分にもパネルが設置されており、これらで1kWを超える約1,150Wの定格発電電力が実現できる。見た目“全身太陽電池パネルだらけ”となってはいるものの、走行パターンや距離など上手く調整しつつ利用すれば、外部電源からの充電回数をゼロでEVが使えるという。ガソリン代も電気代もかからない。

 とはいうものの課題はある。優れた変換効率を持つIII-V化合物3接合型太陽電池は、人工衛星などには搭載されているが、その価格は非常に高価で、市販のEVに搭載するには高コストすぎる。

 今後、より一層のコストダウンが進み、市販車に搭載されることになれば、燃費を気にすることもなく、晴れた日のドライブがより楽しくなることだろう。

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朝日新聞社にてデジタルメディア全般を手掛ける。「kotobank.jp」の創設。「asahi.com(現朝日新聞デジタル)」編集長を経て、朝日新聞出版にて「dot.(現AERAdot.)」を立ち上げ、統括。現在は「DG Lab Haus」編集長。