新型コロナウイルスの感染拡大の影響は出版業界にも及んでいる。緊急事態宣言を受けて書店の休業や図書館の休館が相次ぎ、発売が延期となった出版物も多くある。一方、「コロコロ」や「週刊少年ジャンプ」などのコミック誌のバックナンバーなどの電子版が無料で開放されたり、東野圭吾などこれまで電子化に慎重だった作家の作品が電子書籍化されたりするなど、読者、作家ともにデジタルシフトが進んだことも事実だ。
* * *
株式会社インプレスのシンクタンク部門であるインプレス総合研究所が21日に発売する、2019年度の電子書籍市場の動向に関する調査レポート『電子書籍ビジネス調査報告書2020』の調査結果の一部が、同社のリリースの中で公表されている。
それによると、2019年度の電子書籍市場(※1)は、3473億円と推計されており、前年度(2018年度)から647億円(22.9%)の増加となっている。これは社会問題化していたマンガの海賊版サイト「漫画村」などが2018年4月に閉鎖されて以降、電子書籍の正規サイトの利用が進んだという要因も大きい。
一方で、電子雑誌市場(※2)に関しては277億円(対前年6.4%減)と推計されており、2年連続の減少となっているものの、電子書籍と電子雑誌を合わせた電子出版市場は3750億円となった。同調査レポートによれば、日本の電子出版市場は今後も拡大基調で、2024年度には2019年度の1.5倍の5669億円程度になると予測されている。
※1 電子書籍の市場規模の定義:電子書籍を「書籍に近似した著作権管理のされたデジタルコンテンツ」とし、配信された電子書籍(電子書籍、電子コミック等)の日本国内のユーザーにおける購入金額の合計を市場規模と定義。購入金額には、個々単位の販売に加え、月額課金モデル、月額定額制の読み放題、マンガアプリの課金を含む。ただし、電子雑誌、電子新聞や、教科書、企業向け情報提供、ゲーム性の高いもの、学術ジャーナルは含まない。また、ユーザーの電子書籍コンテンツのダウンロード時の通信料やデバイスにかかわる費用、オーサリングなど制作にかかわる費用、配信サイトにおける広告も含まない。
※2 電子雑誌の市場規模の定義:電子雑誌を、紙の雑誌を電子化したものやデジタルオリジナルの商業出版物で逐次刊行物として発行されるものとし、日本国内のユーザーにおける電子雑誌の購入金額の合計を市場規模と定義。購入金額には、個々単位の販売に加え、定期購読、月額課金モデル、月額定額制の読み放題を含む。ただし、学術ジャーナル、企業向け情報提供、ゲーム性の高いものは含まない。また、ユーザーの電子雑誌コンテンツのダウンロード時の通信料やデバイスにかかわる費用、オーサリングなど制作にかかわる費用、配信サイトにおける広告、コンテンツ中の広告も含まない。
「インプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2020』
* * *
出版科学研究所が公表している数字によると、2019年(1月〜12月)の紙の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売金額は、前年比4.3%減の1兆2,360億円で15年連続のマイナス。一方で上記のように電子出版は4,000億円も視野に入るところまできており、まだまだ伸びそうな余地がある。出版社を支える1本の柱として、もはや電子出版は欠かすことが出来ないビジネスだ。
だが、その売上の内訳をみると課題も見えてくる。電子書籍といっても、その売上の大半(2019年度は2989億円)はコミックの売上で、その比率は86.1%にもなる。コミックに関しては無料で読めるマンガアプリの普及も進んでいる。こうした無料サービスが読者との新たな接点を作ることで、コミックコンテンツは新たなエコシステムを作りつつあるといえる。だが、コミックコンテンツを持たない出版社はこの恩恵とは無縁で、苦しい状況が今後も続くことが予想される。
また、電子雑誌に関しても、NTTドコモが提供する読み放題サービス「dマガジン」の会員数が2018年あたりから減少気味と伝えられ、その影響からか、2018年度に続いて2019年度も電子雑誌の市場規模縮小は続いている。雑誌の読み放題サービスに関しては、ページ画像を表示するだけで、拡大縮小ができるもののデジタル化された電子雑誌ならではの付加価値はほとんど無く、NTTドコモの販売戦略上、これまで上手く集客出来ていた面がおおいにあったことが露呈することになった。