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デジタル時代に記者が生き残るために「切り口」「柔らか視点」 沖縄タイムス 与那覇里子さん

首都大学東京大学院でデジタルコンテンツ制作などを学ぶ与那覇里子さん

首都大学東京大学院でデジタルコンテンツ制作などを学ぶ与那覇里子さん

 人工知能(AI)や仮想現実(VR)、さまざまなウェブ表現-デジタル技術の進歩と高度化、多様化は新聞記者に求められるスキルに変化を迫る。

 沖縄県の日刊新聞「沖縄タイムス」の記者、与那覇里子さん(35)は現在新聞社を休職中。首都大学東京大学院でデジタルコンテンツ制作などを学ぶ。在職中に制作した<沖縄戦デジタルアーカイブ 戦世からぬ伝言>(2015年)で注目を集めた与那覇さん。「記者として生き残るためには、勉強する時間が必要、30歳半ばは転機で、外で勉強し直すにはいい機会」と語る。

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「これ、何か分かりますか?」。戦前の沖縄、市場と思しき写真の片隅に映っている、得体の知れない何か。答えは、恐らく海藻という。「人間が分からないものは、AIでもカラーにできないようです」

 沖縄タイムスと朝日新聞、首都大学東京の渡邉英徳准教授のチームは、沖縄戦の10年前、1935年に現地で撮影された黒白写真を、AIでカラー化することに取り組んでいる。戦前の写真は沖縄戦でほとんどが焼失し、貴重だという。

「外部の専門家と繋がることがすごく大事だと実感しています。記者のころは表現方法に関しては、あまり考えたことがなかった。プリント(紙)とデジタルは何が違うか? 見せ方まで自分(記者)が考えなければならないことだった」という。

 与那覇さんは、那覇生まれで千葉大学教育学部卒。数学を専攻し小中高の教員免許も持っている。しかし、卒論は「ギャルの研究」。「大学で数学に挫折して乗り換えました」。

 ギャル研究の経験が、記者になってからの「切り口」「柔らか視点」につながる。2007年に沖縄タイムスに入社すると、こども新聞「ワラビー」、社会部(環境、教育などを担当)などを経てデジタル部へ。社会部では遊軍記者として辺野古埋め立ての環境アセスメント、教育、教科書検定問題などを担当した。

 デジタル部へ異動した2014年、「具志頭村〜空白の沖縄戦」をGIS沖縄研究室と共同制作した。Geoアクティビティフェスタで奨励賞などを受賞した。これがきっかけで在京のデジタル人脈が広がり、現在の指導教官である渡邉英徳教授と縁ができる。

沖縄戦デジタルアーカイブ 戦世からぬ伝言

沖縄戦デジタルアーカイブ 戦世からぬ伝言

 それが<沖縄戦デジタルアーカイブ 戦世からぬ伝言>に結実する。記者30人が白地図を手に当時の避難経路などを聞き取った。約5000人の属性と戦没者の位置情報を分析するのに3ヶ月ほどかかったという。「沖縄戦は沖縄ジャーナリズムの大事な視点。ウェブで効果的に見せたら多くの人に届くと思った。これを持って(小学校などの)出前授業に行くと、みんな食い入るように見てくれた」という。文化庁メディア芸術祭入選など高い評価を受け、全国的に注目された。

 イマーシブ(没頭型)と呼ばれるこうした表現手法は2012年、ニューヨーク・タイムズが「Snow Fall」で雪崩事故を扱った特集が先駆け。日本では2014年、ソチ五輪の競技終了直後に朝日新聞が「浅田真央 ラストダンス」を公開、SNSで一気に拡散し広く話題になった。

 与那覇さんも「ラストダンス」に感嘆した記者の一人。人員や予算の制約がある地方紙でのイマーシブ・コンテンツ制作は難しいと考えがちだ。しかし「沖縄戦デジタルアーカイブ」は、地方紙でも切り口と知恵、工夫と情熱で実現できることを示した。

「もう違う時代だと実感」異動を希望

 新聞社の王道は昔も今も、政治、経済、社会の各部。社会部からデジタル部門への異動希望はまれだ。与那覇さんはなぜ、デジタル部への異動を希望したのか。

「外部の専門家と繋がることがすごく大事だと実感しています。デジタルでは、見せ方まで記者が考えなければならない」

「外部の専門家と繋がることがすごく大事だと実感しています。デジタルでは、見せ方まで記者が考えなければならない」

 転機は社会部にいた2011年の東日本大震災。「取材で電話はつながらないけどツイッターだけはつながった。もう違う時代なのだなと実感した」こと。加えて「デジタルの方が仕事の幅が広がるのではないかと思って。自分の持ち味は柔らか記事の切り口だと思い、デジタルでやりたかった」

 与那覇さんはデジタル時代の記者には「ネタを探して記事を書くという従来のスキルに加え、切り口をひねり、読み手に分かりやすく記事を見せていく能力も求められる」と考える。もちろん、デザインも重要だ。加えて「ネットだと“署名読み”もされる。SNSによって、組織にいても、誰が書いた記事なのかはより明確になった。これまでのメディアになかった世界だと思う」

 「切り口」と「柔らか視点」-。与那覇さんの言う“署名読み”の意図が垣間見えるのは、ヤフー個人に執筆した「なぜ沖縄の成人式は“ド派手”になったのか?

 しばしば“荒れる”として全国的に取り上げられる沖縄の成人式。しかし、なぜ荒れるのか、コンテクストまでは踏み込むことはない。「全国的には“荒れている”で済まされるけど、本当はそんな単純なことではない。地元にいると当たり前に思える気がして書かないけど、東京から見ると沖縄のコンテクストを理解することは難しい。読者にコンテクストを読み込む能力を求める前に、どうしたら理解されるのか考えないといけない。地方発のデジタル記事は、コンテクストを丁寧に説明した立体的なものにしないとならないと思う」

 プリントとデジタルでは、デザインはもちろん記事の切り口や視点、さらに文章作法も異なってくる。そうしなければ「結局、地方紙のウェブではコンテクストのない事件事故、猥褻事件ばかりが読まれることになる。PVを事件事故に頼るよりも新聞社にしか書けないものをネットで出していかないと、新聞社の存在意義が薄くなってしまわないか」という危機感は、地方紙の記者の少なくない人間が共感できるはずだ。

 与那覇さんは4月に復職し、沖縄に戻る。仕事をしつつ修論を書く予定。テーマは「地方の情報を伝播しやすくするメディアデザイン手法の研究」。「AIによるカラー化も、仕事にいろいろ応用できそう」

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田中 徹 Written by
北海道新聞で記者を経て現在、東京支社メディア委員。デジタル分野のリサーチ、企画などを担当。共著書・編著に「頭脳対決!棋士vs.コンピュータ」(新潮文庫)、「AIの世紀 カンブリア爆発 ―人間と人工知能の進化と共生」(さくら舎)など。@TTets