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人海戦術は時代遅れ テクノロジーがメディアの質を左右する時代に

細野氏とJX通信社のオフィス

細野氏とJX通信社のオフィス

 ニュースの現場で、SNSが無視できない存在になった。新聞社や放送局の記者も大きな事件・事故・災害があれば、その詳しい情報や写真、映像などをSNS で探すことも当然の仕事になっている。またSNSは、これらの出来事が発生したことを知るきっかけとしても有効だ。

 JX通信社(米重克洋社長)は、SNSからニュースに値する情報を選び出し、主に報道機関向けに配信する「FASTALERT」(ファストアラート)や一般向けの無料アプリを提供し、ユーザーを広げている。報道ベンチャーを自認する同社が目指すのは、テクノロジーを利用することで「人間が人間にしかできないことに集中する」こと。「労働集約型の報道現場にテクノロジーを掛け合わせることで報道の質も高まり、新しいワークフローができる」という。

技術がメディアの競争力に直結

 「報道にとってIT、テクノロジーが無縁ではなくなり、テクノロジーがメディアの競争力に直結し得るようになった」。こう語るのは同社取締役兼COOの細野雄紀氏。

報道機関向け「FASTALERT」の画面

報道機関向け「FASTALERT」の画面

 「FASTALERT」は、国内外のニュースサイトやツイッターなどSNSをモニターし事件・事故、災害を覚知。また他社の報道を監視し、有意な情報があれば契約社にアラートを出す(写真)。同社は社員24人のうち、エンジニアが17人を占める。通信社だが取材・編集経験者はいない。大部屋のオフィスで、エンジニアがパソコンと向き合っている。

 一般向けには無料アプリ「NewsDigest」(ニュースダイジェスト)も提供している。GPS情報などを利用し、ユーザーの生活圏内での事件事故を配信する。地震速報や<東京 港区で火災の情報相次ぐ>といった速報が入ってくる。

 阪神高速道での豚逃走(2016年6月)、福岡のJR博多駅前の道路陥没事故(2016年11月)、九州北部豪雨(2017年7月)、さらに歌手の松山千春さんが新千歳空港で出発が遅れた機内をなごませるため「大空と大地の中で」をアカペラで歌ったという話題など。ここ数年、SNS発の写真や映像がマスメディアで流れたケースを挙げるときりがない。小さな話題を含めると、膨大な件数になるだろう。

 単純にSNSのインフルエンサーを追いかけるだけでは、ニュースに値する情報を素早く検知することはできない。「FASTALERT」の基盤となっているのが、同社の「XWire」(クロスワイヤ)と呼ばれるニュースエンジン。自然言語処理と機械学習という人工知能(AI)技術によってSNS投稿をスコアリング、重要度を判断しニュースに値する情報を配信する。また、投稿の拡散、コメントの広がり方やなどで、トレンドや流行もキャッチできるという。

衆院選世論調査すべて的中

 報道機関の関心がSNSに向かった転機は、2011年の東日本大震災だった。電話が使えない中、SNS発の情報が被災状況を把握するのに有効だったからだ。以降、大手放送局を中心に、アルバイトを使った人海戦術でツイッターなどを監視するSNSリスニングが始まった。さらに、迫力ある写真や映像がSNSに投稿されることが繰り返されるたび、SNSの有用性が認識され、メディアによる利用が加速している。

 しかし、SNS情報の大半はニュースとしてはノイズで、人を常時張り付けるには効率が悪い。また、モニターする人間には集中力と体力の限界がある。そこで当然考えられるのは、機械による巡回だ。こうして、全国の放送局や新聞社で、「FASTALERT」や他社が提供する同様のSNS検知システムの導入が進んでいる。また、災害対応目的として、自治体での利用が広がる可能性がある。

 同社は「FASTALERT」「NewsDigest」のほかに、「クラウドRDD」(ランダム・デジット・ダイヤリング。コンピューターで無作為に組み合わせた数字で電話番号を作り調査する方法)による電話世論調査サービス「ユアサーベイ」も提供している。従来の方法と異なるのが、自動音声による調査と集計の自動化だ。2017年10月の衆院選では、東京都内の各党の獲得議席数を事前に公開し、全政党で的中させた。

2017年衆院選の予測(JX通信社提供)

2017年衆院選の予測(JX通信社提供)

 細野氏は「人間が聴くとバイアス(偏向)が出る」と述べ、その典型例として2016年の米国大統領選を挙げる。報道機関や世論調査会社による事前予測はほぼすべて、クリントン氏有利だった。世論調査が選挙結果を読み間違った背景には、実際にはトランプ支持者が調査では本音を告げなかったことがあると言われている。また日本でも、論調の異なるA新聞とB新聞の調査に対して、回答者が対応を変える傾向があることも指摘されている。

 細野氏は「自動音声による調査であれば、バイアスがかかりにくい。集計にも人の手をかけないため、低コストで早い調査が可能。短いローテーションのトレンド調査(一定期間ごとに、調査対象の時間的な変化や傾向を把握する目的の調査)も実施できる。人手に頼る既存の方法は成立しにくくなっている」と胸を張る。同社の世論調査はすでに一部の報道機関も利用し、精度の高さで評価を得ているという。

コンテンツ自動生成も

 同社は2016年シーズンから、サッカーJ1(当時)の湘南ベルマーレに、写真や動画、文章のコンテンツ自動生成システムを提供している。選手の写真などのデータを基に「XWire」によって、試合前のスターティングメンバーや試合後のスタッツ(統計データ)をほぼリアルタイムで生成し、ツイッターや会場で提供している。熟練者が数時間かかる作業が、ほぼゼロコストになるという。

 テクノロジーは日々、進化し続けている。同社が目指す未来には、人の手を介さずにニュースコンテンツを生成し、編集、配信することも視野にある。

 いまも新聞社や放送局では、宿泊を伴う勤務や夜間の警察署取材が行われている。「警戒電話」と称して、深夜を含む定時に警察署や消防署に電話をかけ、火災や事件などのいわゆる発生モノや発表の有無の確認をしている。また「しょせん、ネットの声」と、SNS情報を軽視する風潮も残っている。

 一方で、コンテンツ消費の多様化で新聞は部数と広告が減少、放送局も視聴率の低下傾向が続く。従来のビジネスモデルが崩壊しつつある中、人手に頼った従来の仕事のあり方も通用しなくなっている。SNSリスニングのように、機械で代替できる作業は機械に任せ、人間にしかできない仕事に特化していくのは、必然の流れかもしれない。

 細野氏は「テクノロジーはまだまだ発展の余地がある。コスト削減だけではなく、技術力がコンテンツの競争力に直結してくる」とみる。テクノロジーを使いこなせるかで、報道の質・量に差が生まれるーテクノロジー企業が指摘する未来が、すぐそこにきているようだ。

田中 徹 Written by
北海道新聞で記者を経て現在、東京支社メディア委員。デジタル分野のリサーチ、企画などを担当。共著書・編著に「頭脳対決!棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)、「AIの世紀 カンブリア爆発 ―人間と人工知能の進化と共生」(さくら舎)など。@TTets