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映像エッジAIを新型コロナ対策製品に活用 ~エッジマトリクス社がめざす「AIのアマゾン」

エッジマトリクス社代表取締役副社長 本橋信也氏(左)、同 執行役員 鈴木紀行氏(右)

エッジマトリクス社代表取締役副社長 本橋信也氏(左)、同 執行役員 鈴木紀行氏(右)

 2019年、米国Cloudian Holdings Inc.及び日本法人クラウディアン株式会社からAI事業をスピンアウトしたEDGEMATRIX株式会社(東京都渋谷区 : 以下エッジマトリクス社)は、今注目を集める「映像エッジAI」の開発からソリューション、ハードウエア製品の提供、そして設置工事まで手がける。中心的な製品が「EDGE AI Box」だ。

 ところで「映像エッジAI」とはどんなもので、なぜそれが今注目されるのか?

 自動運転や顔認識などが広がると、今後、街や建物のあちこちに膨大な数のカメラが設置されるようになっていく。しかし、そこで撮影された映像データをすべて通信回線経由で、クラウド上に送った上で集中的に処理するといろんな点で不都合が生じる。通信回線内のデータ伝送量が増えると回線を圧迫し、遅延が生じる。また、受け取るストレージの容量にも限界がある。

 映像エッジAIは、映像データを撮影した現場や現場近辺のAIで処理するものだ。AIで処理した軽いデータをクラウドに送れば良いので、通信回線やストレージの容量を圧迫することはない。これによって、高精細映像をリアルタイムにAIで分析し、ビジネスに活用するIVA(Intelligent Video Analytics)が実現できると期待される。

 今回エッジマトリクス社は、新型コロナウイルス感染症対策に生かすべく、映像エッジAIを使い非接触で体温を計測し、さらに顔認証によって発熱者を特定するタブレット端末(EDGE AI Tablet)を提供、この6月から商業施設や保育園などに導入をはじめた。

 同端末には通常のカメラと温度を感知するサーマルカメラ、高性能GPUを搭載し、ビルのフロアや施設等の出入り口で発熱者を検知及び特定し、即座にスマートフォンへアラームを通知する。複数端末を導入し、クラウドと連動することで発熱した入場者の追跡も可能にする。さらにカード認証や出入り口のフラッパーゲートとも連動できるので、企業内のセキュリティエリア管理にも活用可能だという。

※既に同製品を導入している東京都の「美奈見ここわ保育園」の動画はこちら

 エッジマトリクス社代表取締役副社長 本橋信也氏、執行役員 鈴木紀行氏に、EDGE AI Tablet導入の評価と同社の今後の事業展開について聞いた。

利用者からの評価は上々

 まず、保育園に導入したEDGE AI Tabletだが、写真のように小さなモデルで、電源とWi-Fiが飛んでいれば専用スタンドで置くこともできるし、壁掛けのように設置もできる。

EDGE AI Tabletを示す本橋氏
EDGE AI Tabletを示す本橋氏

 保育園管理者からは、「自動的に一人ひとりの計測結果を日々記録できるので、体調管理がスムーズになった」と高い評価を受けたという。多くの子どもが走り回る現場で、並ばせて検温するなどの負担が減ったとのことだ。さらに、登園に付き添う親やスタッフ全員の顔を登録すれば、非登録者を検知することができるので、不審者の早期発見につなげられるところも評価されたと本橋氏は述べる。

 エッジマトリクス社が取り扱うEDGE AI Boxは、テスラT-4のようなハイエンド対応のものから、低価格の普及モデルまでラインナップされている。今回の映像エッジAI端末は、社会貢献のため何ができるか考えて急遽用意した低価格普及モデルだ。

「これによってEDGE AI Boxがどういうものなのかを世間に認知してもらえれば」(鈴木氏)

アプリで手軽に映像エッジAIを利用

 エッジマトリクス社の今後の事業展開について伺うと、鈴木氏は「映像エッジAIのアマゾンのような存在をめざしたい」と話す。その具体的な動きのひとつが、5月からNTTドコモと組んでスタートした映像エッジAIプラットフォーム「EDGEMATRIX」サービスの展開だ。

「EDGEMATRIX」は、屋内外に設置する「EDGE AI Box」に対し、設置場所の管理や稼働状況の監視、遠隔操作などを可能にするプラットフォームだ。また、エッジAIデバイスで取得する映像データをリアルタイムに閲覧できるほか、AIによる映像解析で何らかの危険や異常を検知した際には、メールなどでアラート通知が可能だ。

 さらに「EDGEMATRIX」は、同プラットフォーム上で利用するAIアプリの購入ができる「EDGEMATRIXストア」を備えている。既に『顔と体温検知』『密接と密集検知』『赤ちゃんうつぶせ寝検知』『ナンバープレート検知』『侵入検知』を始め多数のAIアプリが提供開始されている。このストアから最適なAIアプリを購入することで、容易に映像エッジAIソリューションを導入できるようになる。

「EDGE AI Box」の説明を行う鈴木氏
「EDGE AI Box」の説明を行う鈴木氏

「新しいサービスのために、イチからAI開発を行うというと、すぐ数千万円のコストがかかります。本プラットフォームを利用すれば、最適なAIアプリを購入するだけでいいのです」(鈴木氏)

 ストアを見ると、まずプラットフォームの利用料が月数千円程度から。そして使いたいアプリを選んで、これも月額で支払うサブスクリプションモデルになっている。鈴木氏のいう「映像エッジAIのアマゾン」とはこういうところだろう。

 しかし、これらのアプリを実際に使う際には、エッジマトリクス社の映像エッジAIのハードウエアを現場へ設置し、回線と接続、調整するなどの作業が必要だ。

「当社はデバイスからブラウザまでエンドエンドに、かつワンストップで映像エッジAIを提供できます。100%子会社EDGEファシリティーズを通して現場への設置もすべて請け負える体制です」(本橋氏)

 今後、映像をエッジ処理するAIシステムは大きく広がることだろう。そのためのアプリ、ハードウエアそして設置工事に至るまでの市場を、エッジマトリクス社は一気通貫で収めようとしているように見える。

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ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。